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煉獄の選帝侯  作者: るーさん
5/5

不滅隊結成

執務室の山積みの書類。

そう。私はワンマンで国を治められるほど有能ではない為に家来たちがいるのだが、特別重大なことに関しては自ら意思決定しなければいけない。


そのバランスを如何にするか考えるのも、王族であり、貴族であり、君主である選帝侯の務めだ。




ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・




この作品はフィクションです。




また、自殺を推奨するものではありません。




15禁レベルの残酷、理不尽な描写が存在し、人により刺激が強いのでご注意ください。




本作品を読まれたことによる一切の損害を作者は負いません。

私はウサギニンゲン城の執務室で山積みの書類を前にしている。

傍らにはマーニが控えている。

安息日に加えて翌日は遠足に行ってしまったから、2日分の仕事が溜まっているという訳だ。


「まず、イェアパンネシアのダイミョーニが相次いで謀反を起こした為、ショグーニから、より大規模な軍の動員の申請を受けております。」


リヒャルトが書類の要点を説明し、私が署名をするというのが基本的な仕事内容だ。

また、私はメルヘン理想主義君主国連邦・通称メ連の丞相(大臣、宰相)を兼任しているので、大公国と連邦の両方の仕事を一緒に行っている。

カニン大公国は立憲君主制ではあるが専制君主的な側面も持ち、君主には提案権も拒否権もある。

憲法を変えることも平時は困難だが、緊急時には可能だ。

メ連は皇帝の国だが皇帝の席は空いており、皇太子が実質的な皇帝である。

しかし、私が派遣した皇太子の側近が直轄領の政治を担っており、傀儡かいらいと思って貰って差し支えない。


「メタなことを言うが、宮中伯。読者の為に説明を頼む。」


「はい。まずイェアパンネシアとはメ連(メルヘン理想主義君主国連邦)に加盟する領邦で、メ連が接する北部の海に浮かぶ島国でございます。主要民族はゲボイルン人。」


「うむ。」


「イェアパンネシア全域を任される公に当たる存在をショグーニ。地域を任される伯に当たる存在がダイミョーニと呼ばれております。」


このショグーニやダイミョーニもカニン語やメルヘン語での呼び名でゲボイルン語ではないのだが、基本的に自分たちはメ連内ではカニン語またはメルヘン語で会話をしている。

カニン語はメルヘン語の方言なのでメルヘン語話者にはほとんど問題なく通じる。

メルヘン語はイデアン語、ズンモリフムス語、ゲボイルン語を基に作られた標準語のようなものだ。

メルヘン語はリヒャルトの先祖の、それもまたリヒャルトという名の宮中伯によって、多民族間で会話出来るように作られた。


「イェアパンネシアの謀反についてだが、詳しい状況を教えてくれ。」


「はい。地方を任されるダイミョーニにある者のうち複数人がショグーニに従わない状況が続いており、忠誠心の高いダイミョーニに命じて鎮圧を試みておりますが状況が芳しくなく、更に従わなくなる者が増えるのではないかといった懸念があります。ショグーニ自らが動かせる軍にはメ連により制限が御座いますので、状況が落ち着くまで特例を設けて欲しいと。」


「ふむ。止むを得まい。大公国や直轄領の軍を差し向ける訳にはいかぬからな。」


私はその書類に署名サインした。

すぐさま次の書類が差し出される。


「イデアニスタンの長城の建設が始まって以降、失業率は下がりましたが、相変わらず民衆は給料が上がらないと言って嘆いております。将来の不安から貯蓄に走り、思うように景気が回復しない状況です。ですから、金融財政宮中伯よりカニン銀行が大公国内の会社の株式を大規模に買い占め、企業の資金調達を容易にし、投資を活発化させたいと。」


「うーむ。」


基本的に経済や財務のことはやつに任せてある。

だが今までに前例のないことだから念の為お伺いを立てに来てくれたのだろう。

やつの判断は正しい。何故ならこの政策には問題があるからだ。


「ならん。そんなことをしても会社が儲けるだけで、労働者の給料が上がることはないからだ。直接領民にお金を配れば良かろう。」


「え、しかし殿下。そんなことをすれば領民の勤労意欲が。」


「確かに石油だかリン鉱石だかで長年に渡ってタダでお金を配られた結果そうなった話は聞いたことがある。だから短期的にそこそこインパクトのある金額を配れ。」


「しかし、財源は・・・」


「この前イデアニスタンの長城を作らせる時に行ったのと同じ方法で良かろう。」


「かしこまりました。その方向で金融財政宮中伯の方に返しておきます。」


そしてすぐ次の書類が差し出される。


「次ですが・・・殿下の近衛部隊となる、『不滅隊』の結成についてです。これは私からです。」


言い忘れたが、単に「宮中伯」と呼ばれる場合、宮中伯全てを統括するリヒャルト総理宮中伯のことを指すのだが、軍権を持つ宮中伯はリヒャルト一人だけなのである。

つまりリヒャルトは「防衛宮中伯」でもあるという訳だ。

実際には積極的な征服を行っており、「防衛」と呼ぶことに批判もあるのだが。


「不滅隊とは、どういうものだ。」


「ははっ。殿下の身辺警護は現在、大公国の国軍である『選帝侯軍』が必要に応じて行うことになっておりますが、専属の者がマーニ殿しかおらず、先日の『遊牧地帯を馬でパッカパッカ事件』略して『牧パカ事件』を招いてしまいました。」


「そこは略さなくて良いわっ。」


「殿下はマーニ殿を信頼しておられるようですし、マーニ殿を百人隊長に立て、選帝侯殿下の私軍となる不滅隊を結成しようというものです。」


「ほう。して、『不滅隊』との名称の由来は?死者も出ないほどの強兵なのか?」


「強兵であることに間違いはございませんが、由来としましては、戦死や負傷により欠員が出ても直ちに補充し、数が減らないよう仕組み作るという所からです。」


「ふむ。さすがにそうか。」


「マーニを百人隊長にということは、不滅隊の定員は100人なのか?」


「いえ、実は60人につき百人隊長1人を立てることを考えており、平時は600人前後。不穏な状況においては最大5000~7000人程度まで増やせるように考えております。」


「ふむ。言葉のあやというものか。」


メ連の伝統的な最小の戦略単位は5。次が12なのだ。

すなわち、5人に1人下士官がつき、5人1組の部隊を12組み合わせて60。ということだ。

これは慣例に基づくものであるが、実際に軍を動かす者にとってもやりやすいから続いている。ということらしい。

私としても特に異存はない。

イデアニスタンの戦いにおいても500区切りのキリの良い兵数を挙げたが、厳密にはこの法則に基づいた兵数であったはずだ。


「宮中伯。マーニは60人の部隊の百人隊長であると同時に、私の私軍全てを統括する者でいて貰いたい。」


「ええ、私としましても、そうするつもりでございます。」


実は「牧パカ事件」の後、騎士階級でしかなかったマーニは宮中伯に重罰を受ける危機に瀕していた。

だが私が選帝侯権を行使して免責させ、更に高位の官職を授けるようにと話をつけたのだ。

騎士階級であることが変わる訳ではないが、百人隊長に任命することで地位を上げることが出来る。

これは私が大公でありながら選帝侯位を有することで王を超えるのと同じようなことだ。

それに私はマーニに、一緒にいて欲しかった。

それが今回の件に繋がっているという訳だ。

それともう一つ、私には思惑があった。


私は不滅隊の結成と、マーニの百人隊長及び全百人隊長の長への任命について署名サインした。


ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・


「ルートウィク。」


私は自室に入れる者はマーニだけとしてある。

外には早速、不滅隊士が控えているが。

さすが君主制国家は意思決定からの行動が早い。

といっても即日には国軍から60人だけ選抜した状態で、一定の期間をかけて組成していくのだが。


「ルートウィク、今日から百人隊長として、キミを守るから。これからもよろしくね。」


「ああ、マーニ。よろしくな。」


今は不滅隊もいることだし、マーニにもしっかり休息を取って貰いたい。

私の部屋には元々召使い用のスペースがある。

一度も使ってなかったようだが・・・マーニにはそこでちゃんと横になって眠って貰うようにした。


これは天下の選帝侯殿下からの命令だ。

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