まさかの玉砕
「移動しますよ」
弥生さんに手を取られ病院前より移動。近くの喫茶店に入る。僕は彼女にフラれたショックにより呆然としていた。
「ごめんなさい。先生、目立ち過ぎなんです」
「あぁ」
フラれた。なんか弥生さんが言ってるけど耳に入らないや。
「先生?」
「あぁ」
「もう」
弥生さん怒ってるようだ。もうダメだな。
彼女が僕の顔を両手で掴む。次の瞬間唇が重なったような気がした。気がした?ウソ。ま、待って。さっきフラれた。
僕は勢い良く立ち上がる。
「やっと起きた。座って話を聞いて下さい」
気のせいではなく。普通にキスされていた。彼女は恥ずかしそうに目線を反らす。
「はい」
返事をし、彼女の話を聞くべく席に座る。アイスコーヒーの氷が弥生さんのストローにかき混ぜられカラカラ鳴る。彼女はコーヒーを一口飲んだ。一息つく。そして。
「夜勤明けの職場に直接プロポーズ来る人はいません。そもそも先生これからリハビリでしょ?ついでだったんですか?」
「あ、リハビリあった。途中から忘れてた」
「頑張って下さい。私は眠いんで部屋に帰ります。では」
彼女は領収書を手に持ち立ち上がる。
「待って。プロポーズしたんだ。返事は?」
「あんなのは認めません。ではお休みなさい」
うっ。僕は弥生さんを見送る。フラれたわけでは無さそうだけど彼女は怒っていた。僕は一人、コーヒーを飲む。苦い。旨いんだけどさ。
喫茶店で時間を潰し再び病院に向かう。
「今朝も問題起こしたみたいだけど、今日はシラフだね」
医者に呆れられる。どうやら僕の噂はかなり広がっているようだ。
「TPOに気をつけような。今日はリハビリね」
「はい」
いつもの看護師に付き添いされリハビリ棟に移動する。その際にイヤな顔を見つける。今朝会った三浦さんだ。僕は年寄り看護師に隠れて移動する。
「あ、斉藤さん」
「や、やあ」
見つかった。
「斉藤さん。結果聞きたいです。お昼ご一緒しませんか?」
「三浦さん!」
「失礼しました。立花先輩の時と同じ条件で」
三浦さんは年寄り看護師に一喝され、言うことだけ言って、そそくさと逃げて行った。
弥生さんが日勤の時、お昼を一緒に食べた時間ね。誰か行くか!おちょくられるのが落ちじゃないか。
リハビリの待ち時間にスマホを見る。特に連絡は来ていない。僕はカチカチとスマホに文字を打ち込む。
『今日はごめん。舞い上がり過ぎました。反省してます』
弥生さんに謝りのLINEを送る。さあ、リハビリ頑張ろう。
「お疲れ様でした。だいぶ筋力が回復しているようです。今週もう一回来たら終わりかな?」
リハビリの先生から嬉しい言葉をかけられる。ついに通院生活が終了する。
リハビリを終え帰り支度をする。問題はこの後の行動だ。隠密行動をしなくては三浦さんに捕まる気がする。静かに目立たぬように移動する。会計まで無事に来れた。あとはお金を払いグッドバイ。
支払いを終え振り向く。正面に三浦さんか、仁王立ちしていた。もう逃げ場がない。いつの間に?
「リハビリお疲れ様でした。さあ、食堂行きましょうか」
泣く泣く食堂へ連行される。
「で、弥生先輩どうでした?」
「大変お怒りになっていました」
「ですよねー」
食堂へ向かう途中で三浦さんからジャブをもらう。この先が思いやられる。
「大野さん。雫。連れて来たよ」
食堂には見覚えあるが、話をしたことがない、ほぼ初対面の看護師が待ち構えていた。
「紹介します。先輩の大野幸子さん。弥生先輩の学生時代からの親友らしいです。これが雫」
「花ちゃん。私の紹介雑すぎ。海野雫です。花ちゃんとは学生時代からの親友です」
「大野です。弥生の親友かな?」
なんか、変な所に呼ばれてしまった。大野さんはショートカットが似合う大人の女性で。雫ちゃんはきゃぴきゃぴ明るく話す子だった。
「初めてましてかな?斉藤郁也です」
無難に挨拶をする。もうイヤな予感しかしない。
「斉藤さん何故呼ばれたかわかります?」
口火を切ったのは大野さんだ。
「プロポーズの結果を知りたいからですよね?」
「あちゃー。本当にプロポーズだったんだ。どうでした?」
「ダメでした」
「ですよねー」
「あり得ないし」
大野さんと話しているのだか、海野さんと三浦さんより強烈なパンチが入る。僕、立ち上がれるかな?
「傷口に塩を塗りこまない。私は弥生の同期として斉藤さんに頑張ってもらいたいの」
大野さんは応援してくれるようだ。期待に答えたいが今回は大失策だ。
「すみません」
「自信を持って下さい。私の知る限りではあなたは弥生が振り向いた唯一の人ですから」
唯一の人?弥生さんの元に元カレが接触中になんだが。あれ?三浦さんは大野さんのことを、弥生さんの学生時代からの親友って紹介したよね?確認せねば。
「あの。学生時代の弥生さんってどんな感じでした」
「弥生の過去を探るのね。聞きたい?」
「「聞きたいです!」」
僕より外野の二人が先に反応した。
「あなた達。まあいいわ。でも何もないわよ。学生時代から今に至るまで斉藤さん以外の彼氏いないわよ。あとはモテモテ伝説しかないし」
彼氏はいたはずだ。弥生さん本人も真央さんも証言している。学生時代。高校生の時に彼氏がいた?
「外科医の朝倉先生と付き合っていたって噂は?」
「一方的に近寄って玉砕している」
「相馬さんは?」
「玉砕」
「ウソでしょ?私ならイチコロなのに。声すら掛からない」
海野さんが文句ぶーぶー
「だから弥生は歩く伝説なの。そんなのが患者とイチャイチャ始めるじゃない目立って目立って」
僕の知らない女子トークが繰り広げられる。知らない男達の名前。医療関係者であろう。全員玉砕している。やはり違和感だ。僕とお見合いは好感度マックスだぞ。何故、僕が選ばれた。
「あのー盛り上がってるとこすいません。弥生さんに彼氏いたことあるって本人から聞いているんですけど」
「私も聞いたことあるよ」
大野さんも知っていた。
「その彼は?」
今はそいつのこと知りたい。
「私と出会う前。高校生の頃の話で母親に別れさせられたって聞いているよ。でも作り話じゃない?」
高校生の頃の話か。しかも強制的に別れさせられた。ずーっとそいつのことを思っていた?再開したらヤバくない?再会した瞬間全てを捨ててでもその男に付いて行きそうだ。




