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誕生石と無意識

 僕はよそ行きの服に着替える。『よそ行きの服』と聞くと響きは良いが実際は普段使いの会う人に失礼がない程度の服だ。弥生さんは昨日の帰りと同じ服。


 今回、二人で向かう場所は弥生さんの家。賃貸マンションで独り暮らしらしい。そんな女の園に侵入だ。その前に下のモールで彼女の指輪を見よう。


「先生、気が変わりました。水族館行きましょう。行きたいです」


「今度ね」


 ここに来て再度、弥生さんが抵抗してきた。絶対に家にあげたくないのか?


「うー。そうだ!先生、ラブホ行きましょう。コスプレH出来るみたいですよ。着物でH出来ますよ。なんなら.....女子高生の格好も、頑張ります!」


「こ、今度ね」


 心が揺らぐ。今日はダメ。


「今しか受け付けません!」


「仕方ない。諦めるよ」


「あ、諦めないで下さい」


「さあ、行くよ」


 馬鹿な会話を途中で切り、下の階のショッピングモールへ移動する。弥生さんは自宅訪問阻止を諦め、とぼとぼついて来た。僕はそのままジュエリーショップへ向かう。彼女は店の前で立ち止まってしまった。


「せ、先生、待って下さい。やっぱり家はダメです。父も仕事しているだろうし、挨拶するにしても。その私の心の準備が」


 彼女は無茶苦茶、慌てている。そして勘違いしている。


「え?僕は弥生が今、住んでいる家に行くんだよ。弥生の実家に挨拶?む。そうだね。挨拶はした方が良いね。でも僕も、まだ覚悟が足りないから。今日は行かないよ」


 僕の覚悟。それは13年前との決別だ。


「私の住むマンションに行くんですか?」


「始めからそう、言ってたつもりなんだけと」


「そっちもダメー!」


 実家もダメだか、自分の住んでいるマンションもダメなのか。


「まあ、アクセサリーでも見て落ち着いて」


「逆に色々プレッシャーなんですけど」


 手を繋ぎ弥生さんを無理やり店の中に引っ張る。引くと抵抗もなく彼女は店にはいってくれた。


「こ、婚約指輪でしょうか?」


「あ、あぁ。違います。なんとなく。なんとなく。なんだけど、弥生の綺麗な指に付けて欲しいかな?」


 色々と僕の考えが浅はかだった。女性に指輪を買うなんて初めてだ。僕らの年齢だと、婚約指輪、結婚指輪になるのか?何かイベントとかがあるタイミングではない。

 ただ、純粋に弥生さんに僕が贈る指輪を付けて欲しかった。


「なんとなく。ですか。指輪ってなんとなくでプレゼントするモノじゃないですよ」


 痛恨の一撃。なんとなくはダメか。


「弥生を僕の物と証明したい」


「先生の物。はい。プレゼントされます」


 納得してもらえたらしい。弥生さんは僕に体を寄せて来る。僕も彼女を軽く抱きしめた。


 二人で指輪を選ぶ。なかなか決まらない。


「誕生石。弥生は何月生まれ?」


「4月です」


「え?3月じゃないの?」


「名前付ける時、揉めたらしいです。卯月は意味不明。皐月は男の子ぽいからダメとか。」


「残った3月、弥生になった」


「そうです」


「4月の誕生石はダイヤモンド」


「誕生石は止めましょう。ちょっとお高いですから」


 値段を見る。良い値段だ。


「ダイヤモンドにしよう。あと弥生。好きなデザインで」


「はひ。では、これで」


 彼女は指輪の中で一番安いモノを取った。遠慮してのことだろう。僕の懐には優しいが、本当に弥生さんが欲しい指輪か気になった。


「値段は気にしなくていいですよ。デザインが気にいらないなら別のを買って下さい」


「これで良いんです。先生からの指輪のプレゼント。一生貰えないと思っていましたから」


「大げさだな」


「だって奇跡なんですよ」


「おーい。僕はそんなケチじゃない」


 彼女は楽しそうに笑ってくれた。僕も何気ない彼女との会話がとても楽しい。いつまでも笑っていられそうだ。


 僕らは指輪を購入し店を出た。購入者は僕なので指輪は僕が預かった。直接、身に付ける人が貰えば良いと思ったのだか、弥生さんはそれを拒否した。本人曰く、お店から直接だと頂いた気がしないそうだ。

 僕は一計を案じる。その足で喫茶店に入った。昼食にも丁度良い時間だ。


「弥生、手出して」


「はい」


 彼女は僕が何をするかわかっていた。目をつぶり、左手をテーブルの上に出す。僕はその手をそっと取る。そのまま左手薬指にダイヤモンドの指輪を差し込む。彼女の手がピクリと動くがあとは動じなかった。


「僕といる時は成るべく付けて欲しい」


 彼女はゆっくり目を開き、左手薬指に視線を移す。その輝き、永遠の輝き。


「ありがとうございます」


「似合って良かったです」


 本当に良く似合う。自己満足かも知れないが、買って上げて良かった。


「次は私のマンションでしたね」


「はい」


「えーと何故ですか?」


「僕との時間を取りすぎて自分のこと何もやってないでしょ?引き留める僕も悪いんですが」


「先生は悪くないです。自分がだらしないだけです」


「そうだ。弥生の手料理食べたい」


「突然ですね。でも頑張ります。カレーで良いですか?」


「弥生の好きな物でいいよ」


 昼食を軽く食べ、今度は弥生さんの城に向かった。


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