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元カノ 別れ

 高校生の夏休み明けにイメチェンしてくる生徒は多々存在する。それを見る度に大人の階段を昇ってしまったか。と複雑な気持ちになる。

 そして、現在。僕のベッド上で元生徒会長が何もまとわない姿でスヤスヤと眠っている。風邪を引かれては困るのでタオルケットを掛けてはある。

 ヤってしまった。という罪悪感ともっと彼女と一緒にいたいという欲求がせめぎ合う。


「先生おはよ」


 彼女が起き僕に挨拶をする。その後ベッドの上から周辺を見渡す。まだ頭が働いてないようだ。


「おはよ。今朝飯準備するから、シャワーでも浴びてこい」


 その言葉を聞きいた彼女は立ち上がり狼狽した。僕が被せたタタオルケットを纏い風呂場へと移動する。


「夢じゃなかった」


 彼女はぽつりと呟く。


 彼女のシャワー後、何もなかったように無言で朝食を食べる。僕はそれを見守りながらコーヒーをすする。無言状態がきつかったのか彼女が話を始めた。


「先生、私の家のこと聞いてくれます」


「ああ。いいぞ」


 それは彼女の家族の話だった。たった1人の母親に彼氏が出来たらしい。それは喜ばしいことに聞こえるが多感期の高校生には我慢出来なかったらしい。


「お母さんのうめき声が聞こえるなーとか思って心配して、そっと、ふすまを開けると最中でした。」


 最後は涙目になっていた。彼女の行動は母親に当てつけに僕と関係を持ったように思えた。


「何故、僕だったの?」


「え?好きだから......大好きだからです!」


 その言葉を裏付けるように彼女は夏休み中、ほぼ僕と一緒にいた。教師は夏休みも学校へ行くが彼女も図書室で勉強する。そこで当たり障りのない会話を交わす。そんな日常。人のいなくなった図書室で調子に乗って肌を合わせることもあった。


 夏休みが終わり夏のイメチェンにチャレンジする学生達。弥生は安定のグルグル眼鏡と髪型の三つ編みて登校していた。外見は変わっていないが中身はだいぶ変わっていた。


 このまま隠れて付き合い、彼女が社会人になったら堂々と付き合おうと考えていた頃事件は起こった。

 10月の頭より彼女の姿が忽然と消えた。いつも来ていた図書室へは顔を出さなくなり、教室でも見かけない。彼女の担任は不登校になっただけとバッサリ切り捨てた。にわかには信じられなかった。


 そんな折り、弥生の母親が学校を訪問してきた。学年主任と担任が応対した。どうも転校の挨拶らしい。家庭の事情と聞こえてきたがあり得ないと思った。

 弥生の担任が職員室に戻ってくる。詳細を聞こうと僕は彼に近づいた。そこで彼から思いかけない言葉をかけられた。


「斉藤先生。水野のお母さんが挨拶したいって。談話室にいるから」


 呼び出しだ。担任でも何でもない僕が彼女の母親より呼び出されている。それは最悪のシナリオかも知れない。それでも僕は彼女の母親から事情を直接聞きたかった。


 僕が談話室に入ると『あと、宜しく』と学年主任は部屋を出た。弥生の母は僕のことを睨み付ける。


「斉藤先生。娘が大変お世話になりまして」


 彼女の言葉にはどこかトゲがあった。


「いえ、大したことしてないです。どうしてこの時期に転校なんですか?」


「あら?わかないのですか?」


 僕にはこう聞こえた。『あんたと娘を離すためだよ』母親からは怒りの気持ちが読み取れた。


「わ、わからないですね。もう少しで卒業ですし」


 先制パンチを躱し話を続ける。


「失礼しました。そうですよね。何も説明がなくわかる訳ないですよね。実は私が再婚して引っ越し県外に引っ越しすることになりまして。娘だけでもとは思ったのですが未成年です。大事な受験時期ですので連れて行くことにしました」


 その答えは正論には聞こえたが何故か違和感を持った。建前であって本音ではない。


「そうですか。あの、もしよければ弥生さんをウチから通わせることも可能ですが」


 僕は弥生を手放したくない。もしもの可能性にかけて見た。今考えれば馬鹿過ぎる。どうして独り暮らしや下宿を勧めなかったのだろうか。


「有り難いお話ですが、それだと先生が犯罪者になってしまいますよ」


 彼女は笑いながら話すが顔は笑っていなかった。この期に及んでまだ戯れ言を言うか!見たいな感じだ。


「そうですか。残念です。ちなみにどちらに引っ越しを?」


「すみません。お答え出来ません」


 怖い顔て答えられる。


「あ、こちらこそ余計なこと聞いてすみません」


「娘が言ってましたの。斉藤先生にものすごくお世話になったと。どんな人か見に来ました。優しそうな方で安心しました。どうぞコレからも先生として頑張って下さい。では、そろそろ時間なので失礼します」


「や、弥生は元気ですか」


 一方的な収束宣言に噛みついた。


「はい。元気です。何年後かに再会出来ればいいですね」


 弥生の母親はここにきて穏やかな表情になり去っていた。


 僕の心は空っぽになった。




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