暴言クソ野郎に婚約を申し込まれている? らしいので、暴言を返すことにした
※タイトルの通り、主人公が暴言を返します。
※人によっては親子関係の地雷あり。
誤字直しました。ありがとうございました。
わたしは、嫌いなモノとはなるべくなら関わり合いになりたくない。
そういう性格をしている。冷めていて可愛げが無い、ともよく言われる。
だというのに、わたしが廊下を歩いていると・・・
「おい、ブス! お前、ブスのクセに道の真ん中を通りやがって、目障りなんだよ。さっさと退け! 不細工はもっと端に行け!」
ニヤニヤした顔の少年が、わざとわたしの肩にぶつかって来て言った。
廊下は数人が通れるくらいの幅があって、混んではいない。だというのに、明らかにわざとぶつけられた肩が痛む。もしかしたら、また痣になっているかもしれない。後で保健室に行って、ちゃんと確認しなきゃ。
「っ……」
痛む肩に顔を顰めて通り過ぎようとしたら、
「お前、俺にぶつかったクセになんにも言わないのかよ?」
またもやニヤニヤした顔が言った。
さっさと退けと言ったクセに、こうやって絡んで来る。本当に意味がわからない。
ニヤニヤした顔が気持ち悪い。
中等部に入学した頃から、こうだ。わたしのなにが気に食わないのか、毎度毎度顔を合わせる……というか、向こうがわたしを見掛ける度、こうやって一方的に嫌がらせをされる。
言葉を返したりリアクションを返すと余計に面倒なことになるので、無視を決め込む。
以前に言い返した際は、突き飛ばされて怪我をした。転んで膝を擦り剥いて血が出た。それを見たこのクソガキが真っ青になり、無理矢理保健室に連れて行かれた。
さすがに流血沙汰はまずいと思ったのか、保健室に向かう途中、自分が怪我をさせたことは黙っていろと口止めをされた。
しかも、自分で怪我をさせたクセに謝りもせず、「お前みたいな地味女を、わざわざ保健室へ連れて行ってやったんだから、俺に感謝しろよな」だとか、宣われた。
厚顔無恥で恩着せがましいクソ野郎だと思った。誰が感謝するか。
それからは、流血するような怪我はさせられてはいない。打撲や痣などの生傷は絶えないけど。
一度、親に怪我をさせられたことを言った。けれど、わたしの話をおざなりに聞いて、「お友達と仲がいいのはわかるけど、お転婆も程々になさい」と言われた。
おそらく、両親はわたしに対する関心が薄い。長男である兄と、妹のことで手一杯なのだろう。真ん中のわたしは、兄と妹よりも優先順位が低い。
兄と妹の話だと、くだらないことでも真剣に聞くのに。わたしが困ったことがあると言っても、適当な返事を返され・・・
最後には、こう言われて終わる。「問題を起こさないでちょうだい」と。
両親はわたしに、兄にとっての良い妹、妹にとっての良い姉、静かで手の掛からない子であれ。ということを常に求めているのだろう。
まぁ、子供同士で年の近い兄弟の真ん中の子は、余所の家(友人の真ん中令嬢から聞いた)でも大体そういう立ち位置を求められているようだから、うちだけがおかしいというワケでもない。多分。
だから、家の中でも学園でも、静かに過ごすことを望んでいるのに・・・
「おい! 無視すんなよブス!」
と、喚くクソガキを置いてわたしは次の授業へ向かった。
一応、地味であることは自分でも認めるが。わたしは、何度もブスや不細工だと連呼される程の顔はしていない……と、思っている。
この学園が、男女でクラスが別れている制度でよかった。なんて思いながら教室に入ると、
「また絡まれてたわね」
クスクスと笑う女子生徒の囁きが耳に入る。
「あの方、本当に素直じゃないんだから」
「そうね。もっと素直に、紳士的に接すれば彼女もきっと……」
「あら、そこが可愛らしいんじゃない」
などと、よくわからない会話が交わされている。まぁ、わたしには関係無いけど。
休憩時間をどう過ごそう? どうすれば、あのクソガキに遭遇せずに済むだろう?
と、ウザ絡みをして来るクソガキを、どうやって躱すかを考える。
あのクソガキは、暴言を吐いて攻撃する程わたしのことが嫌いなクセに、やたらわたしに接近して来る。どんなに避けても、移動教室やお昼休みに待ち伏せしたりして、わたしに暴言を吐く。
そんなクソガキは、誰でも彼でも暴言を吐いて、あのような態度を取っている……というワケでもないらしい。
普段はそんなに目立たない生徒らしく、わたしにだけ、あのような態度を取っている……ようだ。見たことないから知らないけど。
そんなに嫌いなら、視界に入れなければいいのに。わざわざ探し出してまで攻撃する意味が、心底わからない。
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そろそろ中等部も卒業。高等部に上がる日が近くなって来た、ある日のこと。
いつものようにウザいクソガキに絡まれ、うんざりした気分で帰宅すると、父から大事な話があると言われ・・・
告げられたのは、あのウザ絡みをするクソガキの家から、婚約が申し込まれているとのこと。
「お前にとってはいい縁談だから、受けようと思っている」
なんて言われて、
「嫌です。断固拒否します」
そう断ったのだけど――――
「あらあら、可愛らしいお嬢さんね。良かったわね、あの子がうちにお嫁に来てくれるなら、わたくしも嬉しいわ」
にこにこと微笑む貴婦人を、完全に無の表情で見やる。
断固拒否をしたが、週末の早朝。
まだ寝ていたところを使用人達とお母様に強襲され、あれよあれよと風呂に突っ込まれ、ドレスを着せられて無理矢理飾り立てられ、朝食も食べさせてもらえずに、馬車に乗せられ、お見合いの席へとドナドナされてしまった。
最悪だ。
「うちの娘ったら、愛想が悪くてすみません」
母が言う。
全く以て乗り気じゃないのだから、愛想が悪いのも機嫌が悪いのも当然だ。
「ハッ、ブスの割に飾り立てたじゃないか」
ニヤニヤ笑いながら、いつものように暴言を放つクソガキ。そして、一瞬の間が空き・・・
わたしは、ほんのちょっとだけ期待した。
「もう、この子ったら照れちゃって。ごめんなさいね? 本当は、お見合いの話を持って行った当日からずっとそわそわして、今日をとっても楽しみにしてたのよ」
にこにこと、口先だけの謝罪で。クソガキを窘めもせずに、楽しそうに話す夫人。
まぁ、クソガキの親がクソガキを咎めるかも……なんて、するだけ無駄な期待だったようだけど。
「なっ……母上!」
顔を真っ赤にしたクソガキは、
「いいか、そんなんじゃないんだからな! 勘違いするなよ! 俺はただ、お前みたいに地味でブスな不細工女には嫁の貰い手が無いだろうからっ、ボランティアで見合いしてやってんだ! ボランティアでな! ありがたく思え!」
なんぞ意味不明なことを喚いている。
マジで五月蠅いな。わたしの耳は奴の声を騒音と認識しているようで、奴に喚かれると不快だ。気分が悪くなる。
ちなみに、わたしの両親はわたしがここまで言われているというのに、クソガキを微笑ましそうな顔で見ている。奴の暴言に、怒る気配すら無い。なんて酷い親だ。
普通は、自分の子がここまで言われたら多少なりとも不快に思うものではないだろうか?
クソガキのどこが、いい縁談なの?
けれど、周囲の顔を見る限り、不快な気分になっているのはわたしだけのようだ。
わたしの味方は、この場所に一人もいない。
「聞いてんのか、ブス!」
「こら、やめなさい。もう、本当にこの子ったら口が悪くてごめんなさいね」
さすがに今のは酷いと思ったのか、軽く窘める。けれど、相変わらずにこにこと笑っている夫人。
「照れてるだけなのよ。本当は、あなたのことが大好きなのに」
「はあっ!? そんなんじゃないって言ってるじゃないですかっ!?」
顔を赤くしてなんぞ騒いでいるが、そんなことよりわたしはお腹が空いている。
しかし、この場で食べる食事はきっと美味しくない……いや、むしろマズいだろう。
マズい食事をするか、それとも空腹を我慢するか、どうするべきか・・・
そう悩んでいたら、
「おいブス! 俺のこと無視してんじゃないぞ!」
クソガキがウザ絡みをしようとしている。
よし、帰ろう。
「お見合いの席に顔は出したので、一応の義理は果たしました。わたしは失礼させて頂きます。ちなみに、婚約の申し込みに対するお返事なのですが、わたしはあなたとの婚約は断固拒否します。理由としては、その暴言。わたしには耐えられません。別の女性と結婚してください。では、帰ります」
「へ?」
ぽかんとした間抜けな顔に、
「なっ、なに言ってんだよっ!? お前みたいなのと、この俺が見合いしてやってんだぞっ!? 涙流してありがたがるべきだろうがっ!?」
よくわからない焦燥が浮かんでいる。
「いえ。至極迷惑です。できれば、二度とわたしに関わらないで頂けます?」
「な、なん、でっ……そんな、こと言うんだ、よ……」
泣きそうな、悲しそうな顔が、縋るようにわたしを見詰める。すると、
「ごめんなさい。うちの子も意地を張っちゃって。ほら、ご子息に謝りなさい」
焦ったように母が言った。暴言を吐かれ続けているわたしに、暴言を吐いている奴へ謝れ、と。
「いえいえ、こちらの方こそ。うちの息子の口が悪くてごめんなさいね? でも、本当に素直になれないだけなの。だから、息子にもう一度チャンスをくれないかしら? 婚約したらきっと、あなたのことを大切にすると思うの。ね? お願い」
困ったという顔で、けれどクソガキをゴリ押しして来る夫人。
「・・・わかりました。では」
「ハッ……なんだよ、ブスのクセに、生意気に口答えしてんじゃねーよ。お前が、どうしてもって言うなら、仕方ないから、別に俺はお前と婚約してやっても……」
安堵したという表情で、なにやら気持ち悪いことをごにょごにょ言うクソガキを無視し・・・
普通の会話ができない、わたしの言葉が届かないというなら、仕方ない。わたしは、覚悟を決めて口を開く。
「おい、そこのブス」
「「……え?」」
遅れて、間抜けな声を上げるうちの母親とクソガキの母親。
「なに間抜けな顔してんだよ、お前のことだよ。お前みたいな地味でパッとしない女が、真ん中の席に堂々と居座ってんじゃねーよ。他人様の迷惑になるから、さっさと退け。目障りなんだよ。聞いてんのか? ったく、顔も悪いなら、耳まで悪いのかよ? それとも、悪いのは言葉を理解できない頭の方か? 人を不快にさせんなよな、このブスが」
クソガキがよくわたしへ向けている蔑みの眼差しと半笑いの顔を真似て口にすると、夫人の顔にサッと朱が上った。
「な、なに言ってるのあなたはっ!? 今すぐ謝りなさいっ!!」
バシっ! と、頬への衝撃。次いで、わたしを叩いた母の怒声が響く。
ピリピリと痛む頬。けれど、俯かない。頬を押さえることもしないで、傲然と胸を張る。
「お前っ、母上になんてこと言うんだっ!?」
と、激昂してわたしを睨むクソガキや、怒りを滲ませる親共を、冷めた目で睥睨する。
「あら、皆さん。なぜ怒っているのですか? わたしが、先程から彼に言われ続けているような言葉じゃないですか? ほら? 先程からずっと『ブス』だ『地味女』だって、わたしは言われているじゃないですか? ご子息の『ブス』という暴言や、酷い態度は全部照れ隠しで、微笑ましいのでしょう? なのに、わたしの言った言葉は、笑って流してはくれないのですか? 奥様は、もしご自分の旦那様にあのような言葉を掛けられたら、『あら可愛らしい、照れているのね』と言って喜ぶのではないのですか? 嬉しくないのですか? ほら、笑ってくださいよ。わたしに、『照れているだけなのね。もう、素直じゃないんだから』と言ってくださいよ。お母様も、怒っていないで。『うちの子は照れ屋なので、気にしないでくださいね』と言って、笑ってくださいよ」
わたしの淡々とした言葉に、空気が凍る。
「な、なに言ってんだよ、お前」
怯えを孕む視線に、震える声。
「は? 気安く話し掛けんなよ、このクズが。お前みたいに低能で低俗で、下品で下劣、暴力的なクソ野郎に話し掛けられて、わたしが喜ぶとでも思ってんの? 馬鹿なの? ああ、馬鹿だったっけ。大した顔してるワケでもないし、取り立てて才能があるワケでもない。全部が中途半端なクセに、自分がモテると思ってる、イタい勘違い野郎が。誰がお前みたいな奴のことを好きになるか。いい加減、自分が嫌われてんの気付け。キモいんだよ。存在自体が目障りだから、わたしの前から消えてくれない?」
そう言うと、クソガキの顔が蒼白に変わり、次々と涙が零れ落ちた。
「あら、どうして泣くのです? ほら、あなたがそうだったように。わたしも単に、照れ隠しでこう言ってるだけかもしれないでしょう? 笑ってくださいよ。喜びなさいよ。ほら? なに泣いてんだよ、うぜぇな。わたしは一度も泣かなかったのに。男のクセに、これくらいで泣くのかよ? 同情買ってるつもりか?」
鼻で嗤って淡々と続けたわたしの言葉に、
「不っ細工な泣き顔晒してんじゃねぇよ。女々しくてキモい奴だな」
嗚咽が酷くなり、
「なにショック受けてんだよ? お前が、これまでわたしにして来た言動は、こんな言葉の比じゃないだろうが? 公衆の面前で罵倒されるわたしの気持ちなんか、考えたことないだろ。人を罵倒して悦に入るクズが。自分が言い返されたら、みっともなく号泣かよ? なんとか言ったらどう? ほら、わたしが、勘違い低能、下劣なクズ野郎であるお前に、こうしてわざわざ話し掛けてやってやってんだから、ありがたがれよ。喜べよ。愚図愚図泣いてないで、なにか言ったらどうなの? この、勘違い醜男が」
みるみるうちにクソガキは、真っ赤な顔で号泣。ぼろぼろと涙が、そして鼻水が垂れる。
「それで、こうやってボロクソ言われるのは嬉しい? 楽しい? 声を掛けてくれてありがたい?」
返事は、無い。
「・・・汚い面だな。どっか消えろよ」
蔑みながら低く言ったわたしへ、大人達はなにか恐ろしいものを見るような視線を向けている。
「どうしたんです? ついさっきまで、彼がわたしを馬鹿にして、暴言を吐いていたときには、皆さん微笑ましいという顔で笑って見ていたじゃないですか? なんでそんな顔をしているんです? 笑ってくださいよ。所詮、子供のすることなのでしょう? 大人になって分別が付けば、直るのでしょう? それまで、長い目で見てほしいのでしょう? まさか、彼がわたしにして来たことは、『笑って許される』のに、わたしが今ちょっと言った言葉を『許さない』、だなんて言わないですよね? 彼にはチャンスを求めるのに? わたしは三年間ずっと、彼にあのようなことを……いえ、もっと酷い態度を取られて来ているのですが? 子供の、照れ隠しの言動は、暴言でも微笑ましいのでしょう? 突き飛ばされて転ばされたり、わざとぶつかられたり、強く腕を引かれたり、髪を引っ張られたりして、何度も何度も怪我をさせられて、学園のみんなの前で罵倒されて、そんなことをするクソ野郎のことを、わたしは心底嫌っているのに。その彼の心情とやらを汲んで、こうして無理矢理お見合いまでさせられているのに。彼と同じ年齢の、子供であるわたしを、差別するのですか? それともまさか、皆さん。わたしが彼に馬鹿にされて、暴言を吐かれて嫌がっている姿を見て、楽しんでいたのですか? それはそれは、嗜虐趣味というとんだ下衆な嗜好をお持ちなことで。楽しかったですか? 面白かったですか? わたしが苦しんでいる姿を、嫌がっている姿を、皆さんで囲んで、寄って集って、嘲笑うのは」
しん、とする席。泣きじゃくる彼。
「ほら、なにか言ってくださいよ。お父様もお母様も、彼の言葉通り、わたしのことをブスだと、不細工だと、地味で可愛くないと思っていたから、笑っていたのですよね? 楽しかったですか? 実の娘が馬鹿にされている姿は」
と、応えを促しても、みんな絶句したまま。
では、確実にこの縁談をぶち壊すために、更に奥の手を披露しよう。
「ちなみにですが、わたし。中等部に入学した頃から、ずっと記録を付けているんです。彼に突き飛ばされたり、わざとぶつかられて怪我をさせられたことを。学園の保健室にも、わたしが怪我をした記録が残っていると思います。わたしを無理矢理婚約させるというのでしたら、教会や学園に、彼の暴力行為を訴えようと思いますので」
暴力や、クソガキに言われた数々の暴言の記録。これを提出すれば、婚約させられたとしても解消に持ち込めるだろう。残念ながら解消にまでは持ち込めなかったとしても、教会に保護してもらえるはずだ。
教会に訴えれば、ことなかれ主義の学園だって動かざるを得ない。
最悪、命の危険を感じると言って大袈裟に騒げばいい。幸い……と言っていいのか、クソガキの家と我が家は、さして爵位や資産の差も無い。政略の意味も大して無いはず。
クソガキとの縁談が破談になっても、クソガキの家に恨まれようとも、わたしは全く困らない。
暴力事件だなんだと騒ぐと、わたしの瑕疵になって、今後の結婚などに支障が出るかもしれないけど・・・わたしは、この暴言クソ野郎と結婚させられて、一生コイツに縛られることの方が、我慢ならない。
そんなわたしの、覚悟を以て宣言した言葉に、大人達は顔を蒼白にした。
「す、すみませんが、今日のところはお開きに……」
絞り出すような震える声で、お見合いの席はあっという間にお開きになった。
・・・並んでた美味しそうな軽食、食べ損ねたっ!? 今日は朝から、なにも食べてないのにっ!
なんて残念に思いながら、俯く両親と馬車へ乗り込む。なにか言いたげな視線を感じるが、わたしが視線を向けると父も母も、なにも言わずに顔を伏せる。
そんな居心地の悪い時間を過ごし、ようやく家に着いたときにはお昼過ぎだった。
予定よりも大分早い帰りと、両親の悪い顔色に、出迎えた使用人達がみんな驚いていた。
お腹が空いたと訴えたら、お昼は食べて来ると思っていたとのことで、昼食は用意していないと言われた。
結局、昼食も食べ損ねた。
慌てて用意してもらったティータイムの軽食を、ガッツリ食べた。ヤケ食いだと思われているのか、なんだかわたしの好きな物がたくさん出て来た。
ヤケ食いというよりは、わたし的にはむしろ、お祝いな感じなんだけどね?
✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧˖°⌖꙳✧
それから――――葬式があった後のように静かな数日を過ごした後。
両親にも謝られたけど……なにに対する謝罪なのか、全く要領を得なかった。
両親はわたしのことを、『ブス』や『不細工』だなんて思っていないそうで。わたしの幸せを願っているのだとか。
まぁ、今更釈明されてもねぇ?
お見合いの席で暴言を吐き続けていた彼を、暴言を掛けられ続けていたわたしを、怒りもせずに、微笑ましそうな顔で笑って見ていて?
あのクソガキに嫁いで、わたしが幸せになれるとでも?
本当、白々しい。
当然ながら、お見合いの話は最初から無かったことになった。
それと同時に、奴の家から丁寧な謝罪文と結構な慰謝料がわたし宛に届けられた。
「もっと早く、暴力を受けていたことを相談してくれれば、あの縁談を断ったのに」
と、恨めしげな顔で両親に言われた。
けれど、わたしは以前に彼のことを相談した。そのときの答えはこうだった。
「前にわたしが彼に怪我をさせられたと言ったときには、『お友達と仲がいいのはわかるけど、お転婆も程々になさい』って、そう言ったでしょう? まぁ、お父様とお母様が、わたしへの関心が薄いことはずっと前から判っていましたし。相談するだけ無駄だと気付きました」
「そんなことは……」
「それに、お父様とお母様は、わたしが馬鹿にされても笑って見ていましたが。もし、お兄様が馬鹿にされたら、同じように笑って見ていられましたか? もし、妹が馬鹿にされたら、笑って見ていましたか?」
ばつの悪そうな顔で黙る二人。それが答えだ。
「お父様もお母様も、問題を起こさなければ、わたしのことなどどうでもいいのでしょう? そして、わたしの問題など、煩わしいだけなのでしょう? わたしのことなど、できれば構いたくないのでしょう? お父様とお母様にとって、『都合の良い子』じゃないわたしに、価値なんて無いのでしょう? わたしのことは今まで通り、放置してください。ああ、いえ……無視してくれても構いませんので」
そう言うと、父親は絶句。母親は泣いた。
それからのわたしは・・・家で腫物に触るような扱いをされるようになった。
父も母も、ビクビクと怯えるような視線でわたしを窺う。兄と妹は、わたしの婚約が破談になったから両親が気を遣っているのだと思っているようだ。
まぁ、そんなことどうでもいいけど。
学園では――――
あのお見合いの後から、嘘のように彼がわたしへ絡むことをやめた。
偶に顔を合わせると、泣きそうな顔で、震える足でどこかへ向かう。
自分はわたしに長年酷い言動を取って、間接的な暴力まで振るっていたクセに。あの、お見合いの席で、ほんの少しわたしが言い返しただけで、心が折れたらしい。
どうやら、わたしのことがトラウマになったようだ。メンタル弱いな?
まぁ、いい気味だと思うけど。
結局、彼がわたしを好きだったのかは不明だ。彼の母親がそう言っていただけで、わたしは彼に暴言しか吐かれた覚えが無い。彼からの好意を感じた瞬間など、一度も無い。
万が一、彼がわたしのことを好きで、照れ隠しとして暴言や酷い態度を取っていたとして、だ。自分に危害を加えてばかりの男を好きになるはずが無い。
それにしても――――ウザ絡みをするクソガキがいない日々って、なんて平和で快適なのかしら♪
ああ、素晴らしい日々よ続け♪
・・・とは思うけど、偶に視界に入る人達が不快だ。けれど、ここに暮らしていると、どうしても目に入ってしまう。わたしは、嫌いなモノとはなるべく関わりたくないのに。
ああでも、それなら・・・
わたしの方が、どこかへ行こうかな? 慰謝料は、わたし個人の名義で銀行に預けてあるし。結構な額だけど、使う予定も無い。嫌な奴らのいない場所……そうだ、どうせなら外国にでも永住しようかしら?
目の前でわたしへ暴言を吐き続けていたあのクソガキに、積極的にわたしを嫁がせようとした両親とは縁を切って・・・
一人で、生きて行く。
うん。いい考えかも♪
一応わたしはまだ未成年で、親の庇護下にいないといけない。けれど、離れる手段が無いワケじゃない。ということで、まずは留学の準備かしら。
両親はきっと聞いてくれるわよね? だって、『わたしの幸せを願っている』と言ったのだから。
それじゃあ、早速学園に申し込みをして・・・
持って行く大事な物と、要らないモノを選り分けなきゃ。もう、二度とこの家に帰るつもりは無いのだから――――
――おしまい――
というワケで、出奔エンドです。
主人公両親は、主人公にポイされました。
兄と妹は、主人公への態度次第で対応が変わるかな? まぁ、両親との仲を取り持とうとしたら、おそらくはその時点でスパッと切られるでしょうけど。
なんだか、真ん中っ子の悲哀と逆襲的な話になっているかも? ですね。(笑)
多分、こうやってストレスを溜め続けた真ん中っ子は、ある日突然爆発したように見えるんだろうなぁ……と、思いました。(  ̄- ̄)
大人しくしているからと言って、なにも言わないからと言って、不平や不満が無いワケではない。けれど、言っても無駄だから言わないだけ。言う意味があるのなら、きっとバンバン喋るよなぁ、と。(*`艸´)
この主人公は強かで適応力も高いので、留学をもぎ取ったら上手くやると思います。(*´∀`*)尸"
途中、あのクソガキが主人公に罵倒されている場面で新しい扉が開いちゃったら、もしかしたらコメディーになったかも? なんて思っちゃいました。「も、もっと俺を罵倒してくださいっ!」とか言ってハァハァしたりとか?(笑)
それだと、主人公が逃げ切れないかも。(((*≧艸≦)ププッ
※ちなみに、男女差別の意図はありません。男の人でも、泣きたいときには思いきり泣いていいと思います。(*´ー`*)
以上、最後まで読んでくださりありがとうございました♪(*´∇`*)
ブックマーク、評価、いいねに感謝♪(ノ≧∀≦)ノ
感想を頂けるのでしたら、お手柔らかにお願いします。
クソガキの新しい扉が開いちゃったifバージョン『暴言クソ野郎に暴言を返した……ら、新しい扉が開いちゃったっ!?』も投稿しました。
下にリンクを張り付けておきますので、興味のある方は覗いてやってください。(*>∀<*)