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煉獄の選帝侯  作者: るーさん
1/5

君主の務めは、民を幸福にすること。

この作品はフィクションです。

また、自殺を推奨するものではありません。

15禁レベルの残酷、理不尽な描写が存在し、人により刺激が強いのでご注意ください。

本作品を読まれたことによる一切の損害を作者は負いません。

生きるべきか、死ぬべきか。

散々迷った。

迷うということはきっとそのような段階にないということだろう。

しかしそれは保険屋にとって病死扱いになるような。

例えばうつ病とか。

そういったものに限ってであろう。


「毒親の所有物でなくなりたい。」


私は20前後から酷く体調を崩すようになった。

時々麻痺が起こる。

父は医師だった。

医師が家庭内で私を診ては病院へ行かせてくれなかった。

一度酷かった時に救急車を自分で呼んだが・・食中毒と診断され点滴を打って返された。

父には酷く怒られた。

その後しばらく症状は軽くなったが・・・また以前の食中毒のようになり、もう一度自分で救急車を呼んだ。

精密検査の結果私からは多量のヒ素が検出された。

正式には無水亜ヒ酸とか三酸化二ヒ素とか呼ばれるもののことだが。


両親は逮捕された。

母親がさじ加減を間違えたらしい。

両親の共謀で、私を殺すつもりなんてなく、手元に置いておきたいから自立できないように弱らせるのが目的だったとのこと。

そういえばしばしば私だけ、身体が強くなるようにと言って違う汁物を出されていた。


歪んだ愛情。

俗に言う毒親かつそのままの意味の毒親。


私が盛られていた毒は、処方により徐々に病死と見せかけて殺すことも出来るし、即死(と言っても数時間だが)させることも出来るもの。

現代の技術であれば直ぐに証拠が取れる為、「愚者の毒」と呼ばれるにも関わらず、死ななければ誤魔化せると考えたらしい。

実際、外の医者にも食中毒と診断され発覚が遅れた。


私は歌手、投資家、経営者になるのが夢だった。

20代で経営者になり、30代で加えて歌手活動もやって、いずれは投資家にもなる。

人生においてどれも全て成立させる計画だった。

経営学、会計学も学んで来たのに。


私はすべての誇りを失った。

内臓がだいぶ弱っている。仕事が出来る身体ではない。

放っておいても数年はいけてもいつまで生きられるか分からない。

一番愛してくれるはずの親からも愛されなかった。

正確には方向性がおかしかった。


「まだ身体が動くうちに・・。」


私は筋トレをする訳でもないのにぶら下がり健康機を部屋に置いている。

船乗りでもないのにロープの結び方も上手い。

高所作業などしないのに踏み台もある。しかも軽い。日本の職人の技術って凄いと思う。

何の趣味がある訳でもないが手錠も持っている。


私は「絞首刑結び」のロープで軽く体重をかけ、頸動脈が圧迫されることを確認すると後ろ手に手錠を付けた。


「もう後戻りは出来ない。やると決めたからにはやる。」


私は、何分経っただろうか・・・体感時間がそもそも狂っているから分からない。

意を決して踏み台を蹴った。


「ぐぅっ!」


直ぐに意識を失うのではなかったのか?

しかしこれでは生き返れまい。

全体重がかかる。間違いなく苦しい。

しかしそれでも良く分からないまま、数秒のうちには意識が薄れいくのを感じた。


・・・・・。


気が付くと私は始めに天井を見た。

自分が真上を向いて寝台に横たわっていることが分かった。


「失敗か・・。」


ここは病院だろうか。

しかし、頭痛がしたり、そう言ったことはなかった。

身体的な苦痛や違和感などは一切なかった。

普段体調が悪い時にしばしば悩まされる麻痺のようなものもなかった。


全身の感覚を確かめていたその時、部屋に人が入ってくる気配を感じた。


「殿下!おはようございます。」


「待て!そなたは何者だ。」


私は歴史が好きだったし、王侯に憧れたりしたものだ。

演劇もやっていた。歌手としても設定ありのキャラで動いていた。

Twi○terとかもそういう「キャラクター」でツイートしていた。


そう、私を「殿下」と呼んだその者は、私が創作した私が君主を務める国「カニン大公国」の軽装兵の衣装を確かに身に纏っていた。

ココ○ラとかでいつかイラストレーターに書いて貰おうと思っていたのだが、実際に絵にしたことなどない。なのに私の脳内にあるイメージそのものだった。


「そなた。確かめたいことがあるのだが。」

「はい。ルートウィク様。」


そう。設定上の私には呼び名がいくつかある。

一つ目は名前である「ルートウィク」もう一つが爵位である「選帝侯」三つめが、王族で陛下以外の者に対する敬称「殿下」だ。

私は目の前の軽装兵に対して尋ねた。


「私は何者だ?」


「ここ、カニン大公国の国家元首にして選帝侯であられるルートウィク・フォン・カニンヘントリット・ツー・ウサギニンゲン殿下でございます。」


「そうかここは天国か。」


私は自分が今天国にいるのだと分かった。ここは私の理想の国。全てが私の意のままになる私の国だ。


「ところで選帝侯殿下。朝食を済ませたら宮中伯様がお呼びです。」


「うむ。」


宮中伯と言うのは私の補佐役だ。大臣のようなものと思ってくれて構わない。

あ、そうだ。まずここに謝っておく。

いきなり話の舞台が日本からメルヘン(ファンタジー?)になって済まない。

読者が付くのかどうか現在分からないが、念の為。


私は「酸っぱいキャベツとジャガイモのサンドウィッチ」と「子ども用ビール」と通常のビールを1:1で割ったもので朝食を済ませると、宮中伯の元へ向かった。


「選帝侯殿下、お目が覚められましたか。」


「うむ。宮中伯。お陰で長い間悩まされていた痛みも全てなくなったよ。」


「それは良うございました。実は今朝、選帝侯殿下に神からの預言があったとイデア人司祭から連絡が入りまして。」


「預言?」


ここカニン大公国の国教・・つまり国としての宗教は「イデア教カニン派」だ。

さっぱり分からない?

キリスト教やユダヤ教、イスラム教とかと起源が同じで、ユダヤ教から分かれて現在全く別の宗教になったものと思ってくれて差し支えない。


「殿下、急いで参りましょう。」


「う、うむ。分かった。」


城の外に出ると丁寧に馬車が用意されていた。

私と宮中伯で馬車に乗り込む。

馬に扶助を出すのは私を起こしに来た軽装兵だ。


軽装兵の顔・・どうも記憶があった。

それ自体は初めて顔を見た時から思っていたのだが、やっと思い出した。


「私が生前付き合っていた彼女だ!」


「やっと思い出した?」


軽装兵が馬に指令を出しながら振り返って答えた。


「ボクの名前、憶えてる?」


「うーん・・。」


そればっかり思い出せない。

というのも別れてから数年経つから。

・・とはいえ普通数年経っても忘れないよな。

これが肉を失って天国へ来るという事なのかもしれない。

それに、やつはまだ生きてるだろうから、私の記憶に残ってこっちの世界で具現化しているとか、そういう仕組みなのかもしれない。


「ごめん。思い出せない。」


「いいよ。だってボクはキミのことを好きだった人格だけ分離してここにいるんだからね。」


「なるほど、分からん。」


でもまぁ良い。やつは複数人格があって、私のことを大好きな人格と、血が通ってないのではないかというくらい冷酷な人格とがいて、結局別れることになったのだ。

なんとなくだが好都合な状況になっていると判断していいんだろう。

それにしてもよく分からない。


「キミのことを好きだった人格には名前がなかったんだ。だから思い出せなくって当然だよ。ボクには好きな名前を付けてくれていいよ。」


どうもこの「軽装兵」さんには私で名前を付ける必要があるらしい。

確かにずっと軽装兵では可哀想だ。

ちなみに、宮中伯の名前は「リヒャルト」という。

フルネームは、考えてなかった。

私が考えてなかったということは、ないんだろう。


さて、この軽装兵にはなんと名付ければよいだろうか。


「マーニ!」


少しして、私はマーニという名前を思いついた。

カニン語で「月」という意味だ。

そして天下の選帝侯殿下である私の側近なのだから、最低でも下級貴族でないといけないだろう。

という事でフォンの付く名前にすると決めた。


「マーニ・フォン・ワッセリーでどうかな?」


ワッセリーとはカニン語で水という意味で、水に映る月をイメージした。


「うん!ボク、気にいったよ。」


・・・。しかし何故この名前にしたのだろう。

現世からどんどん離れて行く一方なら、きっと最後まで分からないんだろうな。

というか天国にいる現在、現世という表現は正しくない。


そうこうしているうちにイデア教の集会所に到着した。


「殿下、こちらです。」


「うむ。」


私は宮中伯の案内で、マーニと三人で司祭の部屋に向かう。


「殿下。参られましたか。」


司祭が出迎える。

またこれも私がイメージしていたイデア教司祭の衣装そのものだった。


「本日は殿下に主からの預言をお伝え致します。」


しゅ」というのはイデア教の神のことだ。


「殿下は、ここがどこかお分かりですかな?」


「うむ。天国であろう?」


「違います。」


「え?・・ああ、そういうことか。メルヘン、カニン大公国。」


「そういうことでもありません。」


・・・どういう意味だろうか。イデア教の集会所と答えるのも何か違う気がした私は司祭の次の言葉を待った。


「殿下。ここは殿下が天国へ行くか、地獄へ行くか決める場所でございます。」


「何!?」


どうやら私が天国と思っていたこの場所は俗に言う、中間世ということらしい。


「主からの預言です。」


司祭は静かに預言を語り始めた。


「ルートウィク。そなたは世界のあるべき姿とは何かを考えて生きて来たな。しかしそれを途中で放り出してしまった。だがもう一度チャンスを与えよう。この『煉獄』でそなたが散々なりたかった王族として、民を幸福にするのだ。その結果の如何によって、そなたの魂が最後に落ち着くところが決まるだろう。」


・・・。

どうやら私は神に試される。ということらしい。

私は即座に疑問を抱いた。

天国とか、地獄とかって、それぞれどのような場所なのだろう。


すると突然、私は幻に包まれた。


私の手には金貨3枚しかなかった。

たった3枚の金貨で何が出来るだろう。

私はそう感じた。


また一瞬、私は意識が飛んだかのように思えた。

すると私の手には3枚もの金貨があった。

これを元手に色々なことが出来る可能性がある。

私はそう感じた。


次の瞬間、私は元のイデア教の集会所に戻っていた。




翌朝


「おはようございます。ルートウィク様。」


マーニが起こしに来てくれた。


「マーニ。おはよう。早速今日から仕事だ。」


王族の務め。それは民を幸福にすること。

私がまさか、自分の国を持ちたいとは思っていたが、持つことが出来るとは思っていなかった。

しかし、これはゴールではない。スタートなのだ。

何とか天国へ行く為に私は戦う必要がある。

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