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動き出すその1

 丸山文庫への持ち込みは、まずは電話で予約を取り、それから売り込み用の1万字程度の原稿を郵送するところから始まる。


 信じがたいことだが、この時代には公衆電話が完全復活している。スマホやネットが絶滅した理由も皆目かいもく分からないが、ガラケー的な携帯までなくなってるのには驚いた。スマホ絶滅に巻き込まれでもしたのだろうか。この時代にはいわゆる家電いえでんか公衆電話のどちらか、要するに有線の固定電話しか存在していない。携帯やコードレス電話から出る電波を2万5000年浴び続けるうちに人間の頭がどうにかなったんじゃないのか?


 ともあれ、俺は、近所のコンビニ前に備え付けられている公衆電話から丸山に電話をして持ち込みのためのアポをとった。


 上実の話では、丸山文庫では、完全に持ち込みを新人を発掘するための表玄関としているとのことだったので心配していなかったが、実際、突然持ち込みの電話をしても少しも嫌がられる雰囲気は無く、実にスムーズに話が進んだ。

 ただ、持ち込みの時期については、たぶん1か月以上は先の日になるだろうと思っていたが、業界を独占してる大企業のくせに意外とやり方がアナログでざっくりしており、


「あっ、予約、ちょっと続けてキャンセルがあって予定に穴が開いてます。他の人いちいちずらして連絡し直すの面倒なので、その日来ます? 来週の木曜日ですけど」


「は、はい。大丈夫です。ぜひお願いします」


「それじゃ、来週木曜の午後2時に弊社の檜原ひのはら本社までお越しください。その際に先にあなたの作品を拝見しておきますので、400字詰め原稿用紙25枚以内の作品を必ずお越しになる2日前必着でご郵送ください。作品は完結していることが望ましいですが、あくまで参考にさせていただく段階ですし枚数の制限もございますので、あなたのご判断で未完のものでもかまいません。未完の場合には、その旨と理由をメモとしてつけていただくと助かります。お越しになりましたら、1階受付でお名前をおっしゃってください」


「はい。承知いたしました。それではよろしくお願いいたします」


 といった程度のやり取りで、簡単に持ち込みの予約と日取りが決まった。


 何となく、コールセンターのようなものがあってオペレーターが対応するようなイメージでいたが、電話に出たのはあまりオペレーターっぽくはない、何となく雰囲気では若手の男性編集者か何かがそのまま電話を取って対応したような感じがした。あんまり持ち込みの数は多くはないのだろうか。業界を独占していて、しかも文学賞経由で新人の発掘もあまり盛んじゃないとすると相当な数の持ち込みに対応しなくちゃならない気がするので、それなりの専用窓口を設けて人数もたくさん配置しているはずと思い込んでいた。 

 

 まあいい、とにかく一度俺の原稿さいのうを見せて、相談してみよう。反応はこれまでの出来事からすれば大体想像がつくが、それでも、万々々が一、見向きもされなかったら何か対策を考えなくてはならないしな……。


 俺は、神様から才能ギフトを手に入れた今となっても、転生前の苦労、いや、とろうか、とにかくそれなりに悲惨な経験は、まだかなりの鮮明さをもって頭のどこかに焼き付いていた。

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