不機嫌な人
学校関係者が帰ると、すぐに弥生さんがやって来た。
「すいません。その花束なんですがウチの病院は持ち込み禁止なんです。捨てる訳には行かないので預からせ下さい」
彼女はペコリと頭をさげる。話を聞くと近年、感染症予防のためこちらの病院では持ち込みNGとなっているとのこと。
「知らぬ事とはいえ、すいませんでした」
「いえ、こちらの注意不足です」
彼女は花束を回収し仕事場へ戻っていった。
夕食前の時間に母が着替えを持って来た。
「郁也。今日どうだった?」
「リハビリを少しやったよ。生徒達が見舞いに来た。あとは今日になってから怪我した部分が痛いかな」
「先生は何か言ってた?」
「すこぶる順調だって」
順調と言われているが少し不安だ。なぜなら目覚めた時により本当に痛みがひどくなっている。弥生さんに少し相談するか。
「生徒さん達はどうだったの?」
「うるさかった」
でも生徒の無事が見た目で確認でき、ほっとした。自分以外が怪我をしてたら僕の行動は無意味だったと思う。
「あら、折角お見舞いに来たのに失礼な反応ね」
「しょうがないだろ。それとアイツらから花束貰ったけど病室持ち込み禁止なんだって。ナースステーションに預けてあるから持って帰って」
「はい、はい」
アイツらの感謝は母に預けよう。
「弥生さんと仲良くしてる?」
「え?え?」
仲良いのか?仕事着の時は事務的で、普段着の時は横にいるだけ。僕の息子は3回ほど、摘ままれているけど。
「なんで戸惑うの?」
「うっさいなぁ。色々あるんだよ」
「色々あったの?」
「......」
母は楽しそうに僕と会話をする。よくよく考えて見ると、顔を付き合わせての会話などここ数年していない。電話連絡はちょこちょこあるのだか。
時間が立つのは早く夕食の時刻となる。
「夕食は配膳されるの?」
「ああ、毎回弥生さんが持って来てくれる」
「あら。あら。新婚さん?」
「本来は自分で取るの。僕は動けないから看護師さんが持って来てくれるの」
「お仕事ね。今日は?」
そ、お仕事。彼女の場合。夕、朝は私服だったけど。
「どうだろう。身内がいればやらないんじゃないかな?」
「残念ね」
「そう言うこと。母さん頼むよ」
「わかったわ」
母が夕食を取り行く。行ったが、なかなか帰って来ない。帰って来たと思えば、着替えが済んだの弥生さんと一緒だった。母は荷物をまとめると『急用を思い出したから帰る』と宣言し病室を後にした。
「親子の団らんの邪魔をしてすいません」
「いえ、こちらこそ妙な気遣いさせてしまって」
恒例になった弥生さんとの静かな一時だ。
「いただきます」
彼女は僕の食べるのを難しそうな顔で見ている。そうだ。僕は彼女に聞くことがあった。
「弥生さん。怪我のことで聞きたいことがあるんですが」
「なんですが?」
とたん、彼女は看護師の顔になる。
「先生は順調と言ってくれましたが、日に日に怪我した場所が痛むようになっているんですが」
「ああ。麻酔使ってませんから」
どうやら怪我の手術後。目覚めた後。と痛み止めの麻酔が打たれていたらしい。そして、麻酔が効いている最中は動けないのだ。
「痛みはおそらく今晩がピークです。どうしても我慢出来ない場合はナースコールしてください。今日も三浦さんが居ますから。痛み止めが処方されると思います」
「そこまでわかっているなら、麻酔2、3回打って良かったのに」
「神経が繋がっているから痛いんです。神経が繋がってないと手足が動きません。」
さらっと怖いことを言われた気がする。怪我の治療では当たり前のことなのだろう。納得出来たような出来ないようなモヤモヤする。
「先生のお見舞い、カワイイ子ばかりでしたね」
僕が考えことしてたせいか、彼女から話題転換してきた。ウチの生徒達の話した。
「うるさい奴らですいませんでした」
「いえ、先生、信頼されているんだと安心しました」
「ナメられてるだけですよ」
「先生ってロリコンですか?」
「ゴボップ。ペッペッ」
ふいの問いに味噌汁を吹き出す。ついむせてしまう。
「大丈夫ですか?」
弥生に背中をさすられる。
「な、にお」
「すいません」
弥生さんのロリコン発言に無茶苦茶驚く。唐突になんだろう?でも誤解は解かなくては。
「ロリコンじゃないです」
「今日来た生徒さん、みんな先生のこと好きですよ」
「ない。ない」
「あの一番始めに写真を撮った、おさけメガネの子。先生のこと大好きですですよ」
委員長のことか。どうだろ?彼女が僕を好きと言うより、僕があの子の代わりとして手元に置きたいだけかも。
「なおさら、無いですね」
「そうですか。すいません今日はこれで帰ります」
彼女は食器を持ちあわただしく退出した。何か用でもあるのだろうか?
それにしても、僕と委員長?周りからそう見えるのか?もう少し慎重に行動しよう。同じ轍を二度と踏むまい。




