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転生前その1

 転生前の俺の名は、杉田黒郎すぎたくろう。作家だ。

 大事なことなのでもう一度さらに正確に言う、ラノベ作家だ。


 俺は、日本最大の小説投稿サイト、『文学賞をとろう(仮)』というウェブサイトの常連作家だった。


 『文学賞をとろう(仮)』は、通称『とろう』と呼ばれており、そのサイトに掲載された作品や作家たちは『とろう系』などと称されている。センスの欠片もないサイト名だ、俺がつけ直してやろうか?もちろん余計なお世話だ、すでに知ってる。


 勘のいいやつならすぐ分かるだろうが、とろう系はその名前から、ネット上では『徒労系』呼ばわりされており、いくら投稿を続けてもPV(ページビュー)の伸びない99.99%の作家もどき、もとい、登録ユーザーたちは、『とろう徒労』などとよくSNSでつぶやいて傷を舐め合っていたりする。


「とろう系は徒労系、苦労だ、苦労だ、おれの名前は杉田黒郎すぎたくろうだ!」


 意味は全くないがとりあえず俺も韻らしきものを踏みつつつぶやいてみる。


 『文学賞をとろう(仮)』は、基本的には他に行き場のない無名の素人作家もどきたちのガス抜きのためのサイトである。そんな人生詰みかかったゴミどもが残らず無敵の人化して国家が崩壊しないようにするための、あるいは、俺のような一部の清潔なキモオタを除く他の大半の洗ってないパンツを2日以上履いているキモオタたちが街を歩き回って公衆衛生上の諸々の問題を引き起こさなようにするための、重要な社会防衛システムの一つとして民間に委託され運営されているのだ(仮)。


 それでも、副作用というか、副産物はある。


 約150万人いる登録ユーザーの99.99%は生ゴミだが、それだけの量があれば、生ゴミの山の中からでも突然変異で美しい羽を持つ蝶、まあ俺からすれば蛾だが、が羽化することもある。要するに、職業作家として見いだされる奴もいるわけだ。ユーザーはその副産物を目指して群がっているのだ。

 サイト運営者は運営者で、賢くその副産物を利用している。蝶に羽化できる甘い夢を蜜にしてゴミ虫たちを効率良くおびき寄せているわけだ。食虫植物か、ここは?いや、はっきり言えば社会のあらゆる犯罪者予備軍とその一歩手前を1カ所にまとめて安全に管理しているわけだから、むしろこれは善行と言えるのではないだろうか?食虫植物はそう、むしろ美しい。サイト運営者は真実の美の具現者、善の権化ごんげと言い切れる俺が清々しい。


 ……それはそうと、俺がその副産物を手にするのは時間の問題だった。


 蝶に羽化する一歩手前、まさに背中の割れかかった(さなぎ)のような俺だった。控えめに言ったとしても正真正銘の蛹、あるいはもう少し控えめに言っても蛹に変わる直前の芋虫かその一歩手前くらいまでには行っていたはずだったのだよ、あの転生まではな……。



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