1.出会い
目が覚めるとそこは知らない天井だった。
ベッドから起き上がり周りを見るが、人がいる様子はない、机には自分の荷物が置いてありその他にここがどこか分かる物はないようだ。
雰囲気だけでいうなら保健室?窓から差し込んでくる夕日がとても眩しい。
自分はなんでこんな場所にいるんだろう、思い出せるのは大学で昼食を食べていた時に急に気分が悪くなって、、、そこからの記憶がない。気を失ったのか?
少しふらつく気もするが立ち上がることは出来るみたいだ、ここがどこなのか知りたいので外に出てみよう。
扉を開けると無機質な廊下が広がっていてた。
ここは保健室ではなく病院だったらしい、おそらく気絶した俺を見た誰かが119番で救急車を呼んでくれたのだろう。
夕日が差し込む廊下には誰もいないようで、ただ続く廊下はどこか寂しげに感じる。真ん中には大きな窓があり、そこから外を見ることができた。
窓を開け外の景色を見ればここがどこの病院か直ぐにわかった。
山の上に立つ病院で地元でも1番か2番目くらいに大きな病院だ。そしてここは最上階らしい、窓の外には見慣れた街、それを太陽がオレンジ色に照らしていた。
「もう夕方か、、、」
一人でいる空間に耐えかねた俺はなんとなく思ったことをポツリとつぶやいていた。
「あなたには何が見えますか?」
突然聞こえた声に振り返ってみるといつのまにか一人の女の子がいた。
綺麗に伸びた黒髪に色白の肌、まるで人形の様とはよく言ったもので、その言葉がとても似合う美少女だった。
「…俺に言ってるのか?」
「他に誰か居ますか?」
「いや、居ないけどさ…見えるのは普通に外の景色だよ」
「そうですか、でも私にはそれも見えません」
「そりゃあ、あんたが車椅子に座ってるからだろ?」
「クスッ、そうかもしれませんね」
少女はクスリと笑いながらそう言った。
車椅子に座っている彼女からこの窓の外が見えないのは当然のことだろうに変なことを言う子だ、もしかしたら外に出られないのか?だとしたら悪いことを言ってしまったかもしれない。
「一体、何が言いたいんだ?」
突然話しかけてきた少女に動揺した俺は思わず少女に尋ねていた。
「あなたにも分かる日が来ます」
「教えてくれないのか?」
「秘密です」クスッ
「なんだよそれ」ハハッ
「それで、外の景色は綺麗ですか?」
「ん?別に普通だよ、なんて事はない夕焼け空に、見慣れた街、特別なものは感じないな」
「そうですか…それはきっと美しい世界なんでしょうね。」
「本当に何が言いたいんだ?というか君は誰?」
「私ですか?私は…」
「山本さーん、そろそろ時間ですよ~」
「あら?ごめんなさい時間みたい、私は自分の病室に戻ります」
「…あぁ、気をつけて」
そう言い残すと彼女は俺に背を向け看護師さんに車椅子を押され、病室がある方へ帰っていった。
彼女は一体何者だったんだろう…名前は確か山本さん、看護師さんがそう呼んでいた。
俺が思い出せない昔の知り合いという訳でもないはずだが、なんでいきなり話しかけてきたんだろうか。
「なんだったんだ一体」
考えても仕方ないか、そろそろ俺も自分の部屋に戻るとしよう、もしかしたら家族の誰かが来ているかもしれない。
そして俺は彼女と反対の廊下に向かって歩きだした。
「優斗!勝手にいなくならないでよ!心配したじゃない!」
「母さん、ごめん、ちょっと目が覚めちゃって、ここがどこなのか散歩してた」
病室に戻ると案の定母親が来ていた。
母によれば俺は大学の食堂で突然倒れ救急車に運ばれてこの病院に来たらしい。
詳しいことは精密検査をしてみないと分からないらしいので、とりあえず入院という形を親がとったようだ。
そして母が売店に行っている間に俺が目を覚まして、今に至る。
そういえば、彼女は一体誰だったんだろう、見た目は高校生のようにも見えたが、今のところわかっているのは「山本」という名字だけ。
あの子も病室に帰ったということは入院しているのか、車椅子に乗っていたし足を怪我しているのかもしれないな、同じ病院にいるんだからまた会う機会もあるだろうし、その時にまた話せばいいか。
ベッドに座り母にもらったお茶を飲みながら自分の身体の心配を忘れ、そんなことを考えながら天井を見上げると沈みかけた夕日がコップのお茶に反射して綺麗な模様が映し出されていた。
「…綺麗だな。」
ーーーーーーーーーー
「…はぁ」
思わず溜息が出る、私はどうして彼に声をかけたんだろう…。
別に興味があるわけではない、なんとなくだ。
誰の声も音も聞こえない中で彼の声が聞こえたから少し動揺してしまったのかも。
彼も入院しているのかな?あの人はどんな思いで外を眺めていたのだろう。
今の私にも外の世界を見る権利はあるのかな…。