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とあるハンターの話。  作者: 弓鳴千風
Case.マイ
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4.ひとり立ちの合否




「だんにゃさま~! 起きるにゃあ! 朝だにゃ! 今日は村長さんに呼ばれてるハズだったにゃあ!!」


 朝、にゃあにゃあとラピスに叩き起こされたマイは、起こしてくれたラピスに「ありがとう」と言ってベッドから身体を起こした。


 マイがラピスを迎え入れてから、一週間が経っていた。

 あれからすぐ、体力が回復したラピスはさっそくマイのために料理を覚えようとしてくれたのである。初めて作ってくれた料理はコゲコゲで、大体炭の味がしていたけれどマイがそれを笑いながら食べれば、ラピスはかなり感動した結果、一緒に食べながらぽろぽろと涙を零していた。泣かれたことにあわあわとし、テンパったマイは「わたしも何か作ろうか」と料理を披露することになり、ラピスからは「作れにゃいんじゃにゃいにゃ?」と首を傾げられつつ、「作れないこともない」と件の見た目は普通に美味しそうには出来るのに、味は不味いという料理をふるまえば、ラピスはそれを食べて笑ったのだった。

 そんな日々を過ごして一週間、自分が狩りに出て家を留守にしている間に相当練習したのだろう、ラピスの作る料理はいつの間にかコゲコゲじゃなくなったし、見た目通り美味しい料理が出てくるようになって来ている。


 起きれば、朝食は用意されていて、それをテーブルの椅子に座って食べながら、近くに寄って来たラピスの頭をマイは撫でた。


「ご飯ありがとうな。にしても、いつの間にこんなに作れるようになったんだか」

「だんにゃさまが狩りに行ってる間に色んにゃ人にレシピもらったにゃ! ラピス、本を読んだりするのは好きにゃ!」

「わたしは読んでもてんでダメだったがなあ……」


 ラピスの作ってくれた朝食を食べつつ、マイがそうぼやけばラピスはマイの作ってくれた料理の味を思い出してだろう、何とも微妙な表情を見せる。


「だんにゃさまは……にゃんでああにゃるのか……ラピスも一緒に工程見てたけど、分からにゃいにゃ……」

「ふふっ、まあ、だから助かってるよ。ありがとう」


 またお礼を言えば、ラピスは嬉しそうな笑みを浮かべた。そんな朝食も食べ終わり、マイは「さて」と息を吐く。


「村長か……この間は堅殻種の一角獣モンスターを倒してこいと言われたが、今度は何を頼まれるやら」

「にゃ……? だんにゃさま、あの一角獣モンスターを倒したにゃ?」

「あのって言われると分からないが、一角獣モンスターはこの間……君を拾った時に倒したが――あ、もう行かないと。じゃあラピス、留守を頼んだぞ」


 現在マイが使用している対モンスター用の装備を装着し終えると、マイはそそくさと家から出て行った。残されて、ラピスは小さく「にゃあ……」と息を漏らす。


 堅殻種の一角獣モンスター、それをラピスは知っていた。

 縄張り意識が強いと知られているそいつは、一歩そいつの縄張りの中に入ってしまえば確実に敵対されて襲ってくる、気性の激しいモンスターである。更に、気性が激しいだけではなく、一般的にハンターを始めたばかりのハンターが、必ず倒すのに躓くと言われている、下位級の中でも強いモンスターだった。

 それをこともなげにさらりと「倒した」と言っていた辺り、マイはそいつ相手に躓くことがなかったのだろうと予想できる。


 まだ出会って一週間、自分がモンスターが怖いと言っていたのを考慮してだろう、共にフィールドに連れていかれたことがラピスはなかった。けれど、帰って来たマイと色々な話をする中で、本人が記憶喪失だというのも聞いていたし、ハンターを始めて三ヶ月そこらだというのも聞いている。だからこそ、ラピスは驚いたのだ。


 普通、堅殻種の一角獣モンスターを倒すのには――半年かかるとハンターの世界では言われているのだから。


 それを始めて三ヶ月の“ド”がついてもいいほどの新人ハンターに、狩りに行かせた村長も村長だが、当たり前のように狩って帰ってきているマイもマイである。


(だんにゃさまは……一体にゃにものにゃ……?)


 記憶喪失のマイにそれを思ったところで、答えは返って来ないのは分かっていたけれど、そう疑問に思わずにはいられなかった。





 


 家を出て、村長に言われたのは確か「村の北門に来て」ということだったと思い、マイは緩やかにそちらに向かった。村の北門近くには、まだライセンスを取るためにしか入ったことのないギルドと、その隣に訓練場、それに伴ってか武器防具の加工屋に、ハンター用のアイテムが売っている雑貨屋がある。

 基本的にその北門から外に出てクエストに向かうため、マイはよく足を運ぶ場所だった。


 そうして、マイが北門に向かえばそこにはすでに村長の姿と――その隣に一匹の猫の獣人族が佇んでいた。村長はその彼に何か話していて、彼はただ黙々と頷いている。黒と白のハチワレの毛並みで、金色の目を持ち、赤いポンチョを着ている彼は、初めて見る存在だった。



「村長」

「ああ、マイさん。待ってたわあ」


 声をかければ村長はこちらに振り向き、いつものように穏やかに笑いかけて来る。その隣に居た彼にも目を向けられ、ひとまず彼に向かって頭を下げてから、マイは村長に歩み寄った。



「あの、そちらの彼は……」

「ああ、この子ねえ。この子はおばあちゃんのお友達でナビーちゃんよお。今日はちょっとマイさんのことを見て貰おうと思って来てもらったの」


 そんな紹介をされ、「見て貰おうと思って」と言った村長の言葉に疑問を持っていれば、ナビーと呼ばれた彼はマイに向かって顔を上げて、すうっと頭を下げて来る。何とも、気品のある動きだった。



「お初目にかかる、私はナビ―と呼ばれている者で、ハンターたちからは敬意を持って“ナビーさん”と呼ばれてるにゃ」

「はあ……ナビ―さん……」

「村長、彼女が件の子かにゃ?」

「ええそうよお。マイさん。どうかしらあ、ナビ―ちゃん」


 何が「どう」なのか全く分からないが、何を聞いたらいいのかも分からず、マイが黙り込んでいると、ナビ―はじっとマイのことを見つめて、上から下に目を走らせる。品定めをされているような、観察されているような目線に、マイが思わず身体を強張らせると、ナビ―は「ふむ」と鼻を鳴らした。



「――その武器は、強化してあるにゃ?」

「えっ? あ、ああ。鉱石系の武器で、素材が集まり次第強化して行ってますけど……」

「一角獣モンスターを討伐した、と聞いておるがそれは今と同じ装備で行ったにゃ?」

「はい、そうですが……」

「討伐には、どれくらい掛かったにゃ?」

「えーっと……、確か、一時間くらいだったと……」


 される質問に訥々と答えれば、ナビ―は「にゃるほど」と頷いてからまたマイのことをじっと観察し、その後間を置いて「うむ」と高貴な笑みを見せた。



「村長、よかろう――彼女は合格にゃ」

「あら本当? よかったわあ~」



 ナビ―の言葉に両手を合わせ、そう笑った村長に当然マイは首を傾げる。突然ナビ―から「合格」を渡されたものの、それが何に対しての合格なのか、話が全く見えて居ないマイは首を傾げることしか出来なかった。

 そんなマイの様子に、村長はくすくすと笑う。



「ごめんなさいねえ、突然訳が分からないわよねえ」

「え? あ、えと、その、」

「実はねえ、この村から出たハンターさんにはちょっとした決まりがあるのよお」

「決まり……、ですか?」

「ハンターって、やっぱり危険なお仕事じゃない? マイさんくらい大人であれば、そういう分別はつくと思うけれど……そうじゃない子もやっぱり居るから」

「分別……」

「ハンターのライセンスは十二歳で取れてしまうの……子供でもハンター活動できちゃうから……身の丈に合わないモンスターに挑んで、命を落とす子も少なくないわあ」

「ああ……、はい」

「だからね、この村では一応このナビ―ちゃんに審査してもらって、ナビーちゃんのお眼鏡に叶った子だけが、一人でハンター活動していいってことになってるのよお」

「なるほど……」

「外部から来た子にはそんなことしないけどねえ、村の子たちだけでもね……無闇に死んじゃってほしくないからねえ」


 聞きながら、マイは更に疑問を浮かべた。だからナビ―に観察され、それで「合格」を言い渡されたけれど、そもそも自分は一人でクエストに向かっていた――そう思う。それをマイが聞いてみれば、村長は「ああ」と頷いた。



「マイさん、今までずっとおばあちゃんが渡したクエスト行ってたでしょお?」

「はい。ギルドから選んできて下さったもの、ですよね」

「おばあちゃんがマイさんに渡してたクエストはね……全部一人で行けるものなの。そういうのを選んで渡してたから」

「一人で……行けるもの?」

「クエストの難易度ってねえ、ギルドじゃかなり大雑把にしかわかれてないのよお。下位級、上位級、高難易度、大きくわけてその三つだけ。上のランクのもの受けるには、それに準ずるテストを受けてそれぞれのライセンスを取る必要があるじゃない?」

「はい。だからわたしは今下位級のライセンスしか持ってませんから……上位級と高難易度のクエストは受けれないです」

「ただねえ、その各ランク内でもモンスターによって討伐の難しさは全然違うのよお。下位級に振分されてるのに、殆ど上位級のクエストとか……結構存在するのよお」



 言われて「確かにそうだ」とマイは思う。

 下位級のこのライセンスで、村長から渡された初めてのクエストは、ハンターしか立ち入ってはいけない区域内に生息する薬草の採取から始まり、つい最近渡されたのは一角獣モンスターの討伐。同じライセンスで受けれる二つのクエスト、比べてみてどちらが危ないか危なくないか、一目瞭然であった。それでも、下位級のライセンスを取った時点で最初から、その一角獣のモンスター討伐を受けれてしまうのである。


「でね、おばあちゃんがマイさんに渡してたクエストは……いわゆる一人用のクエストになるの」

「一人用のクエスト……」

「ギルドから設定されたクエストの基本最大同行人数が四人なのは知ってるわねえ? でも、モンスターの強さによっては四人で行く必要がなくて、一人で倒せるだろうってモンスターの観測隊から指定されるモンスターも居てねえ。そういうのを四人で行かれると、ギルドの方でハンターが足りなくなっちゃったりして、手が回らなくなるから……一人用のクエストが存在してるのよお」

「そうなんですね」

「一方でギルドで直接受けれるクエストっていうのは、基本的に四人用のクエストでねえ? 少なくとも、おばあちゃんがマイさんに渡してたクエストと比べて、難易度、討伐対象モンスターが一緒でも……そのモンスターの強さ、簡単なところで主に体力何かは二倍くらいになってるって思ってくれていいと思うわあ」

「二倍……」

「でも、最大同行人数が四人っていうだけで、それを一人で行くことは出来ちゃうのよお。ギルドの人も四人で行った方がいいわって言ってはくれるけど、そこに強制力はないから。それでね、ナビ―ちゃん――この子はねえ、とおっても観察眼が鋭くて、先見の目を持ってる子なのお。マイさん、貴女はナビ―ちゃんに合格って言われたけど、ナビ―ちゃんの目から見てどういう意味で合格かっていうと、これから先貴女がギルドのクエストを一人で行くことになっても、きっと大丈夫だろうってことよお。ねえ、ナビ―ちゃん」

「む……そうにゃ。ただ、それはその時の己に見合ったものをしっかりと準備をして向かったら、だにゃ。私の言葉で、決して慢心しないことにゃ。さすれば、訪れるのは死であろうからにゃ」


 ナビ―から言い渡された「合格」の意味を聞き、マイは「はい」と答えた。そんなマイの返事にナビ―は満足そうに笑う。


「時に、お主がもっとハンターとして活動し、実績を積んだその時は私から声を掛けさせてもらうことがあるかもしれないにゃ」

「え? どういうことですか……?」

「私はギルドより、かなり難易度の高いクエストを幾つか預かっているにゃ。ギルドからは私が渡しても良いと思える人にしか渡してはならないと、そう言われているクエストにゃ。今はまだまだお主はそれに値していない。私の目で見て、いつかその時が来たら――頼むにゃ」


 そんなことを言われ、マイがひとまず頷いていると、村長は「そういうことだからねえ」とマイを見上げた。


「これからはマイさんが自分で行きたいクエストに、自分で選んで行くといいわあ。ほらあ、ハンターさんの武器防具は基本的にモンスターの素材から制作するでしょお? 作りたい武器防具がそろそろ出来てきてるんじゃないかと思うから、選んで行くといいわあ。たまに、村に接近してきたモンスターの討伐を直接頼むことはあるかとは思うけど……」

「それは勿論、いつでも頼んで下さい。村長には恩がありますから」

「ありがとうねえ。ギルドのクエストを受けるに当たって、おばあちゃんから言えるアドバイスは……早く仲間を集めるといいってことねえ。ギルドにはクエストボードって言って、誰かがクエストを受けてそれに同行者を募集してるものが貼ってある掲示板があるんだけどねえ、一期一会のものもあれば、四人のパーティを組むために募集してるものもあるから……稀に一期一会のパーティにしか属しないで、一人でハンターをしてる人もいるけど、固定で四人のパーティを組んだ方がいいとは思うわあ」

「そうなんですか?」

「ええ。一期一会のパーティじゃ仲間として頼り辛いでしょお? 相性がいい人がいれば、固定でパーティを組むように持ち掛けるといいわあ。逆に、マイさんが持ちかけられることもあると思うけど……仲間はいた方が絶対にいいからねえ」


 言われたそれにマイが思い出したのは、つい最近拾って、雇ったラピスのこと。彼女が自分の元に来てくれてから、今のところずっと自分は助かっている。


「そう……ですね。仲間、探してみます」

「ええ。じゃあ今日からはマイさんは自分でクエスト選んで行ってもらっていいからねえ。何かあったら頼らせてもらうわあ」


 そうしてにこにこと笑いながら手を振られ、マイは近くのギルドの建物を見据えた。

 辺境の地にある、小さな村の中では一番大きい施設になる、周辺モンスターの管理、統轄をしている「ギルド」の建物。ハンターとしてのライセンスを発行するための窓口から始まり、最初に取れる下位級のライセンスを上位級、高難易度のライセンスに更新するための窓口や、それにともなった各ランクのクエスト受注の窓口、広くてまだ中を見切れていなかったマイだが、初めてそこに足を踏み入れた時、辺境の地のギルドでも、十数人のハンターと思わしき人たちがギルドの中には居た。


 その中の誰かと、パーティを組むことになるのだろうかとマイはそこに足を踏み入れたのだった。

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※別シリーズの『18歳気怠い騎士と、7歳気難しい王女』と世界観は全く同じです。同じ世界の別の人たちが主人公となってるものです。
 そして、ちょいちょいそちらのシリーズ読まれている体で話を上げることになるかと思います。
 読んでなくても、ふんわりとした世界設定ですので、話的には読まれていなくても大丈夫かと思いますが、急に知らない人とか出て来てしまうかもしれません。
 気になったら読んでみていただけると嬉しい限りです。

『18歳気怠い騎士と、7歳気難しい王女』:弓鳴千風
よろしければ、上記からどうぞ。
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