夜勤の弥生
誤字報告ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。
川田の見舞い後、ベッドの上で仕事について、考えごとをしていた。川田以外にも進路について悩む学生はいる。毎年のことなのに怪我のせいで忘れていた。片手でキーボードは打てる。病室で進路の資料を作れないだろうか?環境さえ整えは夏休み中に自宅勤務も可能なはずだ。
「先生、お食事をお持ちしました」
弥生さんが食事を運んで来てくれた。今日の彼女は夜勤担当。当然、私服でなくナース服だ。看護師姿も彼女にはよく似合う。ただ、今日の彼女は機嫌が悪そうに見えた。仕事の配膳が終わると彼女は病室を後にした。
「こんばんは」
食事の最中に、勤務を終えた三浦さんが訪ねて来た。彼女の私服はいつもイケイケ。
「どうしました?」
「斉藤さんゴメン!先輩の尋問がきつくて全てゲロしてしまいました」
「全てって?」
「自高の生徒と病室で抱き合い、秘密裏に談話室でも抱き合っていた」
「ナッ!ゴボッ」
今日は米粒を吐き出してしまった。
「そういう訳で今日の先輩怒りモードでーす。気をつけて下さいね」
三浦さんは場を荒らすだけ荒らして帰宅していった。おい。
「食器下げに来ました」
弥生さんが食器を下げに部屋に訪問してきた。ここは自力で誤解を解かなくては。
「あの、弥生さん」
「はい」
「三浦さんがどう説明したかわからないけど。全部誤解だから」
「すいません。業務とは関係無さそうなので失礼します」
弥生さん食器を持つと、すたすたと病室を出て行ってしまった。わからないけど怖い。いつもの通常運行にも見えるのが、怒っているよにも見える。これはどう対応すればいいんだ?
消灯時間が近づき看護師の見回りが始まる。
「就寝時間です。消灯お願いします」
弥生さんの声が聞こえる。これは通常運行だ。うん。深く考えず、とっとと寝てしまおう。
「パサ」
ん?なんだ。一枚の紙がベッドの上に置かれている。僕は紙を手に取る。手紙だ。中身を読む。
『深夜1時に談話室でお待ちしています。弥生』
うぉ。呼び出しだ。な、なんでしょうか?くそ、三浦さん恨むぞ。まさかのムフフの展開もあるか?ないな。待て。僕は何も悪いことはしてない。堂々と対応しよう。
約束の時間の10分前。この時間に起きれるようイヤホンを通しスマホのアラームを鳴らす。無事に目が覚めた。気合いを入れ談話室へ移動する。
談話室には灯りがついており先客がいた。すでに弥生さんが来て待っているのだろうか?僕は恐ろ恐ろドアに手をかける。その手の上に別の誰かの手がかけられた。驚きその手先を見ると、弥生さんがその場に来ていた。彼女は顔の前に人差し指を立てる。静かにってことだな。僕は小さくうなずく。
「こっちです」
弥生さんから小声で指示を受ける。彼女の肩を借り別な場所に移動することになった。
移動した場所はリネン室。弥生さんは簡易椅子を出して来て自分達の席を作った。僕と彼女は90度ぐらいの角度で座る。
「先生、談話室で見たモノは内密に願います」
「内密も何も僕は何も見ていないよ」
「そう言ってもらえると有難いです」
彼女は安堵の表情を浮かべる。真夜中の談話室の先客か。何が行なわれている?
「僕らみたいに逢い引き?」
つい、思ったことを口にしてしまう。
「私達はあんなHなことしません!くれぐれも内密に願います」
怒られました。カマをかけただけだがビンゴでした。そしてHなお誘いではなく、やはり怒られるほうのようだ。
「で、何のご用意でしょうか?」
「え、はい。その。ただ。お話がしたくて。業務時間での個人の会話はNGなので」
ただの会話か。少しほっとしたため更なる失言を重ねてしまった。
「そうですか。僕はてっきり」
「てっきり?なんですか?」
墓穴をほった。僕の目が泳ぐ。
「今日の昼間の件かな~っと」
「花ちゃんから話は聞いてます。とても、先生らしいなと思いました」
「そうですか」
どうやら問題ないらしい。
「わ、私にも同じことして、してた。して欲しいです」
「え?」
弥生さんの五段活用のような引っ掛かりに、彼女の焼き餅を感じた。はっきり言葉を聞きたくて、つい疑問符で返してしまった。
「お願いします」
横から流し目で訴えられる。ごまかし押しきるようだ。アレだよな?昼に川田にやった、頭撫で撫で背中トントン。アレを大人の女性にやって大丈夫か?
「先生ダメ?」
躊躇していたら弥生さんより催促が入る。なんだこの人。メチャクチャ、カワイイ。胸の鼓動が高まる。
「わかりました。弥生さん。こっちに来て下さい」
「はい」
弥生さんは嬉しそうにこちらに近づいてくれた。動く右手で彼女のことを引き寄せ、僕に重心をのせさせた。あとは言われるまま、頭、撫で撫で。背中トントン。
やば、川田の時とは違って興奮する。なんというか大人の色気?深夜だからか。とても抱き心地がよい。コレ欲しい。
トントンが終わり弥生さんが体勢を戻す。顔が近い。
「先生、こうやって何人の女の子騙したんですか?」
「あなたで二人目です」
「あら?川田さんの次ですか?」
「川田は生徒です。10年以上前にいた彼女の次です」
会話のあと数秒の静寂。見つめ合う二人。弥生さんが僕に唇を重ねて来た。僕も彼女の酸素を奪い取るように彼女を求めた。




