(1-06)Contract
◇Contract|(契約)
TD社での作業を終え家に帰った樹は、先ず帰って来た父に日曜日にTD社の人が来るって伝えた。父の方も判ったって言ってくれた。まあ大丈夫だよね。水戸黄門様は来ないはずだ。流石に無茶苦茶怖い父でも黄門様には勝てる様な気がしない。
父に伝えた後、早速セカンドシーズンのエンディングテーマの演技プログラムに着手した。比較的簡単な歌の所だけを先ず終わらせた。翌日、真弓に来てもらって歌って踊れるダンスの事を聞いてアドバイスして貰いかなり良い感じに仕上がった。前日の夜と合わせ特急だったが一日半でなんとか完成させた。やはりこう言うのは真弓が得意だ。僕がノロノロとやってると横から手を出して来て、Sキューブをギュッとしてあっと言う間に演技を完成させて行く。マイクを持つと、片手が塞がるので今度マイクじゃ無くてSキューブが装着できるヘッドセット(ハンズフリーマイク)を犬槇さんに提案して作って貰おう。
金曜日のTD社には、真弓も行きたいって言って来たので、メールで確認したら、問題ないって返信が来た。真弓の方は実はお昼が楽しみだけなのかも知れないが、僕の方のダンスの修正が入ったら真弓の方が得意だから、手伝って貰えるなら僕も嬉しいし楽だ。
翌日|(金曜日)TD社での演技の確認は、少しダンスの修正したけど問題なくちゃんと完成した。後、僕からの要求は、会場での最終テストを当日|(土曜日)の早朝で出来ないかお願いした。
そうしたら、前日には既に会場が出来上がってるから、金曜日が良いと言われたので。金曜日に最終調整を行う事にした。最終調整は、もう一つ追加しておきたい動作が有って、現場じゃないと出来ないからである。完全に手を離れて運用したい為、Sキューブのデモになったら自律でステージに行って終わったら自律で戻ってくるようにしたいと伝えてある。犬槇さんは、そこまで出来るなら断然に良いと言ってくれた。一応会場のレイアウトは事前に貰ったので、それで仮にプログラムを組んでおこうと思う。
日曜日。午前中の一〇時位に、TD社の立柳開発本部長、三椏営業部長、犬槇開発本部課長、泡吹Sキューブ営業担当が家に来た。四人も来るんだ、ビックリだね。
早速本題。契約書の先ず金額で、無茶苦茶父に怒られた。なんでだ? 取り敢えず立柳さんのフォローでなんとか大人しくなった。これでも金額は抑えて来たらしい。父の怒りが収まった所で、漸く、内容説明、今回は近々での契約に来たと言っていた。また此処で、次が有るのか? と睨まれる。
まず、デモプログラム完成品三つの買い取り。TD社では、中身をリバース・エンジニアリングしない。これで、デモの演技を全てTD社が使用出来ることになる。期間は買い取りなので無期限。既に動作確認済なので、なにも修正変更依頼はしない。
今回は、これがメインの話。これだけだと、僕には何も制限が無いのに良いのかな? 他社のSキューブ使用しても良いみたい。
「うちの樹に随分好条件になっている様ですが、宜しいのですか?」
父も、この話に何か驚いているようだ。
「はい、私個人としては他社製で大会に出ないとかの制限を付けたい所でしたが、青木社長と山車製品開発事業部長に却下されました」
立柳さんがそう言ってきた。そりゃメーカーの立場から制限したくなりますよね。
「青木さんか……まああの人なら言うだろうな」
「父さん知り合い?」
「以前同じ職場に居たことがある」
なんですと? お友達ですか?
「市ヶ谷で?」
「いや、駐屯地の時だ。まあTD社を立て直すのに退職したけどな」
「青木社長からよろしくと伝言を受けております」
「判りました、後ほど連絡して久しぶりに会ってみようと思います」
「よろしくお願いします」
立柳さんが、話を戻して来た。
「このような契約になった理由なんですが、その、山車が当社のスローガンを前にして『子供を縛る契約するなら辞めちまえ!』と、それでこういう条件になっています。青木の方からはアドバイスを貰いまして、自分たちの未来を語りなさいと」
未来ってなんだ? 明日も明後日も来年もだよね……どの位先の事?
「樹くん、我が社は、今回の新製品を使用したカラオケバトルを春のおもちゃショーで初めようと思っている。それ以降は夏の弊社主催の大会でイベントとして実行して行こうと考えています」
「Sキューブに唄わせるんですか? 楽しそうですね。結構盛り上がると思いますよ。僕も参戦しようかな。とすると、今のソフトを簡単操作して出来るようにした方が良いですね。唄だけはユーザーに頑張ってテクニック磨いて貰えば良い感じですね。イベント終わってからなら直ぐ提供できるな」
「提供して頂けるのでしょうか?」
「良いですよだって僕も出るかもしれないのに何の環境も無きゃ他のユーザーは参加も出来ませんからね」
「感謝します」
「あと、声を掛けて呼びかけると、返事をする機能なんですが。それもユーザーは多分初期に使用しそうなんです」
「それは、僕が使う機能だからもう出来ていますよ。便利ですもん。声をかける。返事をする音声で動作命令する。ただそれだけなんで、動作命令で何をさせるかはユーザー次第だと思います。一応呼んだ人の所に行く。お辞儀をする。笑いかけるは、モジュール化してるので。すぐ提供できますよ」
「ありがとう御座います。その辺りはイベント終了後、別途相談させてください」
「はい判りました」
「それとこの書類を〝悪魔の樹〟〝デーモン・ツリー〟を当社で勝手に登録させて頂きました。使用権は樹くんだけに有ります。当社が勝手にこの名前でソフトをリリースする事は有りません。樹くん以外がこの名前を使用した場合は、当社から訴訟を起こします」
「えっと、そんな凄い事しないといけないんですか?」
「ええ必要です。今後Sキューブの開発アプリや、デモプログラム作成者は〝悪魔の樹〟がブランド化して行くでしょうその為の事前防御策です。当社の新製品にも〝悪魔の樹〟作成デモプログラム、プリインストールと表示します」
はあ、なんだ良く判らないけど、まあ良いや。僕は使っても良いみたいだし。とにかく、基本的に仕事を依頼しない事を約束してくれた。まあ一部は建前な所があるけど完成した物を買い取るらしい。難しいね、契約って。
契約も終わって、タクシーを呼んだ。四人が帰る時に、犬槇さんに一枚のメディアを渡した。
「樹くん、これは何だい、何が入ってるんだ?」
「以前、犬槇さんと桜さんに見せた、マルチSキューブエミュレーション開発ツールですよ。素人ですが僕が書いた、仕様書等一式入っています。僕はそれを、これから継続メンテナンスする事は難しいので差し上げます。それにこれ無いと、発表会も困るんじゃないですか?」
「いやしかし、これは……」
「まあ今後ペア競技が出来れば使うと思うので早めにユーザーに向けてリリースして下さいね。それに、映画作るのにも必要になりますよ。もっと機能拡張する必要あると思いますが。実際に使われる頃には、僕は大人になってるかもしれませんね。TD社は子供達に笑顔をとどける会社ですよね。だからいつか映画作ってください。Sキューブの可能性を見せて下さいね」
「樹くん、映画の事はどうして?」
「だってTD社は子供向けの映画作ってるでしょ。Sキューブがあれだけの完成度になればSキューブで映画作ること出来るじゃないですか。赤ネコが動いたら真弓ちゃんも喜ぶし。大人のおもちゃ屋さんじゃないでしょTD社は」
「その通りだが、樹くんは鋭いな」
「樹くん、感謝します。必ず子供達が笑顔になる映像コンテンツを作ります」
立柳さんが約束してくれた。
「はい、楽しみに待っています」
「良いのか?」
父が確認してくる。
「構わないよ、あれは遊びで作ったにしては、ちょっとヘビーな物だから僕の手から離れてブラッシュアップを任せた方が良いし、今のうちにTD社にあげた方が気分が楽だから」
「そうか、樹が良いならば問題無い」
TD社の皆さんが、僕達に挨拶して帰って行った。
その日の夜、TD社のWEBの大会の案内ページが更新された。ティーザー広告って言うんだっけ。なんか勿体ぶった感じなんだけど、続きが見たくなるやつ。動画の一部だけで、何故か顔のアップでウィンクしてるのが載ってた。これでSキューブの何が判るんだか疑問だが右下の方に、S―CubeH Controlled by 〝悪魔の樹〟って載ってた。なんか恥ずかしいです。
よろしくお願いします。