見合い
『本日はお日柄もよく』
『あとは若い二人に任せましょう』
と、おば様達が定例文を読み上げる。
僕は風流な旅館の座敷にて着物美人と対面している。髪はパーマをかけ茶髪。目はくりっと丸く、顔はどこか懐かしい。体型は着物ためハッキリとはわからないがスリムにみえる。好みの女性ではある。
だか僕は、まだ結婚など考えていなかった。勿体ない話ではあったが適当に話し、この話をご破算にしようと思う。
座卓の上にあるお茶を一口飲み、口を走らせた。
「すみません。こんな年寄に付き合わせてしまって」
「いえ、私も30ですから」
話し始めると彼女の硬い表情が少し弛んだ。緊張していたのであろう。そして言葉選びに失敗したことに気づく。自分の年齢を年寄り呼ばわりし、彼女の年齢を考えていなかった。男と女では結婚適齢期が違う。彼女はギリギリか。プライドを傷付けないよう慎重に。
「立花さん位の女性だと、おモテになったでしょう」
「そんな事はありません」
謙遜されてしまう。まあ、こんな席では本音など何語るまい。何故これで彼氏がいない?って、ぐらいの美人だ。いや、彼氏はいるけど、なんらかの理由でここに来させられている可能性もあるな。
僕は早めに本題に入ることにした。
「実は僕はまだ結婚願望ってのが無くて今回の件もお断りしたいんですが」
彼女は驚いて見せた。本気なのか?演技なのかはわかりかねる。
「年を取った私には魅力がないと」
「そんなことはありません。立花さんは十分魅力的です。自分が結婚に消極的で」
「そうですか...... 私もまだ結婚は考えていないんですが、断ると、すぐに見合いの話が来るのてす」
一呼吸置いて彼女は自分の置かれている立場を語ってくれた。
「それは良かった。次は結婚したい男が現れますよ」
「話聞いてました?私も まだ結婚するつもりないんですよ」
「すいません。そうでしたね。それは困りますか」
この人は僕と同じ立場の人間だった。女性の方が風当たりは強いかも知れない。
「......どうでしょう。いっそ交際していることにしてくれませんか?親、親戚の攻撃が無くなり助かります」
そんな彼女がとんでもない提案をして来た。僕は何故かわからないが良く考えると僕にも都合がいい。すぐに即答をする。
「いいですね。では交際していることにして、ずーっと会わないようにしましょう」
「形だけの交際ですね。良い考えです」
こうして彼女と交際しているけど干渉しない恋人関係が成立した。交際相手の名は立花弥生。県立病院で看護士(看護師)をしているそうだ。美人なのだか、仕事が忙しくお相手がいない。心配した親戚が僕の親戚に繋ぎをつけて来たらしい。
僕の名は斉藤郁也36歳、高校教師をしている。教科は現国。こちらも忙しく彼女の彼の字も聞こえてこない。親戚が勝手に心配した結果、この見合いが組まれた。
「念のため聞きますが先生は今、付き合いしている方はいないのですか?」
「いませんね。いたらこの場に来ていないですよ。立花さんは?」
「先生の答えと同じです。昔、付き合っていた彼女とか、いないんですか?」
見合いの質問タイムだ。僕の付き合った子は一人。答えるべきか悩む。相手のことを深く聞かれると話ようがない。僕の彼女だった子は僕の教え子だ。僕は新人一年目の教師時代に教え子に手をだした。倫理上問題がある。真実を混ぜて適当に話すか。
「一人だけ付き合った人がいます」
「何故、おい...別れたのですか?」
『おい?』彼女はそこまで言葉を口にしてから、別れた理由を聞くように切り替えた。別の何かを聞きたかったのだろうか?
「所在が不明になり、自然消滅しました」
嘘ではない。彼女の母親に僕らの関係がバレ、彼女は転校させられてしまった。それっきりだ。
「嫌ったわけではないのですね。で、では、その人と再会したらつ、付き合うのですか?」
「正直わかりません。もうだいぶ前の話ですし。僕のことより立花さんは彼氏いなかったのですか?」
話が深堀りされると不味いので彼女の方に話題を振った。
「わ、私?......一人だけ」
「かっー。こんな美女と別れるなんてなんてもったいない」
「そうですよ」
彼女は一瞬、僕を睨み付ける。だかすぐに恥ずかしそうに表情を変えた。表情がコロコロ変わり楽しい。懐かしい感覚を思いだしそうだった。ま、これで最初で最後だ。
「では、形だけの連絡先の交換をしますか」
長いようで短いお見合いが終了する時間となる。この後、別の場所に移動するわけではなく、ここで別れる。連絡先を交換したことが両家の親戚へのせめてのお返しだ。
「あ。最後に一つお願いがあります」
連絡先交換中に彼女から不意に妙な言葉が飛び出した。何か願い事があるらしい。『連絡先は交換するが連絡してくるな』だろうか?それは当然だ。まずは要求を聞いてみる。
「なんですか?」
「今後の経験のために名字ではなく、名前で呼んでみてくれませんか?」
女性の下の名前を呼ぶのは失礼かと思っていたがこれっきりの彼女の依頼だ。快く対応する。弥生か、僕には馴染みの名前だった。
「お安いご用です。弥生さん」
「はい、先生」
彼女は嬉しそうに微笑む。僕はかなりドキッとさせられる。この人と付き合うべきでは?とついつい思ってしまう。自分の発言を少しだけ後悔した。でも仕方ない、美女と一度挨拶しただけ。
こうして、僕は彼女と付き合うフリをお互いにすることになった。もう二度と会うことは無いと思っていたのだか予想外の出来事で彼女と再び再会する。




