サプライズ
誤字報告ありがとうございます。
何度かチェックはしているのですが、見落としてしまいます。
今後とも宜しくお願いします。
調理休憩を終え、仕上げに入る。下準備しておいた牛肉をフライパンを乗せさっと炒める。ビーフシチューと言うよりカレーに作り方が似ているかも。炒めた肉を鍋に投入。
「お肉あまり煮込まないんだね」
「ごめんね。僕のは邪道だから」
文ちゃんの問いに答える。本来ビーフシチューは厚い肉を柔らかくするために煮込むのだろう。僕の使う薄っぺらの肉だと合わない。調理時間節約。材料費節約レシピだ。ビーフとか言いながら豚バラでもやったことがある。どちらも上手い。あとは弱火で煮込むだけ。
米も炊いてある。お嬢様達はビーフシチューぶっかけご飯なんかしないだろうけど。サラダを作り、ガーリックトーストを焼く。ニンニク入りの調味料、バターを塗りトースターでチンだ。
「ここから二品、作るんだ」
「サラダとパンをトーストするだけだから簡単だよ」
「お腹すいた~お姉ちゃんまだかな?」
料理は完成した。時刻を見ると7時を回ったところだった。文ちゃんのお腹の虫は収まる気配はない。
「先に食べる?」
「食べる!」
「真央さんはどうする?」
「私も頂こうかな」
二人のためにビーフシチューを盛る。あとはガーリックトーストとサラダだ。ライスも軽く添える。中身は薄ペラでも見映えは問題ないだろう。
「斉藤さんは?」
「もう少し待つかな」
「姉も愛されてますね。幸せ者です」
真央さんに茶化される。今日初めて出会った時よりだいぶ好感度が上がったかな?
「ピンポーン」
姉妹二人が食べ出す前にチャイムがなる。弥生さんであろう。
「はーい。食べてて」
僕は出迎えに行く。
「先生。疲れたよ」
玄関を開けた瞬間に弥生さんに抱き着かれる。僕はそのまま彼女の頭を撫でる。
「お帰り」
「ただいま」
暫しそのままで弥生さんのぬくもりを感じていた。ずっとこのままでもいいかも。だが、そうも言ってられない。部屋には彼女の妹達が待っている。サプライズを仕掛けなくては。
僕と弥生さんほぼ同時に顔をあげる。キスぐらいいよね。部屋じゃ絶対出来ないし。弥生さんも目つぶってるし。でも軽く軽く。
ことが終わると弥生は目をパチクリさせる。物足りない?
「ねえ、先生。ご飯にする?お風呂にする?それとも私?」
くっ。誘われている。したい。だが我慢だ。
「ご飯の準備出来てるよ」
「ですね」
弥生さんは自分の冗談を笑い飛ばす。
「先生、今日は安静にしてましたか?川田さんの家庭訪問は聞いてましたが、まだ怪我は治ってないです。無理しないで下さいね」
「あ、はい」
「ん?何処かに遊び歩いたんですか?」
中途半端な解答に疑われてしまう。言えない。別の弥生の影を追っていたなんて言えない。ってか、あそこで真央さんと文ちゃんに遭遇したんだよな。
「ちょっと偶然の出会いがありまして」
「何?」
弥生さんをリビングに通す。食卓についているハズの二人が立ってこちらの様子を伺っていた。
「文!それに真央まで。なんで?」
「お姉ちゃんお帰り」
真央さんが弥生さんに声をかける。真央さん無茶苦茶ニヤケまくっている。文ちゃんは僕に駆け寄って来た。
「郁也さん文にもチューして。お姉ちゃんばかりずるい!」
なんか、困ったおねだりが来た。君ら一部始終見てたのね。文ちゃんならいいか。僕はしゃがみ文ちゃんの頬っぺにキスをする。
「待って、玄関の私達のやり取り見てたの!てっか先生、文にキスしない!」
「バッチリ見ました。父さんに報告する予定です」
「真央、本当、やめて」
「あんなデレデレしたお姉ちゃんは初めて見たよ。びっくりが止まりませんなぁ~」
「うっ」
麻央さんの指摘に弥生さんの顔が真っ赤になる。サプライズは成功だ。だがこれ以上、弥生さんをいじってはダメだ。機嫌を損ねてしまう。もう無理かな?
「さあさあ、まずはご飯食べよう。弥生、座って」
「すでに呼び捨て」
真央さんの追い討ち。からかい通すタイプらしい。
「そうですよ。私と先生はそういう仲です」
弥生さんの反撃。僕に身を任せて来た。待って。足の踏ん張り利かない。腕も。
「うっ」
「あっ。先生ごめんなさい」
弥生さんは自分の行動について平謝りをする。僕の怪我を一瞬忘れていたようだ。
「大丈夫だから、席についてご飯準備するよ」
「はい。真央。覚えてらっしゃい」
弥生さんと僕の分のも食事を用意する。僕のは三人と違い、おしゃれ感がない。ビーフシチューぶっかけご飯だ。
「斉藤さん思い切ったことを」
真央さんが始めに反応する。否定的なような?肯定的なような?どちらとも取れる感じだ。
「私もそっちがいいな」
弥生さんは僕の皿を見て同じ物を求めた。
「お洒落感ゼロだよ」
「おうち料理です。気取って食べたくないかな」
「お姉ちゃん、斉藤さんの前にキレイに見せる気ないの?嫌われちゃうよ」
真央さんは否定派だったか。姉を心配する。
「私は先生と同じ物を食べたいです」
「文もする」
「じゃあ。私も」
あれ?いいの?結果、ビーフシチューライスが4つ完成する。僕はこれが好きだ。うん。旨い。久しぶりだが上出来だ。三姉妹を見ても軒並み好評ぽい。みんな美味しそうに食べてくれる。代表者に感想を聞くか。
「弥生、どう?リクエストの味は」
「完璧です。久しぶりに食べましたが先生の料理は最高です!」
「お姉ちゃん美味しいけど、誉め過ぎ。惚気過ぎ。でも私もこれくらい料理出来る彼氏欲しいな」
「麻央姉はもう少し料理頑張ろうね。美味しいよ」
三者三様の解答が返って来た。単純に料理が美味しいと誉められるのは嬉しい物だ。僕は二杯目を頂く。
「おかわり。たくさんあるからね。どんどん食べて」
「おかわり!」
「はい」
おかわりを、せがんだのは弥生さんだった。直ぐに彼女の分も準備した。




