転生直後【野子その2】
野子は、やっぱり中3だった。ただ、もう推薦で進学先は決まっているらしく、時間には余裕があるらしい。
せっかくなので、挨拶がてら、それとなくこの世界について怪しまれない範囲であれこれ尋ねて、野子から色々教えてもらった。野子も一人で買い物に行くつもりだったらしく、長話に付き合ってくれた。
(将来的には嫁にしたい)
初対面なのに、何だかんだで30分くらいはそのまま立ち話しただろうか、あまりに素直でキモオタの俺にも親切なので、お礼がてら心の中で手を合わせてそう唱えてみた。決して受け取られることのない心の中だけの贈り物、酔えるぜ、自分に。でもこんな警戒心なくて、生きて行けるのか、野子よ……。
最後のところは、この世界に生まれたばかりの俺に色々教えてくれた恩人に向かって言うことなのかは一抹の疑問なしとは言えないが、まあいい、とにかく野子の話を総合すると、この世界は、俺が転生前に住んでいた現代日本とほぼ変わらないようだった。お金の単位は呼び方が違うだけで価値や使い方は同じものだし、ここは日本と呼ばれている国で、どうもアメリカだのイギリスだの中国などといった周りの国々もだいたい一緒のようだった。社会の仕組みもほとんど同じで、普通に小中高大と学校があって、卒業したら働いてお金を稼ぐ、金持ちも貧乏人もいるし失業者もいる。
俺のアイデンティティだったラノベだが、これもあるそうだ。普通の小説もマンガも雑誌もあり、本屋もあれば図書館もあり、雑誌はコンビニにも置いてある。たくさんの出版社があることも一緒。
ただし、エンタメ系の小説やマンガ、雑誌類は、最大手の『丸山文庫』という出版社がほとんど独占と言っていいほどのシェアを持っていて、野子のうろ覚えの範囲だと、だいたい8割くらいは丸山文庫、残り2割を『幸誕社』とか『散英社』といった小さな出版社が細々分け合っているらしい。
「あっ、あと、『中学館』も結構友だちとかの間では読んでる人いるんですけど、その名の通り、中学生くらいを主な読者にしているので、高校生以上になると、いきなり読んでる人少なくなるみたいです」
なるほど、シェアはともかく、年代によって人気のある出版社が違ったりするあたりは雰囲気もだいぶ共通しているようだ。何となく引っかかるのは丸山の独占の件か……。
しかしそれにしても、野子は中学生にしては色々知ってるし結構本を読んでいる。本当にこのJC、女神なのか?
「パソコンって何ですか? え、マイクロコンピューターのことですか? どっちにしろ、個人で買えるようなものではないと思います」
野子から聞いた話のうち、もっとも衝撃的だったのは、この世界にはパソコンもネットない、ということだ。それで文房具だったのか……。
コンピューターというもの自体はちゃんと存在していて、普通に銀行のATМを管理していたり、飛行機を飛ばしていたり、コンビニのレジにつながっていたりして社会のインフラの1つになっているようなのだが、それらは全て業務用、商業用のようなものであって、個人がパソコンをどうこうする、というような環境には一切ないらしい。必然的に、個人が使えるようなネットも存在していない。