(1-05)黄門様登場
◇黄門様登場
本日のTD社での作業を終えて帰る準備をしようと思っていた所、桜さんが、なんか偉そうな感じの二人を連れて来た。片方はスーツをビシッっとキメたオジサン。もう片方は、バーコードハゲの太ったオッサン。かなり汗かきの様な脂ギッシュな見た目。メタボみたいだから健康に気を付けたほうが良いよ。
「樹くん、忙しい作業中、申し訳ないんですが、もう一回、デモを実施して貰えますか? 上司なんですが見て頂きたいので。よろしくお願いします」
「はい、良いですよ。今日の作業はもう終わりましたから。すぐ始めて良いですか?」
「ええ。お願いします」
もう一度、デモを二パターンを演技させた。
デモが終わった所で、偉い人のバーコードハゲのオッサンが怒った口調で言って来た。
「犬槇君、なんでカラオケが、ファーストシーズンのエンディングなんだ? セカンドシーズンにするべきだろう、それに合わせたSキューブなんだろコレは!」
おいおい、なんて事言ってんの。このオッサン。僕怒っちゃうよ! プンプン。思わず唖然として口が開いてしまった。
「油瀝青君、黙ってなさい」
もう一人のオジさんが。注意してくれた。
「いや、ですが当然の事だと判断してます」
「君は、今現在この場所に相応しく無いから戻っていなさい」
「ですが、Sキューブ開発部の部長として、席をはずす訳には……」
「では、製品開発本部の本部長として命令します。戻っていなさい私がいれば十分です。早く戻りなさい」
あのオッサン、部長なのか。アブラ・チャンって、油ちゃん? アダ名?。大人の世界は良く判らないな。世の中不思議がいっぱいだ。厨国の人かな?
オッサンが、渋々といった感じでエクササイズルームから出て行った。もう一人のオジさんが僕の方へ近付いて来て。
「初めまして。私は、弊社の製品開発事業部の本部長をしている立柳と言います。杜樹くんですね、この度は多大な協力感謝します。大変素晴らしい、いや凄まじいデモ演技有難う御座います」
思わず礼儀に反すると思って立ち上がった。
「えっと、杜樹です。宜しくお願いします」
握手を求めて来たので、握手した。なんか凄い威厳が有るな、さっきのオッサンとは大違いだ。痩せてるのに。武士たる者かくあるべしって感じの渋さ。
「本部長、ご覧になった通り、当社の次の大会での製品発表会でデモ演舞するプログラムです。樹くんが昼夜を問わず、特急で作り上げてくれました」
横から、犬槇さんが僕をフォローする説明をしてくれた。
「うん、大変素晴らしい。今迄は仕様や写真だけの静態展示だった製品発表が動態展示。それも全機能を最高性能で見せることが出来るのは社外社内ともインパクトがあるな。開発部の皆さん! これを見て、私は決めた。未だ確約出来ないが、次の開発予算をきっちり、今よりも多く確保してこよう。今後も頑張ってくれ」
聞いていた開発部の社員さん達が嬉しそうにしている。
「樹くん、お願いが有るのだが聞いて頂けるだろうか?」
聞くだけはタダだけどね。無茶は聞かないよ。
「ええ、どうぞ」
「もう一人、このデモを観て貰いたい方が居るのだが、後ほど連れて来るので、もう一度実演お願い出来ないだろうか?」
「その程度なら、何も問題ありません」
「良かった」
「もう一つ、良いだろうか?」
「ええどうぞ、出来ないことは有りますが…」
先に釘をさしておこう。
「さっき、部長も言っていたのだが…セカンドシーズンのエンディングのカラオケに変更することは可能だろうか? それも製品発表会までになんだが…」
どうするかなあ。まあ引き受けても良いけど。
「それは、正式な依頼になるんですか?」
「ちゃんと、契約書も用意しよう金額は別途相談することになるが、今週末に樹くんのお宅へ伺わせて貰いたい」
「問題がなければ何とか出来ますよ。必要なものが今日揃えば」
「大至急用意させよう」
「後は、もう一度、ここを使わせて頂きたいのですが、そうですね、金曜日でいかがですか、それ以上遅くなると、いろいろと不味いと思います。現物見たほうが価値が判るでしょうし、その後の修正期間も必要ですから。あと犬槇さん、このファーストシーズンのカラオケは修正しないようにします。先ほどの機能はセカンドシーズンのカラオケに適用します。よろしいですね?」
「はい問題ないです。場所の確保も任せて下さい」
立柳本部長さんが、なんか慌てて出て行った。急遽作ることになった、セカンドシーズンのプログラム開発に必要な物をピックアップして、犬槇さんに伝える。演出は、もう少し派手にした方が良いかな? この辺は、真弓にアドバイス貰った方が良いだろう。
再び、立柳本部長さんが戻って来た。なんか人が良さそうな、随分高齢に見える杖を突いて歩いてお爺ちゃんが来た。なんか犬槇さんが緊張している感じです。立柳さんが僕の方へ近付いて来た。
「樹くん、先ほど伝えた件で、もう一度デモをお願いできるかい?」
「はい、大丈夫です。直ぐ始めて宜しいですか?」
「ええ、お願いします」
合間に、追加した音声認識で、早速始める。
「花梨!」
「はい」
「スタンバイ!」
先ずは、花梨の演技。挿入歌の音楽を流し、演技をさせる。終わった所で、一旦花梨を戻す。マイクを握らせる為に必要な動作だ。本番は、もう一体花梨を用意して貰おう。そうすれば、交代するだけで済むから。
「花梨!」
「はい」
「胡桃!」
「はい」
「スタンバイ!」
花梨と胡桃が、トコトコ歩いて、競技エリアの対角の位置でスタンバイする。エンディングの音楽を流し始め、カラオケを歌わせた。
今回は、拍手は起こらなかった。お爺さんが近付いてきて。思わず反射的に立ち上がった。
「君が杜樹くんかい?」
「はい、そうです」
「私は、製品開発事業部の事業部長をやっている、山車じゃが、樹くんは、何年生なんじゃ?」
「今、小学五年生です」
「ほう、凄いなこんなの作れるなんて驚いたぞ。どうじゃ、こう言うの作るのは大変じゃないか? 時間も無いのに」
「楽しいです。ちょっと時間を忘れて遅くまでやっちゃう事も有るんですけど。このTD社のSキューブってなんか、凄い可能性って言うんですか、なんか驚く事が出来ちゃいそうで。それで作ったの見せると、皆驚いて、そして拍手して喜んでくれるんですよ。この前はCC社のSキューブだったんですけど、大会では優勝出来なかったのにスタンディングオベーションしてくれたんです。凄く嬉しかったです」
「そうか、楽しくて面白いか。それは良かった。うん。また、驚きそうなのが出来たらワシに見せてくれるかの?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ、出来たら此処にメールしてくれるか?」
山車さんから名刺を頂いた。
「はい良いですよ」
「今日は驚かせてくれて有難うな。次を楽しみに待っとるよ」
「はい!」
なんか、凄い人だな。優しいのに厳しいのかな? なんて言うんだろう。水戸黄門かな? うちの父親が年取ったらなんかこんな感じになりそう。
「樹くん、今日は有難う。何度も邪魔をしてしまって申し訳ない」
立柳本部長さんが黄門様が立ち上がった所で挨拶してくれた。
「いえ、全然平気です。こちらこそ、場所を提供してくださって有難う御座います」
立柳本部長と山車事業部長が、部屋から出て行った。なんか、こっちも緊張したよ。水戸黄門の存在感半端ねえ、この紋所を背おってる感じだ、こっちも思わず頭を下げたくなってくる。武士も怖いけどそれ以上だ。
何だかんだで既に一七時を過ぎている。一通りのやるべき事は終わった感じだ、今帰れば一九時前には家に着きそうだな。真弓の方も休憩してるようだし、さっきから、女性社員と一緒に花梨と胡桃を呼んで遊んでるし。今日は家で何とか、ハイタッチと手をつなぐのを完成させよう。明日しか時間がないから。明日はダンスを入れるだけにしておきたい。
「犬槇さん、こっちは一通り作業終了です。あとは、セカンドシーズンのエンディングテーマ曲のカラオケ有り無し両方と、譜面をお願いします」
「判った。もう少し時間がかかりそうだから、この後、夕食でもどうだ? さっきと違って外になるが」
「そんな悪いです」
「実を言うとな、君たちを食事に連れて行くと必然的に俺も一緒に食べれる訳だ。なかなか食べれない高級料理だから俺の為にも付き合って貰えると非常に嬉しいんだな」
「そうなんですか?」
「そうよ、私も普段食べる事出来ない物食べれるから期待してるわ」
「じゃあ、お言葉に甘えてご馳走になります。あっ家に連絡しないと……」
「大丈夫、既に伝えて了承を得ているわ」
いつのまにそんな事してたんだ。ずっと真弓と一緒にいたはずなのに、桜さん出来る女ですね美乳だし。
帰る準備をし始めた所で、ふっと思い出した。
「犬槇さん」
「なんだ?」
「これ何ですが……」
そう言って見せたのは、僕のPCのエミュレータ画面。
「こ、こ、こ、こ、こ、こ、これは!」
言葉変ですよ犬槇さん。桜さんも僕のPCを覗いてきた。
「な、な、な、な、な、な、なにコレ!」
面白い人達だ。TD社は良いな女性はミニスカートで綺麗だし。おもちゃ作ってるし。
「どうしたんだコレ」
「どうしたと言われましても、二回目のデモを作るのに必要だから作ったんですよ。僕のPCだと性能が足りないから、後もう一体が限度ですけどね」
「こんなの、どこのメーカーにも存在してないわよ!」
「僕はCC社とTD社しか知らないので、他二社は判りませんけど、まあ今は無いと思いますよ。必要無いですからね今は。ダンスのチーム演技とか有れば、これが凄い有効になると思いますけど。とりあえず、今日は見せただけです。後どうするか、どうしたいかの判断はお任せしますよ」
僕が見せたのは、エミュレータ内で、花梨と胡桃が一緒に歌っているエミュレーションデータだ。今何処のメーカーのエミュレータも、一体しかエミュレーション出来ないようになっている。もちろんTD社も同じである。今回どうしても、二体を同時に表示させたかったので、作ってしまった。無くてもなんとか出来るが、有った方が断然に良いから。
「見せてくれて感謝する。今後の為にも大変参考になった」
「もう、樹くんはホントにビックリ箱ね。胸が凄くドキドキしたわ」
桜さん、自分の胸揉まないでください。ワザとですか? 僕には刺激が強すぎます。
「真弓ちゃん帰る準備出来た?」
「うん、後着替えるだけ」
「桜さん、真弓ちゃんの事お願い出来ますか?」
「ええ。任せて」
僕は、木蔦さんに先ほど依頼した曲データを貰って、胡桃を梱包し始めた。胡桃は持ち帰らないと明日作業が出来ないから忘れてはいけない。木蔦さんからは、これも返却不要って言われた。新製品がこれで二体。置き場所に困りそう。そのうち人形の館になったらどうしよう。自業自得って言われそうだ。
この後一八時から、TD社に近い中華屋さんに行くって言われたので付いていった。高級チャーハン、高級餃子、高級ラーメンかな。と思って行ってみると点心のお店だった。って言うか点心って何だ?
こんなお店は庶民には無理です。これなら会社の奢りで是非にも食べたくなるんだろうな。
席に付いたけどメニュー見てもチンプンカンプン。一応普通のコースの食事も有るみたいだけど、犬槇さんが、メニューに載っていた餃子を全部注文していた。負けじと桜さんは、デザートをこれでもかって注文していた。他はスープを三種類注文。二人共、全種類を制覇したかったらしい。餃子とデザートのフルコース? でした。何か食べ方を間違えているような気がする。どちらかと言えばこれは大食いバトルだよね……。真弓ちゃんもデザートは別腹らしい、でも一口食べて残りを僕に渡すのはどうなの? そんなに全種類味見したいの?
夕食後僕達は、泡吹さんにタクシーで送られて帰宅した。犬槇さんと桜さんは、食後も会社に戻っていった。まあ僕達に付き合って今日仕事出来なかったからね。ごめんなさい。泡吹さんは、送ったら帰宅するそうだけど、電車なんだって。かなり僕達の所からは遠いみたい。大変だ会社員は。
樹達との夕食が終わって帰社した犬槇と桜は、そのまま立柳本部長の所へ行った。
「樹くん達は、ちゃんと帰したのかね?」
「はい、営業の泡吹をタクシーに同乗させて自宅へ送らせました」
「そうか。判った。さてと、先ずは今日はご苦労様」
「いえ、我々の能力不足で申し訳ありません」
「そのことは、今後努力して行きたまえ」
「はい」
「今日、樹くんのデモを見せて貰って、ビジネスに関して多大な可能性があると判断した。犬槇君も感じただろう」
「はい、当初は、大会後に映像の商用利用契約を結ぶつもりでした。それは、デモのプログラムがギリギリ間に合うかどうかという判断をしていましたので。ですが今日の実演を観て、本部長がおっしゃったように、日曜日には契約を完了しなければと判断しています。ただし、デモ演技のプログラムも買い取る必要があります。理由は、契約完了して買い取りも完了できていれば、月曜日からWEBに載せた宣伝が可能になるからです。それも動画で。これにより来場者数のアップと事前予約のアップが期待出来ます。日曜日のどの時間で契約が完了するか不明ですが、完了した時点で、撮影を開始すれば、月曜日にはWEB更新できるでしょう。大会までティーザー広告にした方が良いと思われます。まず買い取るカラオケをSキューブにプリインストールしておきたいと考えています。最初にあのプログラムがインストールされていれば、購入者の不満が少なくなると判断します。もう一つは、呼ぶと反応するプログラムもプリインストールしたいと考えています。ビジネスの可能性ですが、樹くんの作成したカラオケのソフトを買い取りTD社で販売するビジネスが出来、需要も期待できます。あわせて声優のボイスデータを販売することも需要が期待できます」
「うん、まずは、第一段階はそこだろうな。その先も見えて来たのか?」
「はい、TD社では、独自の競技が有りません四メーカー公式のみです。春のおもちゃショーで、Sキューブのカラオケバトルを実施できればと考えています。その前に、Sキューブ用のマイクを製造販売する必要があります。需要はSキューブ販売台数と同程度と思いますが、プレゼン用にも使えますのである程度長期に渡って細く長く販売出来ると思います。これは週明けにでもメーカーを呼んで検討させます」
「うん、その辺は私も予測できている。近々はそれで行くべきであろうな、他の部署とも連携は必要だろうが。だが、犬槇が言っているのは全てターゲットが中高校生以上であろう。我が社のスローガンは忘れてないだろうな?」
「はい、もちろん覚えています。〝子供達に笑顔を届ける企業Toy Dreams〟です」
「子供達の事を考えないとこの事業は終わる、売れていても終わるぞ。今日、山車さんにもデモを観て頂いた。私もデモを観て少し調子に乗っていたんだろうが、かなりヒヤヒヤもんだったぞ。あれでSキューブ開発部を解散するかと思ったよ。樹くんに感謝しないとな」
「と言いますと?」
「社長も山車さんも、〝子供達に笑顔を届ける企業Toy Dreams〟を地で行っている人だ。樹くんに話かけただろ、その時、樹くんに『大変じゃないか?』と質問したのを覚えているか?」
「はい」
「樹くんが、『大変です』と答えたら多分開発部は解散しただろうな。『子供達に笑顔を届ける企業が、子供に苦労させて金儲けしてる。そんな事業はしなくて良いってね』あの質問が出た時は、マジで焦ったぞ。樹くんが、『楽しいです』と言ってくれたからこう言う先の話が出来るんだ」
まじっすか? 山車事業部長怖え……。
「とりあえず解散の危機は去ったが、子供達の事を考えたSキューブを使ったビジネスを検討しなさい」
「はい、判りました」
「立柳さん、宜しいでしょうか?」
「桜くん何だね」
「今、犬槇さんに言った件ですが」
「なにか考えがあるのかね?」
「はい、かなり先の事になりますし、他の部署、他社とも連携が必要ですが」
「構わない」
「Sキューブを使用した、実写の子供向けコンテンツが今後可能になって来ます。現在は殆どがCGをメインとした非常に綺麗な映像ですが。実写には多大なメリットが有ると思います。子供向けイベントで本物を動作させられます。それに、Sキューブの技術を応用して、赤ネコや、黄色ネズミの縫いぐるみに組み込めば、それを使用した実写もそうですが、リアルに動作する縫いぐるみが出来、子供達向けの販売が期待出来ると思います」
「うん、そうだな、私もそう思う。樹くんはSキューブに『凄い可能性』が有ると言ってくれた。子供がそう感じるんだから、大人である私達がその可能性の先を見せてやるべきだろう。〝子供達に笑顔を届ける企業Toy Dreams〟としてな」
「はい、判りました」
「先ずは、近々の大会での新製品発表会を成功させる事だ」
「はい」
「それと、CC社もやっているが、タイトルが欲しいなパッケージに優勝モデルと貼るだけでもインパクトは違うからな。我が社のSキューブが他社より性能が低い理由は当然理解している。Sキューブとしての統一基準も有るだろうが、我が社には、別な基準が有るからな」
「はい、子供を傷つけない為の安全基準です」
「そうだな、その為に、柔らかいボディを採用して、他社より少し重くなっている。パワーもスピードが出過ぎないように抑えてある」
「はい、そうです」
「他のメーカーには他のメーカーの基準があるように、うちにはうちの基準が有るこれは変えられない。これは、大人向けで有っても、子供が近くに居る可能性を想定しなければならない」
「はい」
「それでも、タイトルが欲しいと私は思っている。樹くんは性能の事は何か言っていたか?」
「今回の新製品のスペックで十分だそうです。機能に関しては聞くことは出来ておりません。樹くんはこうも言ってました。『Sキューブに人間以上のパワーは必要無い、Sキューブは人間の三分の一位の大きさだから、五〇メートル走で一七、八秒位で走れれば良い』と。それを聞いて俺も、性能を求める事よりも先にする事があると思いました。可能性を実現する為にも、もっとユーザーが使いやすくしなければと。事実、樹くんは、今回のデモの開発にCC社のツールを使用してコンバートしてると言ってました。非常に恥ずかしいことですが、本体ばかりに目を向け過ぎていました。柊も痛感してるでしょう」
「はい、私は樹くんが、短期間で我が社のツールを使いこなしてデモプログラムを作成しているのと思っていましたが、直接聞いて、これではダメだと思いました。早急に他社に負けないツールにして行きます」
「そうか、柊くん頼んだよ」
「はい、頑張ります」
「立柳さん、タイトルの事ですが、うちの大会でダンスで優勝する可能性がありますわ。CC社のダンス部門で優勝した空木真弓さんが、今回、我が社の一世代前のモデルの〝真凛〟でエントリーしてくれます。それもアニメのコスチュームを着て演技してくれます」
「樹くんに付いてきた娘か?」
「はい、私も側で観ておりましたが、パフォーマンスも凄いですが、プログラム開発能力も素晴らしかったです。かなりの確率で優勝出来ると思いますわ」
「そうか、それも朗報だな。よくそんな娘がエントリーしてくれたな」
「樹くんが、CC社での彼女のパフォーマンスの採点に疑問を持ちまして、それでエントリーの提案を泡吹と木蔦に打診してくれたんです。私も、映像を拝見しましたが、圧倒的なパフォーマンスで、スタンディングオベーションも出ていましたが点数は非常に低かったです。あのまま行けば一七位、位だったでしょう」
「どういう事だ、点数が低いのに、優勝したのか?」
「彼女は、予選トップで勝ち上がって、彼女の演技の後から予選免除組の演技が始まる予定だったのですが、彼女の後の演技者すべてが棄権しましたので」
「とんでもない事をやらかしたんだなCC社は。それでその始末はどう付けてるんだ?」
「棄権したのは、選手の都合で、演技しても空木選手のパフォーマンスは圧倒的であり順位に問題無いとの事です」
「呆れたコメントだな、ダンスであれば、子供も大人も参加しているだろうに……子供達の事を考えておらんな」
「はい、おっしゃる通りです」
「まあ、その件はCC社の問題だ。次に、第二クォーターで追加で一本|(一億)使える用に山車さんとも相談した。当然赤字だ。これで、樹くんから買い取るもの、新規で準備するマイク、ボイスデータ、広告代理店への追加CM依頼等、見積もりを用意しろ」
「はい判りました。一本ですか? 凄いですね」
「それ位の投資を、今、行う必要があると、私も山車さんも判断したんだ。無駄にするなよ」
「はい、判りました」
「それと、取らぬなんとかになるが、初期生産台数は何体だ?」
「一〇〇体です。今迄が年間で二,〇〇〇体程度でしたので」
「直ぐに増産の手配の書類を準備しなさい。私が承認許可を出す」
「承知しました。私も今日のデモで必要になると思っておりました。プラスで一,〇〇〇体増産は必要だと思います」
「その位が、妥当でありリスクが少ないだろうな。もっと売れると思うが……イベントでの予約を受け付ける準備と、専用の予約場所も用意するように、営業に連絡を、要員は最低でも一〇人確保するように」
「はい、判りました」
よろしくお願いします。