56.何ものでも構わない
「ふざけるな!」
ノエルがリーズナの攻撃から私を守るように前に出た。
「ノエルっ!」
ノエルが私の代わりにリーズナの攻撃を受けてしまうと焦ったけど、リーズナの攻撃はノエルに届く前に霧散した。
「‥…お前、何をした?」
私と一緒にリーズナの攻撃を触れずに霧散させた光景を見たエドウィン殿下は化け物を見るような目でノエルを見る。
私もノエルが何をしたのか分からない。でもそれよりも気にすることがある。
「ノエル、大丈夫なの?怪我は?」
私が聞くとノエルはリーズナを警戒しながら私に微笑む。
「大丈夫だよ。スカーレット、すぐに終わらせるからそこで待っていてね」
「えっ」
終わらせるって何をするつもりだろう。
オルガの心臓を使ってリーズナを倒す為に私は来たはずだけど、ノエルがついて来たのは初めから私の代わりに戦う為?
「おい、何をする気だ?」
エドウィン殿下はリーズナだけではなくノエルに対しても警戒心を持っているようだ。銃口こそ向けてはいないがノエルを危険人物と判断しているのかもしれない。
ノエルは他国の王族だ。殺されることはないだろうけど。
ノエルはエドウィン殿下の問いを無視してリーズナに近づく。
任せて大丈夫なのだろうか?
「スカーレット、あんた男を見る目だけはあるわよね」
リーズナは頬を染めてノエルを見る。ノエルは整った顔をしているのでリーズナのお眼鏡にかなったようだ。何となく気に入らない。
「ねぇ、ノエル?だったかしら。そんな女止めて私にしときなさいよ」
「冗談だろ。あんたみたいな馬鹿女、誰が選ぶかよ」
ガシッとノエルはリーズナの頭を鷲掴みにした。
「何度も、何度も、何度もお前を殺したいと思っていた。今ここで殺してしまいたいが、スカーレットにお前の汚い死体を見せるわけにはいかない。スカーレットがいることに感謝しろ」
ノエルはリーズナに何かを言っているようだったけど小声だったから何を言っているか分からない。
「スカーレット、お前の婚約者は何物だ?人間じゃねぇだろ」
ノエルはリーズナの頭を鷲掴みにしたまま片手で持ち上げた。
ただそれだけなのにリーズナはとても苦しそうにもがき、その元凶を取り除こうとノエルに何度も攻撃を仕掛ける。
しかし、あの時と同様に攻撃がノエルに当たることはない。
ノエルは人ではない、もしくは私がオルガの心臓という力を持っているようにノエルにも何かしらの力が宿っているのかとエドウィン殿下が考えるのは仕方のないことだ。
でなければ説明できないことばかり。だけど、私にはそんなの関係ない。ノエルが何物でも構わない。
「ノエル・オーガスト。グウェンベルン王国の第二王子で、私の婚約者です」
「そんなことを聞いているわけじゃない」
ふざけるなという目でエドウィン殿下に睨まれたが私はそれ以外の答えを持ち合わせてはいない。
「殿下はノエルがルシフェル王国の脅威になるか危惧しているのですよね」
「お前と違って奴には首輪がついていないからな。ルシフェル王国の王子としては当然の警戒だろ」
「そうですね。殿下、あなた達が私に手を出さなければノエルの牙があなた達に向くことはありません」
ノエルはそこまで人に興味がない。
多分、自国にも興味はないだろう。
滅びるなら滅びればいいし、繁栄するのなら繁栄すればいい。そんなにふう考えているだろう。
ノエルの世界には私とノエルしかいないのだ。これは決して自惚れではない。
「スカーレット、終わったから帰ろうか」
エドウィン殿下と話している間に全てが終わっていた。ノエルの後ろにリーズナが倒れている。見た感じ怪我はしてないようだ。
「リーズナは?」
「殺してないよ。取りついていた奴だけ始末しておいた。直に目覚めるんじゃない」
私が来た意味が全くなくなってしまった。
「何をした?」
「事件は無事解決したんだから何の問題もないでしょう。君たちは折角ついて来たんだから後始末でもしたら」
暫くエドウィン殿下とノエルの視線が交差する。先に折れたのはエドウィン殿下だった。
「リーズナを運び出せ」
エドウィン殿下は部下に命令して自身もリーズナの状態を確認するために教室に入っていった。
「さっ、帰ろ。俺たちの家に」
ノエルに促されて私は教室を出た。




