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引越の挨拶【できなかった】

 翌日、目が覚めると外は雨だった。土砂降りとは言わないが、結構な降り方だったので、傘が荷物に入ってないことに気づいた俺はその日は部屋に籠もって、俺の投稿した作品の中では珍しく中学生を主人公にした『異世界部活シリーズ〜ネコ耳卓球娘の地区予選大会〜』を思い出しながら書き出してみることにした。


 転生したばかりの昨日は、何もない引っ越し直後の部屋だとしか思わなかったが、一晩過ごして落ち着いてから見渡してみると、台所には小さいが2ドアの冷蔵庫と温めるだけのシンプルな機能しかついていないが電子レンジが置いてある。

 さらに、布団の入っていた押し入れは2段になっていて、下の段には小さなコタツのセット、座布団、小型掃除機が入っている。洗面所をのぞくとこれまたシンプルだが一人暮らし用の全自動選洗濯機が備え付けられている。


(よく覚えておらんがあの神様、意外と神だな)


 昨日の食料の残りをチンしたりしてから朝食をとり、コタツを出し、ボールペン、原稿用紙、メモ用紙を並べて、原稿を書き始めた。小学校以来じゃないだうか、字が読めないほど汚くはない俺だが、久しぶりに原稿用紙に手書きで文字を書き入れていくと、時々マス目からはみ出したり、書き損じがあちこちに起きる。それでも、少しずつ手書きの勘を取り戻しながら、転生前にとろうに投稿していた小説のうちの1つ、『異世界部活シリーズ〜ネコ耳卓球娘の地区予選大会〜』を書いてみる。


 そいつは、凄くブックマークが付いた作品ではなくむしろ連載打ち切り途中放置系ではあったが、俺としては構想段階ではシリーズ化したいと意気込んで始めた連載だったので、心のどこかでもう一度何とかしたいと思っていた作品だ。しかも、あまりチート、ハーレム、その他エログロではないので、野子に見せてもいきなりキモ悪がられてゴミ箱行きとか、野子が一緒に住んでいるという母親が読んで通報されるとか、そういう心配があまりなさそうに思えたこともある。


 書き始めてみると意外と思い出せない、というか、書き出すのは難しかった。ストーリー自体は覚えてるのだが、キーボードで打ち込んでパソコンの画面に映し出されるテキストを読む印象と、原稿用紙に自分の手で書き込んでいって段々と出来上がっていく原稿を読むのとではだいぶ印象が違うせいだろう、最初の2話分、原稿用紙で12枚ほどになったその作品を書き上げるのに、丸1日かかってしまった。


 夜になって雨が止んでいたので、15分くらい歩いて駅前のショッピングモールに行き、野子の部屋に引っ越しの挨拶に行く時の手土産、というか引越祝いというのだろうか、何か持って行く物を探した。


(でも転生だぞ、死んだんだぞ俺、いいのか縁起でも無い感ハンパないが)


 ……まあいい、とにかく挨拶がてら引っ越しそば風に渡すための素麺そうめんの詰め合わせをラッピングしてもらい、買って帰った。


 アパートに着いてからそのまま原稿と、手土産?引越そうめん?まあどっちでもいい、を持って母親に挨拶をしてついでに野子に原稿を渡そうと思っていたが、野子の部屋の前を通ると電気が消えていて留守のようだった。


(親と外食でもしに行ったのか)


 別に急ぐことでもない、俺は、明日また渡しに行けばいいや、と思い直しもう一度駅前に戻ってファミレスに入りビールを飲んだ。


(そうか、今日は金曜日だったのか)


 周りには家族連れが多く入っており、自然と耳に入ってくる会話を聞いているうちに、俺はそんなことを思った。

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