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ハイ&ロー【H】

 俺がチャイムを鳴らすと、すぐに野子が玄関から飛び出してきた。


「あ、先生、おはようございます!」


 俺は、無印杉田から先生にクラスアップしていた。


「あ、おはよう。野子ちゃん」


 いつの間にか、俺も野子を『のこちゃん』呼ばわりするようになっていた。まあいいだろ、そのくらい。隣同士だし、俺、別に変質者じゃないし。とろうだしキモオタだけど。


 俺は、ほぼ徹夜明けのおそらくは少し血走った目で野子の顔を見る。

 野子は何も言わないが、期待に満ちた満面の笑みで俺の顔を見つめ返してくる。


(すごい昔に、いとこの子にこんな風に見られたことがあったかな)


 ふと、無関係なことが思い浮かんだ。たぶん、女から、いや、年下の子どもから笑顔でまっすぐ見つめられたことなんて人生の中でなかった気がする……。


「あの、昨日の話の続き、書いてみたんだ。よかったら読んでみる?」


「え、本当ですか?いいんですか?すごい嬉しい、夢みたいです、ありがとうございます!」


 細かいことだが、野子は興奮しながらも『え、本当ですか?いいんですか?』とワンクッション入れてから本音らしき台詞を吐く。様式美テンプレを忘れない、本当にいい娘だ、野子よ……。


「もちろんだよ。でも、面白いかな」


 根拠がないということは心のどこかで感じつつも、それでも期待と自信が溢れてくるのを抑えられない。俺は、野子に封筒ごと原稿用紙の束を手渡した。


「ありがとうございます!」


 野子はもう一度礼を述べてから原稿用紙を両手で受け取り、


「あの……」


「なに?」


「部屋ですぐに読んでもいいですか?」


 というやり取りをして、深々と頭を下げてからドアを閉めた。

 

(結局、才能なんて見る側の人間の問題なんだよ)


 どこかでつぶやいたセリフがまたふと浮かんだ。


◇◇◇


 自分の部屋に戻ってから俺は、『文字をなぜ野子は読めたんだ問題』の解明に向けては何もしなかったことに気づいたが、まあ良いだろう、そのうち分かる、とスルーした。何かそんなことより、今のワクワク感を大事にしたい。


 だが、しかし……、こんなにハイになってていいんだろうか?前世の記憶によればハイになどなってその後良かったことなどほとんどない。ちょっと茶でも飲んで気持ち落ち着けるか。


 やかんに水を入れて弱火のコンロにかけ、近所のコンビニに行った。何かハーブティーらしきもののティーパックがあったので落ち着くにはいいだろうと買って帰る俺。戻るまで5、6分くらいだっただろうか。戻ってから何かいい匂いがするお茶を淹れて飲む。


「文字問題どうするかは、野子の感想聞いてからでいいか」


 独り言をつぶやく。


 ……と、10分もしないうちに、チャイムが鳴った。

 『文字問題どうするか』『野子の感想聞く』。この2つは、すぐにほとんど同時に解決することになった。割と予想もしていなかった形で。



 

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