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狂おしいほどに君を愛している  作者: 音無砂月
第Ⅲ章 狂愛

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50.兄としてできること

シャノワール視点


「おーい、もうこれ以上は無理だぜ」

ノエルとかいういけ好かない奴がスカーレットを連れて去って行った。

一人になった俺は誰もいない背後を見ずに声をかける。

カタンと音がした。

振り返るとそこには不機嫌顔のエヴァンがいた。

「自分で確かめろよ」

スカーレットは深夜、何者かによって邸から誘拐された。

方法は分からない。

公爵家の邸だ。警備は厳重だった。誰にも気づかれずに人を一人連れ去るなんて不可能なはずだった。

公爵家が血眼になって探しても行方が分からなかった。手がかり一つ見つからなかったのに急にスカーレットの居場所が割れた。

……ノエル・オーガスト。

スカーレットの同級生。彼女の友人でとりわけ仲良くしているようだ。

どうしてそんな奴の邸に?と、疑問に思う暇すらも与えないかのようにスカーレットとノエルの婚約が決まった。しかも王命で。

訳が分からない。

スカーレットが帰ってきたら聞こうと息巻いていた公爵家だったけど、彼女が邸に帰って来ることはなかった。

そこでエヴァンからスカーレットに探りを入れてくれと頼まれた。

「こんな役回りは二度と御免だぞ。死ぬかと思った」

ただの同級生じゃない。ただの友人じゃない。

獰猛な獣。

血を求め、彷徨う猛獣。

ただ問答をしているだけなのに生きた心地がしなかった。

「オルガの心臓が目当てってわけでもなさそうだし」

寧ろ、オルガの心臓に拘る奴らを心底軽蔑している顔だった。

あれはどう見たって演技じゃない。本心だ。

「スカーレットに心底惚れてるのは間違いないだろう」

背筋が凍り付くほどの狂気を孕んだ愛情ではあるようだけど。

自分からスカーレットを奪う者は何物であっても許さないだろう。そういう奴は世にも恐ろしい体験をすることになるだろう。

そこまで深い情愛を注がれるスカーレットが幸せになれるかは分からない。

あれは狂気だ。

少しでも歯車がズレればスカーレットもノエル本人すらもただでは済まない気がする。

絶対に対応を間違えるなよとスカーレットに忠告してやりたいけど、俺が彼女に近づくのは難しいかもしれない。それにスカーレットは馬鹿じゃない。

俺がわざわざ忠告しなくても気づいているだろう。

「脅されているわけでもなさそうだし」

スカーレットと公爵家の間には埋められない溝がある。

それはスカーレットを取り巻く環境が造り上げたものだ。

スカーレット自身に問題がなかったわけでもない。でも、一番問題があったのは彼女に全ての責任を押し付け、ただ存在するだけで彼女を嫌がってしまった公爵家だ。

それに公爵夫人だってスカーレットの存在を認めたわけじゃない。

何もしないのは公爵と王に止められているからに過ぎない。

そうでなければ夫人は間違いなくスカーレットを排除しようと動いていただろう。

それにこいつらは気づいていないが公爵家にはリーズナがいる。あいつは外面が良くて「天使」なんて周囲に思わせているけど中身はドロドロ。ヘドロみたいに汚い。

小賢しい手段を用いてスカーレットを排除しようとするだろう。夫人と違ってリーズナは立場を弁えない。

スカーレットと違って聡明でもない。

近づけたってお互いにメリットはないだろう。

「傷つけあうだけなら近づかない方が良い」

「もう、歩み寄ることはできないんだな」

諦めて一緒に漏れた言葉は苦しみに満ちていた。だけど、苦しむ資格はないとエヴァンは分かっている。

最初に生まれたばかりの何も知らない彼女を拒絶したのは自分たちなのだから。

「兄としてスカーレットの幸せを願ってやれ。それが今のお前にできることだろ」

「そうだな」

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