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Franken to rise  作者: ムニエル
6/13

Round 4

 約10kmのランニング。

 重りの付いた縄跳びを2000回。

 サンドバッグを5分。

 反射神経テスト兼インターバル。

 これらを1セット。1セット1時間を切ることを目標に、午前中2回、午後に2回の1日4回。

 それとは別に筋力トレーニングを朝夕2回。夜には柔軟運動。

 どれだけキツくても飯は吐くな。食えないならミキサーにして飲ませる。


 パッチからベンに与えられた、1日のノルマ。

 半年続けた。

 初めは喉を通らなかった食事も、今では軽口を交わしながら食べられる。

 倍近くかかっていた1セットのトレーニングは、今ではランニング中に軽く寄り道できる程度の余裕がある。

 地獄のようなトレーニングを続けたベンの体は、以前と比べて一回り縮んだかのような印象を与えるが、そこに詰まる筋肉の密度は見違えるほどになっていた。


「ふ」


 朝。1セット目のランニングをしながら、ベンはラジオのトークに笑みを漏らした。

 本来のコースからはやや外れ、ベンは街の中を軽快に走る。

 パッチの定めたランニングコースは人気のない道ばかりだったが、ベンは街中を走る方が好きだった。


『さて、リクエストソングのコーナーは終わりだ。そろそろ皆、お仕事が始まる時間だろうからな。送ってくれたお便りを読んで終わりにするぜ』


 司会の男が音楽を止め、別のトークを始める。どこか人気の少ないところでチャンネルを変えるか、とベンはぼんやり思った。


『ラジオネーム、どうするウサギちゃん。先日、ToVの現チャンピオンが「次のトーナメントで優勝したら引退する」と宣言しましたが、いくら何でも早すぎると思いませんか?』


 ピタリと、ベンの足が止まる。

 靄がかった思考が急にクリアになっていった。


「なんだって……?」


 聞き間違いかと思い、ラジオに耳を傾ける。


『そのニュースには俺も驚いたぜ。あのチャンピオン確か俺より若いんだろ? それでチャンピオンになったってものスゲーと思うけど、まだまだ戦えそうなのにな』


 聞き間違いではなかった。

 ベンの視線が落ち着きなく彷徨う。近くにあったコンビニを見つけて、そのまま駆け足で飛び込んだ。

 気怠げな店員の挨拶を無視して、スーツを着た男たちをかき分け、ニュースやゴシップがまとめられた週刊誌がある場所を目指す。

 そのうちの1つを適当に取って、ベンはバラバラと捲った。


『このままだとまたチャンピオンが優勝しそうだもんな。聞いた話だとチャンピオンはやりたい事はやったから引退するって感じなんだろ? まだ若いんだし、チャンピオンって立場は大変だろうからな。俺は良い選択だと思うぜ』


 引きちぎるように耳からイヤホンを抜いて、ベンは週刊誌を読み漁る。

 やがて、ベンはディアスポーツという雑誌を手に取った。ページの先頭にはチャンピオンへの独占インタビューという見出しが付いている。すぐさま開いて、チャンピオンの記事を探す。


 自分がやりたいこと、やるべきことはやった。

 初めからチャンピオンになったらすぐに引退するつもりだった。

 今後どうするかは決めていないが、ToVに関わるつもりはない。

 次のトーナメントも勿論勝つつもりでいる。優勝すればそのまま引退するという意志は硬い。


 混乱する頭で、ベンは辛うじて記事の内容を噛み砕いていく。


「くそっ」


 小さな悪態。以前再開したときの会話を思い出した。


 そんなに嫌なら辞めちまえよ。

 そうしたほうが良いのかもな。


 今思えば、あの時すでに引退を決意していたのかもしれない。

 目を滑らせるように記事を眺めていると、記者の最後の質問が目に止まる。


『ToVトーナメントへの意気込みを教えて下さい』

『がんばります』


 引退がかかってるとは思えない、あまりにも素っ気ない返答。記事はチャンピオンが有終の美を飾ることは確実だろう。と締めくくっていた。

 調べずとも、次のトーナメントがいつかはわかっていた。

 約半年後。トレーニングを始めた時に、パッチに出場は諦めろと言われた大会。

 ベンは週刊誌を棚に戻し、再び走り始めた。

きーみがむーねを焦がすーから

夏がねーつーを、帯びてーいくー

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