転生直後【野子その1】
転生している最中のことは、あまり覚えていない。
何か、神様っぽい誰かと話をして、転生先は、だいたいそれまで俺が暮らしていた現代日本と似たような世界で、俺が生前望んでいた才能を一つやろう、それで気を取り直して何とか転生した世界で暮らして行きなさい、的なことを言われたんじゃないかと思う。
◇◇◇
目が覚めたのは、俺が転生前に住んでいたのに似たアパートの一室だった。
物のない、引っ越し直後の部屋。段ボール箱がいくつか積んである。一番上には、何か手紙らしきものが張ってある。
『当座の生活用品一式と、お金、身分証関係、それからギフトが一つ。よく取説よむように』
と書かれている。
とりあえず、ガバガバと段ボール箱を開けていく。
服、下着、歯ブラシ、石けん、鍋、文房具、原稿用紙の束等々、うん?原稿用紙?意味わからん物まで入ってんな……。
(文房具と原稿用紙って昭和かよ。っていうか、ここでも作家させる気なのか、神様?)
とは思ったが、どうでもいい気もしたので、まずはお金を見つけるまでは段ボール箱の中身を確認していった。
そのうち、封筒に入った薄めの札束が出てきて、説明書きが一緒に入っていた。それによると、貨幣価値はほぼ日本円と同じ、お札の一番大きい単位が1万というのも同じ、ただし、違うのは円ではなく、マネという単位らしい、ということが分かった。
お金を発見して、ちょっとホッとしたのか、疲れがどっと出た気がしてきたので、荷解きの手を止めて部屋の窓を開けてみた。
転生前とは少し違い、アパートの裏、俺の2階の部屋の窓のすぐ下には、川、川と言っても用水路に近いような細い殺風景な川だが、が流れていた。
小さくても川は川だ、窓から少し涼しい風が入って来て、気分が良くなってきた。
ふと、思い立って、さっき見つけた原稿用紙、どうせ使い途がなさそうだったので紙飛行機を折って窓から飛ばしてみた。飛行機は、気持ち良く飛んだかと思うと、いきなり下を向いて川に落ちて流れて行った。
(何か楽しくなってきた)
俺は童心に帰って夢中で少しずつ工夫を加えながら紙飛行機を折り続けて、かなりの時間、たぶん1時間以上は遊んでいただろうか、折っては飛ばし折っては飛ばしを続けた。飛ばした飛行機はあらかた川に落ちて流れて行ったので、近所からの苦情はないだろう。
窓を閉めたあたりで、ようやく才能のことを思い出したが、何か今日のところは金の方が大事な気がしたので、そちらは後回しにして外でお金を使ってみようと思い、買い物に出かけることにした。
「近所の地図見るか。あ、パソコン、パソコン……」
パソコンに感電して死んだくせに、一瞬でそのことは忘れ去り、いやそうじゃねえよ、『引かぬ! 怯まぬ! 退かぬ!』だったかな、とにかく残りのダンボール箱をガサガサ漁ってみる。
だがない、PCもスマホ、タブレットの類も何もない。
(何なんだここ? ホントに昭和に転生したのか? いや、自分で買え的な何かか)
まあいい、とりあえず神様が用意してくれた服で適当に身支度をして、部屋を出てみる俺。
ほぼ同時に右隣の部屋のドアが開き、JK?……いや、JCか?というくらいの女の子が出てきた。
「あ、今日、隣に越してきた杉田です」
外面の良さが出たのか、とっさにそれらしい挨拶をする俺。豊富な社会人経験を隠しようもない。さっき生まれたばっかりだけど。
「……こちらこそ、初めまして。都成野子です。よろしくお願いします」
野子は、礼儀正しくぴょこんとお辞儀をした。
さすが俺、早くもJC?に好感を持たれたか?
……いやいや。