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出版業界の情報その3

 どうも、この世界では、持ち込みがデビューへの王道のようだった。かなり原始的ではあるが。まあ、案外巡り巡って原始的な方法が一番確か、ということもあるのだろうか。


 俺は、その後、持ち込みに必要そうな情報をあれこれ一通り尋ねてみた。文学賞の応募という手もあるが、最大手の丸山文庫主催の秋の応募は締め切った直後のようだったので、丸山に応募するつもりなら半年近く待たなくてはならないみたいだ。

 しかも、文学賞経由だと、受賞作だけ出版して2作目を続けて出さない、というのは何だか難しそうにも思える。俺には、とにかく才能ギフトの枚数制限の縛りがあるのだ。作品が1つか2つしか書けない俺にとっては、その特殊事情に合わせて相当デビュー前に計画を練る必要がありそうだが、そういった計画を編集者と一緒に立てることを考えると、小回りのききそうな持ち込みの方がありがたい気もする。秘密をばらすわけにもいかないので、なおさら慎重に進められる方がいい。


 ちなみに、ラノベ用の新人賞というのは、


「丸山文庫では、秋のコンテストではライトノベル部門がありますが、春にはありません」


 とのことなので、ラノベを視野に入れている俺にとってはほぼ持ち込み一択だろう。


 まあ、気にし出せばきりがないが、このくらい聞いとけば後は動きながらその都度考えた方が早い気がするな。


「あの、すみませんが、私は文字がまだ書けないのです。丸山文庫に持ち込みの予約を受け付けている窓口の住所を書いていただくことはできますでしょうか」


 普通ではあり得ない質問だが、上実には何の問題もない。むしろ、特殊な事情があればそれは世間的にどう思われるような内容だろうと、率直に話してしまった方が答えが早い。


「かしこまりました。メモ用紙をお持ちであれば、そちらに受付窓口の郵送先を記入させていただきます」


 上実は、穏やかな表情を1ミリも崩すことなく、むしろ気のせいだろうが少し微笑んでそう答えた。


(本当に安心感があるな)


 俺は、持参していたメモ用紙を1枚上実に手渡してから、しみじみそう思った。惚れそうだよ、上実。いや、必ずしも冗談でもなくなってきた気もする、まじかよ……。


 とにかく、上実は、ブレないというか、堅物と言えば堅物だが、融通が効かない頑固者というのとは全然違っていて、ルールに従った対応を淡々としているのも自分の都合や考えを優先しているからではなく、結果的にこちらにとって役に立つことをするためにルールを守っている、という感じがよく伝わってくる。しかも、どんなに突飛な、古代人である俺の質問も見下したりしないし、不快そうな表情も全く見せずに同じように対応してくれる。


 俺は、ある程度自分の作品を出版社に売り込む手順ついての情報を上実から一通り聞いた後、ずっと疑問だった彼女のことをようやく尋ねてみた。


「……ありがとうございます。ところで、話は全く変わるのですが、情報提供サービス士さんのことについてうかがってもよろしいでしょうか」


「はい。どうぞ」


 話題が突然変わって、しかも自分の職業のことに向けられても、全く態度は変わらずに静かに答える上実。


「情報提供サービス士さんは、どうして、そんなにたくさんの知識を持っていて、しかも瞬時に答えられるんですか?」


 疑問の中心、ど真ん中を質問してみる。


「私たち情報提供サービス士は、2歳から遅くとも4歳までの間に情報提供サービス士になるための資質を持っていると判定され、その後は、保護者の意向もふまえ、情報提供サービス士となることを希望する場合には、その時点から直ちに専用の特殊教育を受けることになっております。その私たちが持つ資質に加え、長期間に渡る特殊教育、この2点のおかげ、というのがお答えの概要になります」


「へー、そんなに小さな頃から才能を見いだされるんですね。何かテストのようなものを受けるんですか?」


「はい。ただし、学力を測るようなそういう類いのテストではありません。医学的なテストです」



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