【Prologue】同担拒否限界夢女子オタクの転生
同担拒否。この言葉を聞いたことがあるでしょうか。
簡単に言えば、同じキャラクターやアイドルを応援するファンを苦手とする言い回しです。
パソコンの検索エンジンで "同担拒否 とは" と文字を入れてエンターキーを押せば、
"オタク・ファン(ポップカルチャー愛好者)の中の応援の仕方の一つ。特に応援しているものが自分と同じである他のファンにあまり絡みたくない対象であるということを伝える言い回しのことを指す。対義語として「同担歓迎」"
とWikipediaで説明されることでしょう。
応援しているうちに好きだという気持ちが強くなり、自分が誰よりも彼を想っているからと他のファンに対して嫌悪感を表してしまうときに使用することが多いですね。
さて、ではなぜわたしがいきなり同担拒否について語り始めたのかという部分についてお話ししたいと思います。
わたし、エレナ・キャンベルは五歳の頃から奇妙な夢を見続け、三年後の八歳のときにその夢がいわゆる前世での出来事だったと自覚した伯爵家の娘です。
既にこの一文で様々な情報が渋滞しているように思えますが、まぁよくある転生ものだと思って流してください。
重要なのは三年間見続けた夢です。最初は特に気にしていなかったのですが、一年を過ぎたあたりから一人の人物についてばかり見るようになりました。
その人物というのが現在わたしの弟であるウィリアム・キャンベルなのです。
夢で見る弟はわたしが知っている今から十歳くらい年を取っていて、わたしよりも頭一つ身長が高く、輝くような金髪に透き通るような青い瞳をした憂い顔が似合う青年でした。
そんな弟は前世でわたしがよく見ていた乙女ゲームを原作としたアニメの準主役級キャラクターだったのです。アニメでは準備主役ですが、原作ゲームでは攻略ルートが準備されているくらいのキャラクターでした。
乙女ゲームが原作とは言え、アニメをきっかけに好きになったわたしは既にあるアニメ版ヒロイン像のせいで「ヒロイン=自分」としてプレイすることが出来ず、原作ゲームは未プレイ。コンテンツガチ勢から見ればエアプ乙という状態ですね、はい。
ここまでで何となく事情を察して頂ける方もいると思います。
そう、前世のわたしはウィリアム・キャンベル同担拒否だったわけです。「ヒロイン=自分」ではないからこそ、原作ゲームで設定されているヒロインを通してウィリアムを攻略することにすら拒否反応を起こしてしまう、かなり強めのウィリアム推しだったのです。
タチが悪いオタクだと頭では理解していました。だって、原作をプレイした方がウィリアムのことをより知ることができるし、何よりウィリアムの生みの親である運営さまにも貢献ができますから。
しかし! 気持ちというものはそんな簡単なことではありません。原作ゲームではわたしじゃないヒロインの子に笑顔を見せ弱音を吐き、そして愛おしそうに抱きしめるのです。
……無理。本当に無理。
解釈違い?限界オタク?なんとでも言ってください。
ウィリアムに惚れた時点で、わたしの中のウィリアムが公式のウィリアムから偶像的な自分に都合の良いウィリアムに変わっているのです。作者さまに引け目を感じながらも二次創作とはそういうところから始まりますよね。……ね?
それ以来、何十回も見たアニメでの知識を糧に自分の夢小説や妄想で生きる日々が始まりました。まぁ、夢小説といっても自分で書いて自分だけが嗜むだけの完全自己満足、門外不出のものばかりでしたが。アニメでは他のキャラクターの攻略ルートがメインストーリーだったのが救いでした。楽しみながら情報取集及び考察ができたので。
そしてその結果、何の因果か今はそのウィリアムの姉として生を授かったわけです。
愛の力ってすごいですね。姉がいた、なんて設定を見た記憶はないんですけれど。
……まぁ、今が全てです。
だって、大好きなウィリアムがわたしの身近にいる、なんて状況他の事がどうでもよくなるくらい最高すぎませんか?