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転生前その2

 俺の苦難は、どちらかというと『とろう』サイトにたどり着くまでの方が大きかった。


 それなりに優秀だった俺はまず、中学、高校と順調に進学し、とある地方のFラン大、もちろん、謙遜しているのだが、にわずか一浪で入学し、4年半で卒業した。

 理系ではなかったが、今の流れだとSEが需要旺盛と聞いて、SEとして就職を決めた。


「死ね、ゴミ虫! 何で1日24時間あんのに、22時間働いたぐれえで次の日朝起きれねえんだ! まだ時間余ってるだろ、納期なめてんのか、時間守れねえ奴が社会人やれるわけねえだろう! 死ね、死ね、受取人会社にして保険かけて死ね、それくらい会社に迷惑かけてんだよ!」


 テレビやネットニュースにも時々出演している新進気鋭の若手起業家、T大入ったのに自分で中退して起業したことを売りにしている男。突然現場に現れては俺の出た大学名を何かにつけて罵りながら『低学歴でもSEとして大成すれば自分の会社持てるよ』と優しく指導して下さっていた代表取締役の男が、ある日、こう言った。


(いや、大学は卒業してる俺の方が学歴的には上なのでは?)


 いや、どうでもいいことだった。世間的には、何か通用しない気もしたしな。


 ……そこで、次に就職したのは老人介護の施設だった。


「杉田は、本当は優しいから、人相手に親切にする仕事が向いてるかもよ」


 とか大学の1年先輩にしんみり言われたのがきっかけだ。


 俺は、比較的大規模な社会福祉法人が運営しているいくつかの施設のうち、4人しか正職員のいない小さな施設に入り、わずか半年で施設長を任された。才能は隠しきれない。才能なんて、見る側の人間の問題だ。


「あなた、仕事なめてるんですか。高校しか出てないのは確かに低学歴かもしれないけど、学歴逃げ道にしちゃダメでしょ。そのままだとほんとに低学歴っぽくなっちゃうの分からないの? ちょっと夜勤が続いたのは大変かもしれないけど、社会人の自覚を持って頑張らなくちゃ」


 人手不足で夜勤明けに連続日勤に入って一旦家に帰って仮眠してそれからもう一度夜勤に入る予定だった高卒2年目の某職員が寝坊で遅刻したある夜、俺も寝不足で少しイライラはしていたが、そんな素振りは少しも見せずに施設長としてその遅刻野郎を優しく諭してやったところ、まあ、今思えばそれまでにも色々あったのだろう、その職員は翌日からしばらく無断欠勤し、そのまま退職した。残った他の2人の職員も翌週には立て続けに退職し、俺1人が残ったところで、俺も辞めてやった。ざまあみろ、あの施設、今頃どうしていることか。結局、才能なんて見る側の人間の問題なんだよ。


 その後、自宅警備員でもやろうかと思ったが、実家は親が離婚、再婚を繰り返し、俺とはほとんど無関係になっていたので警備する自宅がなく、仕方なく、本物の警備会社に入り、無印警備員になった。


 警備員はある意味、紙の、いや、神様のお導きだったのかもしれない。一度は、真冬の道路工事の深夜勤務が寒すぎて、ポケットに隠したウイスキーちびちび飲みながら立っていたのをチクられて首になりかけたが、土下座してまで仕事にしがみついたのも、警備員でいたかったからだ。


 なぜか。

 

 決まってるだろ、作家としての才能に目覚めたからだ。


 『とろう』を知った始めのうちは、


「こんな自分に才能があるとか夢見て投稿繰り返すとか、頭悪いにもほどがあるよなぁ」


 そう言っていた俺だったが、気づいてしまった、ひらめいたのだよ。


(俺だけは違うだろ……)


 そう、そういうことだ。自分の才能に気づいてしまった以上、他の素人作家もどきがどんだけゴミカスだとしても、俺は違うということだ、論理必然に『とろう』を利用する側の人間ということになる。


 警備員は、つなぎ、仮の姿、しかも、夜勤なら仕事しながらでもスマホで投稿ができる。何より、暇な現場なら5分ごとに自分の投稿のPV数チェックができるわけだ、夢の仕事じゃあないか、最初からここに来れば良かった!


 こうして、俺のとろう系作家としてのとろうの道が始まった。


 ……そして、その後、転生することになる。



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