Crimson Fang:プロローグ
こちらは『Crimson Flow』の続編となっております。
※血やグロテスクな表現が苦手な方はご注意ください
月の光が闇をいっそう濃く作り出すその日。
女性は仕事帰り、駅へと向かう途中だった。
足下に転々と黒っぽい染みが落ちていて。
彼女は何気なくそれを目で追う。
その先はビルが影を落としているが街灯により完全に暗闇にはなっていない。
何かいる。
暗がりでうずくまる何か。
その何かと目が合った次の瞬間、彼女は引きつった悲鳴を上げていた。
その悲鳴が引き金になったかのように、それは目でとらえられないほどに速く女性の腕に噛みついた。
しかし血の滴るのを見て、怯えるように牙をはなす。
悲鳴に気付いて駆けつけた人々は逃げ去って行く巨大な犬の姿を見たと言った。
「あれは、犬なんかじゃない。化け物でした」
それは人間と獣の間のような姿をしていた。
後日になって、唯一その姿をはっきりと目撃した女性だけが証言した内容は表立って取り上げられる事はなかった。
世間的には野犬騒動として認知されるに止まる。
しかし、裏腹に、人々の知らないところでこの事件は大きく動いていく。
闇を知るほんの一握りの人間と、闇に属する者だけがそれを知っていた。