心の秘密その3
6年から18年の特殊教育プログラムの期間ということなので、最年少では8歳から情報提供サービス士になる可能性があるらしい。
「実際に、8歳で情報提供サービス士となった方はいらっしゃいます。ただ、非常に希です」
とのことである。情報提供サービス士としての知識量についてはその年齢でも十分な者は少なくないらしいが、
「公務員として市役所などに勤めて人前で職務をこなせるようになるための一般的な社会性を身につけることの方が、大量の知識を蓄えてその知識量に圧倒されないようになるための教育期間よりもはるかに長い期間が必要となります」
ということらしい。平均的には、15年前後の教育期間を経て情報提供サービス士の資格を取得するようだ。
ちなみに、上実は、16歳から情報提供サービス士として働いているそうだ。
(16歳の頃の上実に会ってみたかったな)
素朴にそう思った。
「今はお幾つなんですか」
前世では、公式の場ではすでにセクハラとして固まりつつあった質問が口をついて出てしまう俺。
「情報提供サービス士についてのご説明と杉田様の今のご質問との関係が特定できません。恐れ入りますが、別の形でご質問をお願いいたします」
特に気を悪くした様子はないが、普通に断られた。そりゃそうだろうよ。つまみ出されないだけ良かったかも。この時代のセクハラ基準がどうなってるのか知らんが、今それを質問する気にもならんしな……。
外見からすればたぶん20代前半から半ば、というのはそんなに外れてないだろう。
まあとにかく、このようにスムーズな大人の対応もできる上実だが、やはり、他の情報提供サービス士同様、その能力の特性から、他人の心情を直接くみ取ることは難しいらしい。とてもそんな風には見えないが、今も、感情そのものではなく、一般的な感情についての大量の知識を基に外見上不自然に見えない程度に情緒面での配慮をも含んだやり取りをしているように見せているのだという。
不思議なものだ。上実は、本人が言うとおり実際には俺の気持ちが分かっているわけではないのだろう。でも、上実に対しては俺にしてはだが自然と優しい気持ちになれるし、今まで会ったことのあるどんな人間よりも、そんな俺の気持ちを上実は上手にくみ取って話を聴いてくれている感じがする。
(よく考えると、実際のところ、人が他人の気持ちを本当に分かっているのかどうかなんて、確かめようもないことなのかも知れんしな)
大切なのは、雰囲気から直接気持ちをくみ取れるかどうか、要するに顔色や空気が読めるかどうかという話じゃなくて、自分の持てる能力を使って何とか相手と良好な関係を保とうとする工夫があるかどうかという事なのかもしれないと思う。俺は、何か自分のことを特別差別的な人間だとは思わないが、それでも転生前は結構何も考えずにネットに『お前アスペ?』的な書き込みはしていた気がする。上実を目の前にしていると、さすがに少し後悔する……。
まあそれはそれとして、よく分からんが、なかなかやるじゃないか、その特殊教育プログラムとやらは。パソコンもスマホもネットも廃れてしまったが、人類のやつ、2万5000年もの間何もしないで完全に同じところをグルグル回っていただけでもないらしい。うすうす、ほんのり退化してるのかと思ってたのだが。




