隣の草薙さん:エピローグ
それからというもの、楓之進は度々榊河の家を訪れては蒼に手合わせをせがむようになった。
その日も早朝からやって来たと思えば、準備運動とばかりに成一郎の道場の門下生達をばったばったと投げ倒している最中だ。
門下生の中には妖の血を引く者もいるのだが適わないほど、楓之進はやはり相当に腕が立った。
「また来てるんだけど!」
「ちょいと相手をしてやればいいだろう。減るもんでなし」
「洗濯物が片付かない!どういうつもりなんだ!?」
蒼は中庭で洗濯用の桶を抱えたまま、納得いかない顔で主を見ている。
こうなったのも成一郎が蒼の正体を明かしたせいだと言いたげに。
ほうきが投げ捨ててあるところを見れば伊緒里はとっくに掃除をほったらかして道場の様子を見物に行ってしまったようだ。
このままでは掃除も終わらない。
やれやれといったように成一郎は頭をかいた。
「どういうつもりって、あの男に言った通りだよ。味方は多い方がいいだろう?」
成一郎の視線が虚空に投げられ、そこにない何かを見つめる。
「これからこの国は変わる。時代が動き動乱が起こるよ。進むべき道を示す者が現れるまで人の世は混乱し、人の心が乱れれば魔性が多く生まれるものさ。人にも妖にもね。そんな時に仕事の邪魔をされては厄介だ。こちらに取り込んでおくにかぎるさ」
それは彼の本音だっただろう。
成一郎の言葉通り時代のうねりはやがて大きくなり、人も妖も巻き込んでゆく。
人は変化を受け入れるのに時間がかかる。
受け入れてしまえばなんて事はないのに反発は必ず生まれるのだ。
それに伴って生じる歪み。
激動の時代の裏でもやはり光と闇の秩序を保つ役目を榊河は担わねばならない。
それが過去から現代へと脈々と受け継がれる榊河の営みの一部であるのだから。
番外編第二弾は楓太のご先祖様と榊河家の出会いの物語でした。
幕末好きです!
なので幕末の話を書いてみたかったのですが、残念ながらあまり詳しくないもので。
ほのぼの話を書きたかったということもあり、さらーっと日常を描いた話になってしまいました(汗)
読んでいただきありがとうございました。