市役所へ行く【心その1】
アパートから市役所まで、初めての道だったのでちょっとだけ行き過ぎたりして10分くらいかかったが、それでもだいたい11時前には市役所に到着した。時間は十分だ。
市役所に入ると1階は意外に広く、どこに何があるか分からなかったので、案内係らしい中年の女に尋ねると、
「あ、JTSでしたら、そちら右手側に見える階段で2階まで上がっていただいて、もう一度右に進んでいただいた突き当たりに受付がございます。そちらで係の者にお声かけください」
俺は、言われた通り、階段を上がって行った。2階に上がり、右に曲がって進んで行った所に確かに受付があったので、
「初めてなんです。JTS、使ってみたいんですが」
「ご住所がお分かりになるものは何かお持ちですか?」
俺は、ポケットから神様が用意してくれていた身分証を出して渡す。
「それでは、番号札をお取りになってお待ちください。初めてのご利用ですので、JTSにご案内してから部屋の中で利用申込書などのご記入をいただきますが、そのお時間は手数料は発生しませんのでご安心ください」
0132と書かれた番号札を受け取って、受付前のベンチに座ってしばし待つ。どうせ待つなら、ここで申込書くらい書かせてくれればいいのに、効率が悪い、しょせんお役所仕事だ。
周りで待っているのは、大学生っぽい男子が1人と、じじばばが1人ずつ、俺は4番目らしい。ただ、JTS用の部屋はいくつかあるようで、すぐに2人まとめて番号を呼ばれ、2、3分は待ったが次のやつも呼ばれ、俺も結局5分も待たないうちに番号を呼ばれた。
「132番の方、第3提供室にお入りください」
俺は、3と書かれたプレートのかかった部屋に入って行った。
中に入ると、狭いがきちんと壁で仕切られた小部屋になっていて、事務机と椅子が置かれている。机の向こう側に、事務職員っぽいスーツを着た女が座っている。そのさらに後ろには、もう1つドアがある。おそらくは、その奥のドアは事務所か何かにつながっているんだろう。
「初めまして。情報提供サービス士の上実と申します。最初にまず、利用申込書にお名前とご住所をご記入ください」
声優のように滑舌良く聞き取りやすい声で、姿勢良く背筋を伸ばして座っている女が簡単な指示を出す。俺は、差し出された申込用紙に、言われた通り名前とアパートの住所を書いて上実と名乗ったその女に渡した。
……JTSというのは、情報(J)提供(T)サービス(S)の略号だ。
この世界に来て最初に俺が衝撃を受けたように、ここにはインターネットがない。知りたいことは、基本的にはアナログなやり方、紙の本を読んで自分で調べたり、誰かに訊いたり、時にはテレビの情報バラエティー番組とかで仕入れたりするしかない。しかし、デジタルな方法ではないが、これら直接自力で調べる方法以外に、この世界では様々な情報を得るための公共のインフラが整備されている。それが情報提供サービス、JTSだ。
JTSは、転生前の世界から来た俺には信じられないくらいユニークな仕組みだ。情報の検索に、文字通りの意味で人力を活用しているのだ。