リハビリ
目を覚ましてから2日目の朝がやって来た。朝6時に昨日の夜に出会った看護師、金髪ギャルの三浦さんが検温にやって来た。
「どうですか?眠れましたか?」
「ええ、快適に眠れました」
「今日からリハビリ入りますから、頑張ってください。36.2度。調子はいかがですか?」
「特に問題ないです」
バインダーを持ちながら、何やら書き込んで行く。僕の体調報告ぽい。
「食事は7時からです。配膳に来ますので、ベッドで待っていて下さい。では失礼します」
昨日の感じだともう少し絡んで来るように思えたが、そんな余裕は無いらしい。
7時になり歩ける人は自分で食事を取りに行った。5分後ぐらいにノックがあり病室のドアが空く。食事が来たかとドアに目を向けると、そこには私服の弥生さんが立っていた。
「おはようごさいます。お食事、お持ちしました」
「おはようごさいます。ありがとうございます。まだ私服なんですね」
「ええ、まあ」
今朝の弥生さんは言葉の歯切れが悪かった。
「斉藤さんごめんなさい。食事はお母様か誰か。え?先輩!何やってるんですか!まだ出勤時間じゃないでしょ」
そこに慌てて三浦さんが飛び混んで来る。弥生さんの姿を見て驚いていた。
「あ、花ちゃん。お疲れ様です」
弥生は何事もなかったように挨拶を返す。
「先輩。来るの早すぎます。申し送りは8時半ですよ」
「早いっても1時間ぐらいだよ」
「そうですか......ではまた後程」
三浦さんは何か言いたそうだったが大人しく引き下がっても行った。僕の方を見てニヤっと、してたけど。
「さあ。先生どうぞ召し上がって下さいね」
弥生はそう言うと、夕べと同じように椅子に陣取り動こうとしなかった。わざわざ出向いてくれた彼女はリラックスし楽しそうだ。食べながら会話をする。
「今日も仕事ですか」
「今日も日勤です。8時にはナースステーションに戻ります」
「あの、何故、早起きを?」
「昨日、話しましたよ。カンファレンスって」
「そうですか」
何だかとても誤魔化されている気分だ。僕が食事を終えると彼女は食器を片付けて仕事へ行った。
彼女はもちろん今朝も摘まんでいった。生理的に仕方がないのだか今朝のはいくぶん大きかった。なお、大はまだ我慢中。早くトイレに行けるようになりたい。
朝の診察が始まる。僕は白髪の年配医師に、お腹を押されていた。先生、止めてくだい。結構ギリギリ耐えているんで。後ろでは看護師姿に着替えた弥生さんが控えていた。
「便秘ですかね?下剤出しますか?」
「結構です」
医師は僕に下剤を提案して来た。だが、自分で歩けるようになるまで我慢するんだ!医師はなにやら諦めたように僕から離れた。
「今日からリハビリ開始します。では立花君あとは頼んだよ」
「はい。」
医者と看護師のセットは診察が終わると直ぐに部屋を出て行った。看護師姿の弥生さんは本当に事務的だ。仕事なのだから当たり前なのだが、ベッドの横にちょこんと座る彼女とはまるで印象が違った。
「失礼します」
診察修了直後入れ替わるように金髪ギャルの三浦さんが私服姿でやって来た。ギンキラに飾り着けた服装はまるでクラブにでも遊びに行くような格好だった。
「どうしました?」
「ハッキリと斉藤さんの口から聞きたくて」
「何をです?」
「弥生先輩のこと遊びじゃないですよね?」
答えるのが少しだけ躊躇われる。偽装彼女。
「もちろん本気です」
「先輩今まで浮いた噂が無くて、あそこまでべったりがとても不思議で。お見合いカップルなんですよね?」
くっつき過ぎて不自然に感じられたか?
「ええ、一目惚れって奴では?」
「その表現だと先輩1人の片思いですよね?」
鋭い突っ込みが来た。舞い上がっているのは彼女だけに見えるらしい。僕の対応が甘いかも。
「お見合いしたばかりですよ。僕は彼女のこと何も知らない」
『僕もべた惚れです』と答えるには、状況が違う気がした。三浦さんはその答えに納得したようなしてないような?どちらとも取れる笑顔を見せた。
「誠実なんですね。是非先輩の処女を奪ってあげてください」
「なっ」
「驚いた顔も素敵ですね。ではお休みなさい」
彼女は伝えたいとだけ言って帰っていった。僕は彼女に対し満点解答を出したようだ。
しばらくベッドで待機していると弥生さんがやって来た。
「先生。花ちゃん。いえ、三浦さんが来ていたようですけど。何か問題がありましたか?」
「ええ、ちょっと僕らの関係が気になるみたいです」
「そっちは問題ないです」
彼女は顔を赤くしながら慌てて答えた。むー。やっぱりホレられてるよね?僕の正解はなんだろう。
「話は変わりますが」
「なんでしょう」
突然の話題転換。仕事の話だ。リハビリかな?
「便秘はよろしくないです。下剤で強制的に出しましょう」
「全力でお断りします」
そっちだったか。
「何故、そこまで意地を張るのですか。排泄は自然の摂理です」
「おむつはイヤです!トイレに行かせ下さい」
「はい。今日からその練習をします。無理ならオムツです」
くぉ。何か。人の困っていることを楽しそうに話しますね。今日からトイレ行けるなら行けるって言ってくれれば良いじゃないか。
弥生さんに手伝って貰いながら必死の思いで病室の備え付けトイレまでたどり着くことが出来た。僕の尊敬は多少守られたのであった。
実際のリハビリは専門スタッフの指導の元、別棟で行われた。
さっきのトイレタイムはどうやら弥生さんの善意で行われた模様。本来は本気でオムツにださなけれなかったようだ。
昼食は弥生さんが配膳を行う。準備が出来ると彼女は直ぐに病室を出て行った。しばらく彼女の顔を見ながらの食事だったため寂しく感じられた。朝の件について御礼をしたかったのだか。
リハビリの先生に言われたのだが、動かした方が当然上達が早くなる。とのことで少し病院内を歩く努力をした。結果トイレまでは一人で行けるようになった。
し尿瓶さようなら。もうちょっと摘まんで貰いたかったような気も少しだけある。