本物
誤字報告ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
リネン室でのキスの後、お見合いで話あった偽装恋人について契約の見直しが行われた。
「先生、偽装の恋人を止めませんか?」
「え?こんなことしているのに」
「ええ、だから止めるんです。本物の恋人になりましょう」
彼女の言い分は解る。それが本来の姿だろう。それでも何か心に引っ掛かりを感じた。暫しの間。
「先生。イヤなんですか?」
彼女の再度の押しに僕の中の欲望が弾けた。
「そうだな。わかった。本気で行く」
空いている右手で軽くお尻を撫でる。
「やんっ。ダメです。早いです。時間もないですから」
「痛って!」
弥生さんに手の甲をつねられる。
この時、互いにの呼び方も変えようという話があり、僕は彼女のことを『弥生』と呼び捨てすることになった。彼女の希望だ。それに対し僕は特に希望がなかったので、今まで通り『先生』に落ち着いた。
弥生さんに何故先生なの?と聞くと、『先生だからです』と意味不明の解答が返って来た。『郁也さん』と呼ばれるのは照れくさいので特に追求はしなかった。
そして明日も弥生さんは夜勤。また午前1時リネン室へのお誘いを受けた。僕は今日の続きがしたいと訴えると彼女に怒られた。
「私は仕事中にそんなことをしません!まったく」
「ごめんなさい。キスはいいの?」
「.......」
無言だかコクリとうなずく。キスはOKらしい。
「抱き合うのは?」
「.......」
首を振らず、にらみ合いつける。ダメらしい。
「私は先生とお話したいです」
「僕と話?何が聞きたい」
「たわいもない会話でいいですよ。マイブームとか」
「今のマイブームは生徒の進路だな」
「うふふ。仕事人間ですね。私も一緒です」
「病室でパソコン仕事は可能?」
「あまり推奨しませんが、空き時間に使う分には問題ありません」
深夜の甘い時間はほどなく覚め、僕は弥生さんに病室まで連行された。ベッドに横になると彼女から再びキスを受ける。先程とは違い軽いやつだ。
「ではそう言うことでお願いします」
「こちらこそ、お願いします」
弥生は頭をさげ逃げるように病室を出て行った。
明日も深夜に彼女とデートだ。キスだけで我慢出来るだろうか?そのままの流れでHに持ち込む?僕は片足の踏ん張りが気かないので難しいであろう。
そもそも弥生さんが同意していない。いや、流れが変われば彼女だって僕を受け入れる可能性がある。はず?
色々な妄想をしながら僕は2度目の床についた。こんなハッピーで良いのだろうか?彼女の気の迷いとかはないのだろうか?何れにせよ、明日の夜だ。僕は静かに目を閉じた。
朝が来る。起床の時間だ。弥生さんが検温に来るのを待つ。
「おはようございます。検温の時間です。」
明るい元気な声が病室を包む。
「おはよう。弥生」
仕事姿の弥生さんはいつもピンとしている。真面目一筋だ。見惚れながら体温を報告する。彼女はこの仕事にプライドを持って接してるのであろう。夕べ考えていた妄想が恥ずかしく思える。
朝食の配膳、食器の回収をそれぞれおこなった弥生さん。テキパキと仕事をこなしていた。素敵で格好良かった。僕も病院で出来る仕事を頑張ろう。
夜勤が終わり日勤の時間帯に移る。流石に弥生さんは帰ったようだ。代わりに三浦さんがハイテンションで入ってきている。君仕事は?
「あの先輩が朝からニコニコで気持ち悪いったら」
どの弥生さんかは解りかねるが、いつもの夜勤明けとは違かったのであろう。
「斉藤さん、先輩とついに、しちゃいましたか?」
「してません」
「談話室に証拠が残っているんです。DNA鑑定しますか」
談話室か。それは僕らとは違う先客のほうだ。弥生さんには口止めされている。知らんぷりが正解であろう。
「談話室?何かあったんですか?」
「しらばっくれて。先輩の態度の代わり方。何もない訳ないです」
決めつけるな。どうしよう?弥生さん僕の前では凛々しかったけど、ナースステーションではだらだらだったのかな?
「本当に意味わからないけど。談話室に何があったの?」
「談話室のゴミ箱から男女の事情(情事)の象徴の物が見つかっています」
「嘘。病院って、そんなことをしてるの?」
三浦さん自分の失言に気づく。
「今の話、聞かなかったことにして下さいね」
彼女はすたすた逃げ帰った。おーい三浦さん何しに来た?リハビリの案内じゃないのか?仕方なく1人でリハビリに向かうことにした。
夜の談話室か。少し気になる。僕らも噂にならないように気をつけなくては。




