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狂おしいほどに君を愛している  作者: 音無砂月
第Ⅰ章 スカーレット・ブラッティーネは5度目の人生を歩む

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12.立場

とんとん拍子でいろいろと私の周りで変化が起きた。

まず、母が邸から追い出された。

次に別館の侍女が変わった。母と同じように追い出されたのだ。

「お義姉様、今までごめんね。あなたの苦しみに気づいてあげられなくて」

はらはらと涙を流しながらリーズナが私を抱きしめようとしたので私は思わず一歩下がってしまった。

しまったと思った。

ここは抱きしめられた方が良かったかな。

「お義姉様、私のことが嫌いなの?そうよね。私はあなたが苦しんでいることに気づいてあげられなかったんだもの」

そう言って大粒の涙を流すリーズナは女優だなと思う。

彼女と一緒に来た侍女が私を睨みつけた。

彼女の抱擁を受け入れなかった私が彼女を虐めた悪人のようだ。

こうなると予想できていたはずなのに、体は正直に彼女を拒絶してしまったのだ。

前までならここで怒鳴っていた。

「泣くなんてうざい」ぐらいは言っていただろう。

でも今の私は違う。

リーズナ、あなたは私が前のように対応することを願っているんでしょう。でも、もう前の私じゃないのよ。今度は私があなたの立場を奪ってあげる。

「リーズナ、私は今まで母や侍女に暴力を振るわれてきたの。だから人に触れられるのがあまり得意ではないの。もちろん、優しいリーズナが私に暴力を振るなんて思わないわ。でも、分かっていてもどうしても体が強張ってしまうの。暴力を振るわれた時の恐怖が蘇ってしまって。そんな私があなたを避けてしまったことは仕方のないことだと思ってはくれないの?私があなたを嫌っていると疑って、私を責めるの?」

はらりと涙を流してみせる。

すると周囲がざわついた。ただ一人を除いて。

リーズナの乳母だ。彼女だけは忌々しそうに私を見ている。

「そ、そんなことないじゃない。ごめんなさい。私の配慮が足らなかったわ」

優しいリーズナで通っているのだからここで私を責めることはできない。

顔を引つらせながらも何とか否定の言葉を返した。

「ううん。いいの。私の方こそごめんね、リーズナ。あなたに誤解を与えるような態度を取ってしまって。暴力を振るわれたことのないあなたに私の気持ちを理解しろなんて無茶な話だもの」

「そ、そんなことは」

「分かるの?暴力を振るわれたこともないのに?」

「っ」

肯定をすれば「そんなことはない」と言おうとしたことが嘘になってしまう。暴力に傷ついた義姉に嘘をついたことになる。

けれど否定をすれば気安めの言葉で慰めようとしたことになる。周囲には偽善と映るだろう。それは今まで築き上げてきたリーズナというキャラに影を落とすことになる。

今のリーズナに現状を打破するだけの力はない。

どうするの、リーズナ。このまま黙っていては何も進まないわよ。

沈黙は金というけど、貴族の場合はそれが毒になることもあるんだから。

「お嬢様はスカーレット様を心配するあまり何とか慰めようとしただけでございます。決してスカーレット様を傷つけようとしたわけではございません。お疑いになるお気持ちはわかりますが、どうかご配慮ください」

まるで仇でも見るような目で私を見ながらリーズナを隠すように一歩前に出たのは彼女の乳母、ミネルバだ。

「そ、そうなの。ごめんなさい、お義姉様」

リーズナは慌ててミネルバの言葉を肯定した。

暴力で傷ついている義姉に配慮しろなんて図々しいわね。周囲の侍女たちも困惑している。彼女たちの言葉のおかしさに気づいているのだろう。

それに、私とリーズナの会話にたかが一介の乳母が口を挟むなんて、私を馬鹿にしているようなものじゃない。

ここで怒鳴ってはダメ。

そうすればたちまち私は悪役に転じることになる。

この人生で悪役に回るのは私じゃない。リーズナ、あなたよ。

落ち着いてい。理性的に対処しよう。

「あなた、誰?」

私が問うとミネルバは不可解な顔をしながらも「乳母のミネルバです」と答えた。

「お義姉様、どうしたの?今更聞かなくてもミネルバのことなら知っているでしょう」

ええ、よく知っているわ。

お馬鹿なあなたの参謀役ってことをね。

「ごめんなさい。主人であるあなたと私の会話に許可もなく口を挟むものだからよく似た別人かと思ったの。私たちよりも高貴な血筋の者か同等の血筋の者なら許される行為だからね」

「っ」

失態を悟ったミネルバの顔が青ざめる。

相手が私でなければ彼女もこんな失態は犯さないだろう。自分よりも下だと見下していた相手なら無意識にそういう行動に出るのも頷ける。

私は所詮、妾腹だもの。

それでも、使用人のあなたよりも立場が上なのよ。

「妾腹などたとえ仕える家の令嬢であっても見下して当然の立場よね。あなたがそういう態度に出るのは当然だわ。リーズナ、あなたがそれを許すのもね。大丈夫よ、仕方がないことだって私は分かっているもの」

「そ、そんなこと」

「もういいかしら。私、疲れたの。それとも休ませてもくれない?」

「っ。ごめんなさい、配慮が足らなかったわ」

悔しそうな顔をするリーズナに近づき「足りないことだらけね」と皮肉ってあげた。

今にも掴みかかりそうだったけどそうしなかったのはさすがは貴族ってことかしら。すぐに手が出ていた以前の私とは大違いね。

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