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突然入院

 僕の目の前に見知らぬ白い空間が広がっていた。左右に体を動かそうしたが体は動かない。首は動いたので左右を確認した。左は壁。右には母が座りながら眠っていた。


「母さん?」


 母に声をかける。状況がさっぱりわからない。


「郁也!良かった。今、先生呼ぶから」


「先生?」


 まだ頭がぼーっとする。なんだ?母が僕の近くにあった何かのボダンを押した。


『どうなされましたか?』


「郁也が起きました」


『わかりました。すぐ行きます』


 母が何やらマイクを通し会話していた。改めて周囲を確認する。僕はベッドの上で眠っている。足は右足が釣られていた。右手らは動き、左手は固定されている。ギブスか。僕は怪我をしている。するとここは病院?


 思い出した!僕は学校で暴漢と戦ったんだった。その時、鉄パイプで頭と左腕を殴られていた。さらにナイフで右足を刺されたっけ。手と足の感覚がないや。頭は動く右手で触ると包帯が巻かれている。


 暴漢は捕まっただろうか?生徒が心配だ。


「なあ、母さん。ウチの生徒は無事だったか?」


「ええ、生徒さんはみんな無事よ。でもケガしてまで暴漢と戦うなんて無茶しないで」


 生徒が無事と聞き、ほっと胸を撫で下ろす。本当に良かった。


「失礼します」


 病院の医師が僕の横に立ち診察を始める。その後ろに立つ看護師さんに見覚えが有るような無いような。その看護師は母と言葉を交わしていた。


 診察を終えると医師に命に別状はないが重傷だったため2週間の入院が言い渡された。先生は戻っていったが、看護師さんは残り僕に一声かけて来た。


「斎藤さん。後で入院の説明に来ますから」


「あ!」


 思わず声が出てしまう。この看護師は昨日お見合いした弥生さんだ。彼女は僕の驚きの声に何事もなかったように対応する。ん?昨日?


「では失礼します」


 彼女は挨拶し退出して行った。


「りんご食べるかい?」


 驚いている僕に母が声をかけて来る。


「ああ、食べる」


 少し腹も減っている気もする。その言葉を聞いた母はりんごの皮を向き始める。


「いい人だね」


「誰の話だ?」


「弥生さん」


「わからないけど」


「あんたがこの病院に担ぎこまれた日からずっと看病してくれたよ」


「イヤ、彼女の場合、仕事だから」


「だから仕事終わってからも看病してくれてのよ」


「そうか」


「絶対に逃がしゃダメだよ。あんないい人もう出てこないよ」


 弥生は仕事意外でも僕の看病に付き添ってくれたらしい。その事実ともに何日入院したかが気になった。


「今日は何日?」


「7月11日。水曜日。刺されて丸1日寝てたのよ」


「そうか」


 母が剥いてくれたりんごを一切れ口にする。まさか、こんな形て弥生さんと接点を持つとは思わなかった。母は僕が起きたことにより一度家に帰って行った。さほど入れ替わりの時間に差がなく弥生がやって来た。


「先ほど、少しお話した入院の説明をします」


 事務的に淡々と話を勧める彼女。仕事が出来る女だ。見合いの時とは顔が違う。ON-OFFの切り替えが上手いのだろう。


「トイレですが今は大丈夫ですか?」


「そう言えば行きたいかも、トイレはドコですか?」


 ぼーとしていたのでついつい本音が出る。そして後悔した。


「そうですか。では失礼します」


 彼女は白いカーテンで僕のベッドを隠すと、僕のパンツを下げた。


「何を!」


「先生、落ちついて下さい。先生は今動けないんです。排泄に関しては看護師に任せて下さい。さあどうぞ」


 『さあどうぞ』って。彼女は僕の物を摘まむと、し尿便を当てる。その上を布団で隠される。かろうじて出すところは見られないようだか、人としての尊厳が。チラチラ彼女の顔を確認する。イライラしているような怒っているよな、イヤあれは楽しんでる。くそ。諦めて排泄をする。


 放出後。直ぐに元の姿に戻される。本当に事務的なんだ。看護師に対し安心と共に、彼女の知り合いの一個人としては担当者の交換を願い出たい。お見合い相手に排泄を見せるなんてどんなプレイだ。


「入院の説明は以上です。何か質問ありますか?」


「ないです」


 ないです。ので早く部屋から出て行ってもらえますか?恥ずかし過ぎて泣きたいです。


「では、先生無事で良かった」


 彼女はそう言葉にすると僕に抱きついて来た。何が起こったのかさっぱりわからない。彼女がわずかに震えている気がした。コレを医療行為の一環だろうか? 

 数秒抱きついた彼女は何事もなかったように事務的な動きをして帰って行った。


 あれはなんだったんだろうか?彼女は見合いの席で『結婚する気はまだない』と語っていたはずだがひょっとして僕のこと好き?

 イヤ流石にそれはにないだろう。まだ出会ったばかりだ。一目惚れの可能性も考えてみるが、そんな良い出会いではないはずだ。

 困惑したが多分思い過ごしだ。あれは彼女の偽装恋人としての演技だろう。


もし、彼女が僕のことが好きだとすると、僕は彼女に応えることは出来ない。僕の傷は誰よりも深いのだ。





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