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伊藤の番

「村山先生。この後、伊藤が来る予定なので一緒に面談受けてもらっていいですか?」


「良いんですか?」


「一緒に聞いて下さい」


 村山先生は驚いていたが、面談への参加を承諾してもらった。大学進学。はっきりいって伊藤の今の成績では無理だ。だからエサを撒くのだ。目標があれば勉強に打ち込むことも出来るはず。灰色の受験生ともなれば、色恋も少しはおとなしくなるはずだ。


 しばし待つと伊藤は川田に引きずられやって来た。


「先生。昴、連れて来ました」


「くっそ。離せ。葵」


 川田は格好つけて敬礼をする。捕まった犯人はふてくされている。


「ご苦労。川田。帰っていいぞ」


「え?」


 川田が何かに驚いている。その目線の先には村山先生が立っていた。


「なんで村山先生?」


「村山先生に伊藤の指導を一緒にするようにお願いしました」


 村山先生が伊藤と川田に対し軽く頭を下げる。


「そんなのダメです!昴と村山先生はダメなんです!」


 おとなしい川田が抗議をして来た。その抗議に村山先生が対応した。


「川田さん。斉藤先生は全てを知って私に面談に参加して欲しいと頼まれました」


 今度は僕が川田に睨まれる。睨まれるだけ。もう言葉も出ないようだ。伊藤も言葉を発しない。どういう状況か悟ったのだろう。それでも伊藤の目には力強さは感じられる。打開策があるのか?


「そういうわけだ。関係のない川田は帰れ」


 僕は川田に帰宅を促す。


「私も詳細を知っています。参加させて下さい」


 やはり川田も知っていたか。思いつきで伊藤家に家庭訪問行った時か。そうなると、いてもらった方が都合上がいいか。これからの流れで川田に頼みごとが出来る予定だ。


「村山先生。伊藤。川田を参加させてもかまわないか?」


 本来、個人面談に他者など参加しない。今回はナイーブな問題なので、近しい第三者がいても良いかも知れない。川田は他の人に口外するようなことはしないだろう。あとは当事者の許可が欲しい。


「私は問題ないです」


「俺もいい」


 両人とも川田の参加を了承してくれた。


 面談の場所。夏休み中で図書室を利用する生徒はほぼ皆無だったが、目立ちたくなかったので場所を談話室へ移した。


 談話室に入りそれぞれ席に着く。僕の正面に伊藤。隣に川田。斜め向かいに村山先生だ。川田?僕の隣?ま、第三者だし良いか。


「では、始めます。村山先生と付き合っているようだが。伊藤。それは本当か?」


 まずは事実確認。片方だけ付き合っていたつもり。なんて思い違いもあるし。


「本当だ」


 認めやがった。


「別れる気ないか?まだ学校中に知れ渡っているわけでもない。今なら何も無い事に出来る」


「別れないと言ったら?」


 強気だな。だが。


「村山先生は懲戒解雇。伊藤は退学だな」


 懲戒解雇は言い過ぎかな?謹慎処分で自己都合退職が妥当。でも伊藤に脅しにはなるだろう。

 伊藤が村山先生に方を振り向く。村山先生は微動だもしない。真剣な表情だ。彼女の顔を確認し伊藤が再びこちらを向く。


「俺はどうでもいい。村山先生がクビにならない方法は無いのか?」


「さっき言ったように別れてくれれば問題ない」 


「わかった。美香。いや村山先生。別れよう」


 あれ?あれ?なんかあっさり引いたな。伊藤。遊びだったか?それに引っ掛かった村山先生。うーむ。二人とも何を思っているか表情から読み取れない。


「村山先生。それでいいですか?」


「はい」


 うっそー。村山先生。さっきと態度違うし。どうまとめる?隣の川田は安堵しているし。話を切り替えるか。


「では伊藤。進路については話すか」


「フリーターで」


 伊藤は『またか』というような顔をして即座に自分の希望を答える。


「却下。伊藤。お前には強制的に大学受験をしてもらう」


「はぁ?」


 首を傾げる伊藤。僕は話を続ける。


「特別プログラムを組み勉強してもらいます。監視役は川田。講師は村山先生。放課後に図書室または川田家で補習をしてもらう」


「横暴過ぎるだろ!」


 伊藤が立ち上がり抗議してくる。


「わかりました。しっかり勉強を教えさせてもらいます」


 村山先生は予定通りの行動を取る。川田は何を言われているのか理解が追いつかないようだ。


「え。美香。いや村山先生。それって......」


「お付き合いじゃ無いですよ。指導教諭に従って、サービス残業です。お給料出ません。教師ってブラックな職業ですね」


 言葉と違い、村山先生はにこやかだ。悪者ば僕。それもよかろう。


「いいのか?そんな事して」


 伊藤が疑問を口にする。


「僕の評価をあげるために、村山先生と伊藤を利用させてもらうことか?結果が出れば問題ない」


「いや、そっちじゃなく。え?俺、大学入ると。斉藤先生の評価上がるの?」


「上がります。あ、でも村山先生には手を出さないように。彼女に何かにあったら僕の首が飛ぶから」


「つまり。どういうことだ?」


 伊藤の頭がパニックになっているようだ。


「私は反対です!斉藤先生がそこまでリスクを背負う必要ないでしょう。二人は別れるんです。無理やりくっつける必要ないじゃないですか」


 川田が反対の声をあげる。良くわかっていらしゃる。


「だから、監視役に川田を置くんだ。適任だろ」


「私?え?」


「二人には別れてもらうよ。あとは教師と生徒として向き合い、大学へ合格へ向け協力してもらうよ。卒業の後はご自由に」


 これが僕の描いたシナリオだ。伊藤。川田。あとは君ら次第だ。


「わかった。その話、乗った!葵。監視役、頼む。」


 乗ってきた。流石、伊藤。自分に利があると判断したな。


「え?え?」


 川田が少し長考する。やがで


「私の前で変なことしないでよ。」


 ここに『チーム伊藤。大学合格するぞ』が結成された。

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