(1-01)無双の始まり
◇無双の始まり
小学三年生になった真弓も、この年から樹と一緒に大会に参加し始めた。参加競技はダンス競技だ。
真弓はキッズのダンススクールに通っていてダンス大会にも出場してる。最近は本人の身体能力も向上してきて、上級生が出場するダンス大会でも入賞する程の実力になっていた。入賞して褒められる事でどんどん踊る事が楽しく大好きになっていた。そんな真弓がダンス競技にエントリーするのは当然の流れの事だった。
Sキューブを購入して貰った当初から、Sキューブと一緒に踊るの為に樹に我儘を言ってソフトを作って貰いSキューブと一緒に踊って楽しんでいたのも理由の一つだと思う。
今年は、真弓もPCも買って貰い、樹に習って自分でも制御ソフトを開発し始めた。真弓のソフト開発能力は、樹の指導も有り非凡さを見せるようになって来た。それでも自分のダンスの能力がSキューブを上まっていた為、なんとか同じ動きをSキューブにさせたいと思っていた。
どの参加者も自分のダンスレベルを落とし、Sキューブに合わせた演技構成にしている。樹の指導によってSキューブ制御が上手くなっていった真弓は他の参加者に比べダンスレベルを極端に下げる事が無かった。その事が有利に働き、なんとか地方予選を勝ち上がり、本戦の予選に出場出来る様になったのは凄い事である。
流石に本戦では、このままでは勝てないと思っていた真弓は、もっとSキューブプログラミングを上手く作りたいそう思っていた。だが中々上手くいかず、どうにも上手く制御出来ない為、困った時の樹くんに相談して指導してもらうことで解決して行った。
樹は、過去の大会のレベルから判断すると、真弓は十分優勝する能力があると見ていた。そもそもがSキューブ制御の大会で有り、まだ人間のダンスレベルに到達した制御が出来ていない為、Sキューブのレベルに人間側が合わせているのが実情である。
真弓のダンスは同じ小学生で見ればトップレベルであるのは間違い無いであろう。だが中高生、大人と比べれば未だまだなのである。どんなにダンスが上手くても、Sキューブの制御がダメならば入賞も不可能である。
そう言う目で見れば、真弓のSキューブ制御はトップレベルに来ていた。相談された内容を聞いて判断すると、大会では圧倒的なパフォーマンスを見せると思っていた。ただ真弓やろうとしている演出では優勝出来ないかもしれない。そう思っていた。
真弓にも、その理由を伝えたが、パフォーマンスを見せるのが目的なので、今の踊りで進めると言ってきたのでそのままサポートした。
予選から参加しないといけない真弓に、樹は予選用と本戦用二プログラム用意させ、本戦で審査員、観客を驚かせようとした。と言うか予選敗退の可能性も有ったので確実に予選通過出来るプログラムを準備させた。スペシャルなプログラムは本戦用にした。真弓も承知しているし、真弓も同様に驚かせる事を楽しみにもしていた。
樹も体操競技に出場するのであるが、真弓と違って相変わらず、ズレた発想で大会に挑もうとしている。床運動の大会であるにもかかわらず、Sキューブの衣装を魔法少女風に、ボディも改造し、胸にシリコンを仕込んで揺れるようにした。樹の今大会の目標は、チラっ、揺れ、萌えを体操競技に反映させる事。大会は、昨年の成績から本戦のワイルドカードを貰っているので一発勝負である。
CC社が主催する夏の大会は、水道橋の嫁入ドーム球場で行われる。予選当日、真弓に付き合って|(勿論、真弓の両親も一緒)会場に行き、真弓の順番を待つ間に離れた場所で行ってる別の予選を観戦していた。予選の床運動競技は、昨年の樹レベルより下回っていた、本戦も少しはマシであるとは思うが大した事はなさそうであった。樹が興味を引いたのは、バトルの様子であった。誰も、武器を持たない肉弾戦ばかりで有り、武器を持たせて華麗に戦わせたら、格好良いだろうなと考えていた。理由は、勝敗条件が場外、フォール、関節技等の押さえ込みだから、武器を持っても役に立たない為である。
肝心の真弓の予選は、真弓が緊張してたが、問題無く余裕どころか、圧倒的だった。予選後のインタビュー|(たまに目立つ選手に対して行われる)では、緊張しまくりで可愛かった。
インタビュアーのお姉さんに「真弓ちゃん、どうやって、Sキューブ制御ソフト作ったの?」って聞かれて。真弓は、「Sキューブの手とか足をギュッとして、PCの画面でグリグリしてで作ったんだよ」って応えていた。
Sキューブを触った事が無い人が聞けば、なんのこっちゃと言う内容だけど、使った事が有れば誰もが皆やってる事で、特に疑問に思う事は無い解答だ。
インタビュアーのお姉さんが、更に真弓に質問していく。
「真弓ちゃんのは、すっごく格好良く動いてたけど、それだけで、あんな動きが出来るの?」
真弓は、ノウハウの重要性なんて知らないだろうし、単純に褒められていると思っているのだろうな。ソフトの開発ノウハウは上手くすればAPIモジュールを提供する事でシェアウエアとして稼ぐ事が出来る為、子供相手だからと言って聞き出して良い事ではない。
だからこのメーカー主催の大会はあんまり好きになれないんだよな。子供が凄いことするとそれを疑ってくる姿勢と、そのノウハウを聞き出そうとすることを。大会会場の雰囲気は凄く良いのに。
樹も以前は全く気が付かなかったし意識もしていなかったのでホイホイと乗せられて答えていた。なんと言っても男の子である。いい匂いがする綺麗なお姉さんに迫られたら照れてしまい答えてしまうのは仕方無い。
「えっとね、転ばない様にしているのを、止めるんだよ。どうせずーっと飛んだり跳ねたりするんだから、自分でやった方が綺麗に動けるんだよ」
「そうなんだ、真弓ちゃん凄いのね、お姉さんビックリしちゃった」
あー言っちまった。まあ大した事無いしね。知ってる人は大勢いるんだし。これで来年は、全体レベルが一段アップするんだろうな……。
今回、真弓に頼まれて教えてあげた事は、標準で常時動作しているバランス維持機能をカットする事だ。この機能が働いていると、常時バランスを取ろうとして、やりたい動作に近づかない。購入時は、この機能があるお陰で、Sキューブが転ぶ事が無いし、コントローラで動作させる時も必須の機能なんだけど、この機能が大会では邪魔になってくる。
真弓が言ってた様に、どうせ飛んだり跳ねたりしてるんだから、そんな機能はOFFにして自分でバランスを取れば良い。極端な事を言えば、着地や止まった時点でバランスが合っていればバランス機能は必要ない、そう言う動作にしてしまえば完璧だ。ただわざとバランスを崩して次の動作に移行するテクニックも有るが未だ真弓はそこまでしていない。この事を知ってるのは、ごくごく一部のエキスパートだけだろう。秘匿する様な内容でも無いけど、態々公表しなくても良い。
僕が、最初に五〇メートル走をした時も、前傾姿勢を維持するのにこの機能をOFFにして、最後のゴール後、停止した時にONにした。この事は当時は言っていない。意識して言わなかったのでは無く、皆している事だと思っていたから。まあ、もう一つサポートで入れてあげた事は、真弓も判っていないから大丈夫だろう。これが無いと、今言った事も完璧には行かないのだから。
僕が真弓に内緒で組み込んだのは、足の指の制御だ、メーカーが組み込んでいるバランス制御も意外と多く足の指を制御している。これが動作させたりしている時に制御バッティングを起こしてしまうのがOFFにした最大の理由。
だがこの足指制御はあまりユーザーは意識していない、ここを意識して制御することで、ダンスにしても僕が今大会で参加する体操にしても、動作が変わってくる。真弓のプログラムには直接記述したが、ここは今後モジュール化しておいた方が都合が良さそうだと思った。
インタビューも終わった様なので、真弓の両親と一緒に真弓に近づいて行く。真弓も気がついたようで、手を振ってくる。真弓の事を褒めておいて、明日は、もっと頑張れって言っておいた。さて今日はもうこの位で十分だろう。一応真弓にはインタビューされても、ソフトの作り方は教えないようにって言って注意した。ちゃんと教える場所が有るから其処で公開すれば良いよって。質問されたら、秘密って言えば問題ないと伝えておいた。
この後は、特に見たい競技も無く、見ておきたいイベントも無かったので、真弓の両親と一緒に帰宅した。
真弓は緊張と踊り疲れなのか電車の中で爆睡していた。僕に抱きつくのはちょっと恥ずかしいから止めて欲しい。真弓の父親の令法さんが睨んで怖いんだから。僕も焦りながら寝たふりで回避した。
翌日の本戦は、僕の両親も一緒に会場へ向かった。幸いな事に、僕は午前中、真弓は午後からの演技なので、真弓の演技もちゃんと見る事が出来る。たかだか五分程度しかステージに上がる事はなけど、控室で待つ時間も含めれば一時間位は拘束されるので、同じ午前中とか午後だったら演技が見れない可能性があった所だった。
出番は僕の方が早いので、身内全員が僕の会場に見に来ていた。目標は見ている会場の皆がSキューブの可能性に驚いてくれる事である。別段優勝を目指している訳では無い。と格好つけて言ってるが、本当の目的は、やっぱチラっ、揺れ、萌えです。
演技は七月から始まったアニメの影響を受けて昨年の演技をベースに回転数アップ、着地ポーズの変更を入れてある。衣装は真弓にも協力して貰い二人でチクチクと縫って作成した。
自分の演技の順番になって、Sキューブを抱えて、競技フロアにSキューブを立たせ大型モニタに映された所で、会場にざわめきが広がった。
まあ、こうなるのは判ってたしね。会場から聞こえる声は、
『なんだ、あの衣装は? 体操競技だぞ』
『規定違反してないのか?』
まあ想定してましたよ。でも衣装は特に規定無かったし、可愛いは正義でしょ。
ざわざわとしている中、僕の演技用の曲が流れ始めた。曲は、衣装に合わせたアニメの挿入歌の曲。さあ、皆を驚かせようか。
コントローラのスイッチを押して、起動させる。曲に合わせ、最初に軽くジャンプ、バレエ・ダンスから始まり、アニメのポーズを付けて、体操らしく踊りまくった。樹のSキューブは、衣装、胸の揺れによるハンデが無かったように他者を圧倒する演技を、昨年までは、未だ到達出来なかった、人と同等に近い演技領域の技を披露して。ただ完全にルール無視で着地の際決めるポーズが魔法少女の決めポーズだったり、止まらずに動いたりした。着地ポイントがラインを超えていたりと採点競技としては致命的であった。
主催者も観客も、樹の行った事の凄さに驚いている様だった。あまりの凄さに圧倒されていた観客は、演技曲が終わって、決めのポーズを付けた所で、にスタンディングオベーションになった。CC社の大会では始めての出来事であった。残念ながら採点競技である為、入賞にも届かなかったが、採点結果が出た時は観客のブーイングは凄かった。
当の樹は、着地がラインオーバーになるのと、衣装による減点があるだろうと想定していたので、そういう結果でも何ら落ち込む事もなく、もう少しスカート短くしてチラ見せ増やした方が良いかなとか、胸の揺れがイマイチだったとかそんな事を考えていた。
真弓の時と同じで、競技終了後、控室に戻る途中で、僕の所にもインタビュアーさんが来た。まあ、適当に答えておきましょう。
「凄い演技だったけど、結果は残念でしたね」
「まあそうですね、もう少し良い感じになると思っていたんですが……お姉さん、もう少しSキューブのスカート短くした方が、チラ見せが増えて良くなったと思いませんか? 観客の意見も聞いて置きたくて。どうでしょう?」
「えーっと、そうですね……」
「やっぱそうですよね、次はもう少し衣装を考えます。それと胸の揺れがもう少しあった方が良いと思いませんか?」
「胸ですか?」
「そう、胸です。ちょっと揺れが弱かったんですよね、シリコン入れて作ったんですが、大きくすると見た目のバランスが悪くなるし……あっお姉さん小さいから判らないですよねすいません。ちゃんと揺れる大きいお姉さんと代わってもらえます? やっぱ実体験が有る方に聞いておきたいんで」
そう言ってたら、走ってきた母に頭を殴られた。お母様かなり痛いです、グーは止めて下さい。
「バカ! 樹、そんな本当の事言ったらこの貧乳のお姉さんに失礼でしょ。貧乳のお姉さんに謝りなさい」
お母様、貴方の方が非道いこと言ってると思いますよ。僕は貧乳とは言っていない。
「ごめんなさい、胸が小さいお姉さん。それでは失礼します」
「わ、わ私は貧乳じゃない、普通にあるわ!」
この様子が、大型モニタに映されていて、観客は爆笑していた。とりあえず、変な質問は回避できたかな、良かった。
この後午前中は、他の競技をちょっと見て回る予定、お昼位に皆と待ち合わせして昼食後、真弓のダンスを見る予定だが真弓はもしかしたら入賞するかもしれないので表彰式が終わる最後まで今日は帰れないだろうな。
自分の競技が終わったので帰るまで、控室でSキューブを預かって貰い、他の競技を観ておこうと思って控室から出ると、Toy Dreams社の開発と営業担当者が待っていた。
「樹くん、Toy Dreams社の者なんだけど、少し時間を頂きたいのだが、良いだろうか?」
「なんとなく想像出来るのでお断りします。親も居ない所では、何の会話も出来ませんよ」
「まあ、その辺は良く判って居るよ。じゃあ軽くね。我が社の新製品のSキューブは、リアルに揺れるんですよ。それだけ伝えておきたくてね。それじゃあ失礼」
なんですと? リアルに揺れる? どこが? ……物凄く知りたい!
「すいません、僕がTD社の事を良く判っていない様でした申し訳ありません、詳しく聞かせて頂きますか」
「やはり、貴方はこちら側の感性を持っている方のようだ、是非話を聞いてください。あちらに弊社の控室が有りますので」
TD社の事は、雑誌|(ダウンロードする電子本)とかの評価を読む限りでは、まず良いコメントが見られない。一般論の大多数の意見として開発環境が未だ洗練されていない事が大きな理由である。自分も同様な意見で全くと言って良い程、眼中に無かったメーカーだった。新製品が出る度に必要な機能と性能は着目していたが他社を超えているとは思えなかった。実を言えば公表スペックが劣っているのは、あまり気にしていなかったが、開発ツールが使い難そうであると言うのはかなりマイナス評価に値していた。
Sキューブの使用者の比率は、男7に対し女3と言った所だ。大多数の男子はスペックを重視する傾向にある。記載機能の性能が良いとかを男子はどうしても観てしまいがちになってる。そう言う面でもToy Dreams社の製品は人気が無い理由でもあった。
良くいう友達同士で、あっちは性能低いじゃん。この機能付いてないじゃんって言う会話。本当は全然機能の全てを使いこなせないのにね……まああんまり人の事を言えないんだけど。
控室に案内されて開発担当の木蔦さんと、営業担当の泡吹さんから名刺を頂いた。
今回Toy Dreams社が持って来て見せてくれた製品のスペックを見ると、やはり他社と較べて見劣りしてしまう。大体2年遅れ位に感じる。普通のユーザーは、これではダメだと言う判断をするだろうと言った所。だが、先ほど木蔦さんに言われたセリフが非常に気になっているのも事実であり、現在Toy Dreams社の控室にお邪魔している。スペックなんてどうでも良いから早く揺れを説明してよ! そんな気分であった。
開発担当の木蔦さんがいろいろ説明してくれている。
「スペックは今見て貰った通りです。これだけだと未だ劣っているのは私達も認識しています」
まあそうだよね。良くこれで新製品って良く言えるよなぁ……開発能力低いのか?
「で、もう一枚のスペックを見てください。見ながら説明しますね。先ず、聴覚センサですが、左右2ヶ所に配置しました。他メーカーはまだ口の部分にマイク/スピーカー兼用で搭載しているのを我が社は独立化しました。次に、スピーカは、喉に配置しています。音質もアップさせています。目についてですが、見た目は以前とは変わっていません。瞳を動かす事も出来ますソフトを上手く作り込めればですが、それと瞬きさせることも可能です。それも片方ずつです。口に関しても、閉じて開くことが可能です。さらに、口の動きは五十音で若干異なる動きになるようにしています。上手くソフトを作れば完全に喋っている様に見せることが出来ます」
凄いな、この追加された機能は……この聴覚センサだともしかして音に因る物体の距離感と方向が判定出来るんじゃないか?
「ボディーにも拘っていますPO社程では有りませんが負けてはいないと思っています。先程言った揺れですが、濃度というか密度を変えたシリコンでかなり良い感じで揺れます。当然この製品に男性型は有りませんし作る気も有りません。開発者の拘りです」
そうだったのか、Sキューブの胸の揺れは密度が関係してるんだ……もっと詳しく知りたいなぁ。
「素晴らしいですね、正直TD社は、今迄眼中に無かったのですが見直しました。自分で欲しくなって来ました。販売価格は結構高くなるんでしょうね」
営業担当の泡吹さんが答えてくれた。
「はい、かなり高価になります。今売れているCC社の二倍程度の価格になる予定です」
「それは高いですね。でもこの価値が判る人には売れるでしょうね」
「そう言って頂ければ私達も自信に繋がります」
そろそろ良いかな? 良いよね。長々と時間潰すのも勿体無いしね。
「それで、新製品の仕様説明だけで僕を此処に呼んだんでは無いのでしょう? 本題に入りませんか?」
「はい、そうしましょうか時間が勿体無いですので。ですが少々お待ち下さい」
なんかあるのか?
「これが新製品です。プロトでは無く量産タイプになります」
Sキューブ用の専用ケースから本体を出して見せてくれた。見せてもらったSキューブを見て衝撃を受けた。マジすげー。
「まだソフトがまともに入ってないので、軽くしか動かせられませんが…」
そう言って、コントローラで歩かせて見せてくれた。
うん中々良いんじゃない。特に胸が……歩いているだけでプルプルしてるし。タートルネックのセーター着せて歩かせたい!
「では、少し駆け足モードで」
少し駆け足をさせて見せて貰ったところで、驚愕した。完璧に理想状態のSキューブが目の前で動いていた。プルプルから、少し派手にプルンプルンと揺れる。これがもっと巨乳だとユサユサ、ブルンブルンになる所。絶妙で見事なバランスですハイ。参りましたTD社様。
「素晴らしいです。もうマジで凄いですホント」
「判って頂けましたか?」
「ええ、もう十分判りました。スペックなんてどうでも良いですね。このSキューブであれば。これは凄く売れると思いますよ」
「まあ、そう言って頂けるのは嬉しいんですが、残念ながらこのままでは売れないでしょうね」
「なんでですか? 絶対売れますよ僕もお金があれば購入しますよ」
「まあ、このままだと何時もの様に雑誌の評価は、スペックが二年遅れてるとか、不要な機能が沢山だとか、開発環境がチープだとか、これだと大会出ても勝てないとかでしょうね。そうなるとダメなんですよ。まあ一部のコアなユーザーは居るので、ある程度は売れるとは思いますがね」
そっか……やっぱスペック重視するもんね。でも実物みれば考え変わると思うけどな。
「そこで、相談なんですが…」
ついに来たか、断るしか無いよね。ガキの口約束がそんなに効力があるとは思わないけど。
「二週間後に弊社主催の大会が有るのはご存知でしょうが、その大会にこのSキューブで出場してもらいたいんですよ。選手で出場では無く、まだ未発表製品なのでデモ演舞を実演して頂ければと……」
「そういう話は、ちょっと親がいないと約束できないかな……お金に絡みそうだから」
「うちとしては、今日実演した演技をこのSキューブに組み込んで欲しいんです。異なるメーカー間なので仕様が違って移植は簡単には行かないでしょうが……完成した制御ソフトに関しては提供不要です。当然ながらこのSキューブの返却も不要です。あと重要なのは、今日と同様にうちがスポンサーしているアニメの衣装を着せて欲しい事、後はビデオを撮らせて頂いてそれの商用利用許可位ですね。いかがでしょうか?」
その位なら良いような気がする……父さんにも怒られないよね……怒られないと良いなぁ。
「えっと、ビデオに関しては別途なのかな? よく判んないけどなんか問題有りそうだから、親と相談させてください。それ以外なら僕は良いよ」
「判りました、ビデオに関しては別途契約書にして、ご両親と相談させて頂くと言う事で宜しいでしょうか?」
「それなら、多分大丈夫だと思う。別にお金儲けしたい訳じゃないから単に問題にならなければ良いんです」
「ありがとう御座います」
「やった、これで売れる可能性が出てきた」
泡吹さんが喜んでる。僕が動かしてもそんな簡単には行かないんじゃないの、売れなくても僕のせいじゃ無いからね。
「えっと、僕がデモしなくても良いんじゃ無いのですか? メーカーの方がソフト開発優秀なんじゃ?」
「答えはNoです。私達は細かい所まで把握していますし、動作させる事は出来ます。でも大体は全ての機能が問題なく動作する事を確認する程度の実機評価ですので、樹くんのように、洗練された動作をさせるのは殆ど出来ません。それに私達は動作ソフトの開発も多少はしますが、基本は本体を作って販売する事でお金を稼いでいるんです。他にやる業務も有りますので、圧倒的にユーザー様の方がノウハウを蓄積しているんです」
そうなのか。大人の世界は良く判んないや。
「はあ、まあ良く判りませんが、頑張って移植してインストールしますね。一応本当に間に合うかどうかは判らないので一週間後には間に合うか連絡します。まあ夏休みの宿題は殆ど終わってるんで時間は有りますから大丈夫だと思いますが、未だTD社のツール使ったこと無いんですよね」
「よろしくお願いします。これ今日持って帰っても良いのですがどうします? 此処でユーザー登録と未成年ですので保護者の登録が必要になりますけど」
「自分のも有るんで届けて頂ければと思います。開発ツールだけは持って帰りたいと思います。あと確認なんですがボイスデータは有りますか?」
「はい、開発ツールとは別に用意してあります。アニメの声優さんに頼んだものなので無くされると困りますので注意願います」
「サーバーが有ればそこからダウンロードしますけど」
「流石に、こう言ったものを外部アクセス可能な所にアップ出来ませんのでメディアでお渡しします。Sキューブに同梱して送付します。合わせて別途セキュリティコードを連絡します」
「判りました」
TD社の控室を後にして、昼食の待ち合わせ場所に行き、真弓の両親と一緒に、お互いの家族でそれぞれの母親手作りのお弁当を食べる事に。何処も混雑してるんだけど、僕も真弓も選手で来ているので、控室の側の休憩所で昼食を摂った。
真弓くん。キミももう小学3年生なんだから、僕にあーん攻撃するのは止めなさい。キミのお父様の視線が怖いからね。ちょっと緊張しながらの昼食になってしまった。真弓のお父様には、多分さっきの貧乳の件で僕が変態だと思われてるんだと思うけど……でも胸は重要だよね。
さて、当の真弓は、昨日よりは緊張してないようだ。にへら〜として何が嬉しいのか良く判らんがまあ良いだろう。先程と逆で真弓の両親を控室に残して僕達は観客席に行った。
一応先程のTD社との事を父に言っておいた。たぶん金銭的な事にはならないと思うけど。お金貰うと、その分ちゃんとした結果を出さないといけないからね。商用利用許可についてと問題発生時にTD社が責任を持つって所を明確化しておくんだと思う。
ダンスの演技順番は予選の順位が低い順で始まり予選免除組は抽選で順番が決まっている。真弓は予選トップなので、大体一時間位後になる予定だ。
真弓の演技が始まるまで、先ほどのTD社のSキューブについて考えてみる。スペックは確かに二年前レベルでは有るが実はあまり問題無いと思っている。持ってる性能を全て出し切っていると思われる開発者は見たこと無いし、ウィザード級のソフト開発者でも性能を出しきってはいないだろうから、そのスペック上の性能差は今のところ制御ソフトでカバー出来ると思っている。事実、僕は6年前のモデルで競技に挑んでる。まあ子供なので、そんな最新型なんて買えないのも理由だけど。
それよりも、いろんな事の出来る可能性が広がった。木蔦さんを含めTD社の開発担当は相当機能に拘っているはず。わざわざ、聴覚センサを分けてきてるのは、たぶん音楽に合わせて歌えるようにしていると思われるし、口を動かすのはよりリアルに喋ってるように見せる為だと思う。
説明には無かったが、たぶん視覚センサもディスプレイに映すだけじゃ無く、視覚認識機能も使えるはず。漸くVC社、PO社に並んで来たと言う所だ。だが他の機能が充実している。こうなると、見て聴いて判断して、行動する機能が実現出来ると思える。
単にプログラムして動作させる事に最近飽きて来ていた樹は、このTD社のSキューブであれば、興味が有ったが、今のSキューブでは参加するつもりが無かったバトルの競技に、コントローラー無しでバトルさせる事が出来ると思ってきた。
今日披露したのも、真弓をサポートしたのも含めて、自分がやってる事は時間をかければ誰でも出来る事だと思っているし、自分が作ったAPIモジュールをリリースすれば、多数のユーザーが、今よりもより高度な動作をプログラミングする事が可能だと思っている。だがTD社のSキューブならば、誰にも真似出来ない、または真似されても、さらなる工夫でより高度な事が出来そうな気がして来た。具体的に何をはまだイメージすら無く明確になって無いが可能性が広がって来ていると感じた。
考えてるうちに、時間になったようだ。真弓の衣装は昨日と違ってSキューブとお揃いで気合が入っている。真弓には優勝出来ないかもしれないと言う事は、ちゃんと伝えてあるから平気だと思う。審査員がまともなら確実に優勝すると思うんだけど、たぶんダメかな……。
ダンスのルールは人間と一緒に踊って、踊りの完成度を競う採点競技。という規定である。人間だけ高度なダンス技を披露しても意味が無く、Sキューブの方のダンスレベルも合わせる必要が有る。だからと言って何処にもシンクロして同じ踊りを踊らなければならないとは記載は無い。だが今迄の参加選手は皆シンクロして人間とSキューブが同じダンスを踊っている。だから、たぶんこの大会の審査員はそれをしない場合は減点対象にするんだろう。そもそもの大会の趣旨はSキューブの制御の完成度を第一の審査要因にしてるはずなんだけどな。
そう思ってる間に音楽が流れ初め、真弓のダンスがスタートした。シンクロしているロックダンスから始まった。この辺りならば他の選手も変わらない、変化が有るのはこの先。お互いのムーンウォークで左右位置が入れ替わる、観客が驚いている。
そりゃそうだろう、ムーンウォークなんて、シンクロで見たこと無いしSキューブをバランスさせるのだって難しい簡単にプログラミング出来る物じゃない。真弓が自分で作って、喜んで僕に見せに来た技だ。僕も正直驚いた。素直に凄いと思った。まあちょっとだけアレンジをこっそり加えておいたけどね。床によって滑り方が変わるからその辺を自動で調整するようにね。
左右が入れ替わった後お互いミラーの動作で踊り始める。この後、最大の目玉ブレイクダンスのマックスと言う技。片手倒立で足を開脚してピタっと止まる。真弓もSキューブも、タイミングぴったしで成功だ。観客が盛り上げってる。人間の体操だと片手倒立は反則技だから、僕もあえてSキューブにもプログラミングしてはいない。倒立してバランスを取るのは腕と手のひらと指で行っているんだから、それも片手で。これはホントに呆れた。動作を見た時に修正不要と判断したので何も触っていない。真弓のソフト開発能力は圧倒的だ、教えればあっと言う間に僕を超えて行く感じがする。
この後一旦シンクロして踊り、エアロビの腕立てを真弓が始める。Sキューブが真弓の背中に乗り同じく腕立てをする。片手腕立の時に観客に向かって敬礼するお茶目さも披露して、最後は決めポーズで終わった。
一応内容は知っていたが、思わずスタンディングオベーションをした。他の観客も同様で音が凄かった。それだけ皆が興奮したのだろう。
採点結果は予想通りだった。現時点では一位だが、明らかに低い点数だった。観客からのブーイングも凄く次の演技がなかなか開始されなかったと言うか中断した。少しすることを思いついたので観客席を離れ、先ほどお邪魔したTD社の控室に向かった。まあ、後で真弓を慰めないとな。あんまり気にしてないと思うけどね。
それにしても審査員は馬鹿な事をしているな、たぶんネットでも凄く話題になるだろうな、CC社はどうするのか? 僕と違って真弓の演技に減点ポイントが有るとしたら、ムーンウォークの向きが逆になっていた事、腕立てに移行する所くらいだろう。それでもSキューブの移動を華麗に動作させていたのと、真弓の背中に見事に乗せる制御は素晴らしい。あれが一気通貫の制御ソフトっていうのが非常識に思える。どんだけ精密に位置決めして踊っているんだ真弓は? それだけの制御をしていて加点要素が沢山あるのにあの点数ではね本当に観客も納得出来ないだろう。
TD社の控室のドアをノックすると、幸い2人とも控室に居てくれたので、すんなりと入れてもらう事が出来た。
「すいませんお仕事中に御邪魔して」
「特に問題ないよ、今日は此処にいることが仕事みたいなもんだしね。何かさっきの件で重要事でも?」
「一応、父にも伝えました。まあ大丈夫だと思いますよ」
「それは良かった」
「相談が有るんですけど……聞いてもらえますか?」
「普通そういう風に言ってくる人に、断れる人はいないよ。聞くだけになるかもしれないけどね」
「先程の、ダンス見ましたか?」
「ああ、ここのモニターで見てたよ、凄いパフォーマンスだったね」
「あの演技をTD社の大会でやったらどうなりますか?」
「まあ、他の演技者次第だけど、今迄のレベルから判断すれば間違いなく優勝するだろうね」
「では、演技の点数については?」
「なんともねぇ……予測だけどCC社は、機械で判定してるんじゃ無いかな? 得意だしねそういうの。だからシンクロしてる率で判定してるんじゃないかな、後はダンスの難易度も自動でね。だとすれば実質シンクロは最初と途中だけだからこの点数にもなると思うよ。ミラーシンクロなんて想定外だろうし。難易度の加点はあると思うけどね。まあCC社をフォローするつもりは無いけど、企業としての言い訳をするとさ、こういう大会でも人を配置すると、結構なお金が必要になるんだ人件費って言うのが。だからCC社は、得意なロボットを審査員に導入しているんだと思うよ。いままでそれで業績伸ばして来てるんだしね」
そうだったのか、道理でおかしいと思った。ということは、TD社は人が判定してるんだろう。採点ソフトを開発出来ていないだけかもしれないが。インタビューも若しかしたら、難易度を審査ロボットにフィードバックする為にしているのかもしれないな。
「それで、相談なんですが、真弓……えっとさっきの演技者なんですが、TD社の大会に出場させて貰えませんか? ワイルドカードで」
「まあ、それくらいは可能だけど。キミの頼みであればね、でも貸し一つになるよ」
「まあそうですね、それでですね、出来れば一世代前のSキューブ〝真凛〟も借りたいんですが……それに彼女のソフトインストールして、大会に出てもらおうかなって思いまして、どうでしょう?」
「貸しは、無しで良いよ。こっちの借り一つでね。うちのメリットの方が有りそうだ」
「ただ衣装は、今日のままになると思いますけど……」
「大丈夫、任せてくれ。ちゃんと、真弓ちゃんだっけ? の衣装も用意する。でも間に合うのか? 移植作業は?」
「真弓も、ソフト開発は凄腕ですよ」
まあ移植はついでだから僕がやると思うけどね。
「判った、よろしくお願いする」
「はい任されました。これから真弓に相談しないとですが。ちゃんと出場させますので」
横で話を聞いてた木蔦さんが
「おい、やったな、我が社の初優勝が見れるぞ。これで他社に劣ってるって言われなくなるぞ」
「そうですね、先走ってはいけないですが、樹くんと知り合ったことで運が向いてきた感じですね」
「真弓のパフォーマンスを商用利用する場合は、真弓の親に話をして下さいね」
「うん判ってる」
「真弓の分も含めてSキューブは僕の所に送ってください」
木蔦さんがちょっと待ってと言ってきた。
「真弓ちゃん、優勝したみたいだよ」
「へっ?」
どういうこと、なんで? 未だ競技終わる時間じゃ無いよね? 思わず間抜けな声をだしてしまった。
「あの後の、予選免除組の選手全員棄権だってさ」
泡吹さんが言って来た。マジ?
「うわーCC社この始末どうする気だろう、まあ真弓ちゃんの優勝に文句は出ないと思うけど」
「なんで棄権したんですかね?」
僕が素直に思った事を口にした。
「たぶん、理由はいくつかあると思う。あのパフォーマンスの後演技したくない、採点に疑問を感じた。仮に演技して自分の採点が高い場合に困ってしまうから。こんな感じじゃ無いかな」
「そうか……そうですね、あの演技より高い点数がでたら恐怖ですよね僕も耐えられないなその状況は」
「ただこの方が結果的には良かったはずだよ。ちゃんと実力者が優勝してるから、これはCC社も棄権した選手に感謝しないといけないだろうね」
「そうですね。じゃあ、僕はこの辺で失礼します。真弓達を待たせる訳にもいきませんので」
そう言ってから、控室を出て、再びダンスの会場へ向かった。ちょうど、ダンスの表彰式が始まる所で、真弓の他3人が控えていた。あの選手達も、複雑なんだろうな、本来なら表彰台にも上がれないはずなのに。CC社ももう少し考えれば良いのに、なんでもかんでもロボットに任せようとするから……。
表彰式では、真弓も複雑な顔をしてたが、パフォーマンスは圧倒的なので恥じる事は無い。それより、表彰後のインタビューだ。
「優勝おめでとうございます」
「ありがとう御座います」
「すごい演技でしたね、どういう風に作ったんですか?」
「お魚は左に頭が来る様にして、ご飯が左で味噌汁が右なんです、大阪はちょっと違うので不思議です。外国人が多いのかも知れません。でも日本の文化はそうなってるんです」
おっ……何言ってんだ真弓、疲れて壊れたのか頭?
「それがマナーなんですよ。だからそういうのは聞いちゃいけないんですよ。マナー違反になります、知らないんですか?」
「……申し訳ありません。不注意でした」
「肘を付いて食べるのもいけません。顔を箸に近づけるのでは無く箸を口に持って行くんですよ。犬食いは駄目です。それが日本のテーブルマナーなんです。食べやすいからって配置を替えるのは文化を無視する行為ですマナー無視ダメ絶対」
「そうですね……どうも有難う御座いました」
そうなのか……僕もマナー知らなかったよ。確かに家でもご飯は左にあるな。魚の頭は左向きだし……勉強になったよ。僕も肘は付いて食べないな、父さんに見られたらゲンコツが飛んで来るからね。
真弓の表彰式も終わって帰宅した。優勝した真弓は副賞としてCC社の最新型のSキューブを一体貰っていた。夜叉丸|(男性モデル)戦姫|(女性モデル)のうち戦姫を選んだようだ。ただし後日送付だけどね。ちょっと羨ましい。届いて来たら少し貸してもらおう。帰る途中で真弓に話をして明日家に来てもらう予約はしておいたた。だし未だTD社の件は話していない。
帰宅して、夕食前にリビングでTVを見ていると、今日の大会の様子がニュースになっていた。僕の演技と、真弓の演技が放映されていて、小学生が制御ソフトを作ったと説明して、優秀な子供達がSキューブ大会を盛り上げていると無難な説明で終わっていた。普通はその小学生のコメントも放映されると思うんだけど完全に二人共カットされている。まあ胸の揺れを語る小学生を出したら放送事故だし、食事のマナーを説明してたら大会と関係無くなるから放送出来ないだろうけどね。
夕食後、早速TD社の開発環境をPCにインストールして作業を着手し始めた。UIは異なるがやってる事は同じ。細かい所に手が届くかどうかが結構重要。渡されたマニュアルでは裏ワザ的なモードは特に記載が無いので、製品版と同等のマニュアルなんだろう。
一応、他メーカのソースを変換するGUIベースのツールは入っているので、まずは、それで一括コンバートを実行してみる。一応エラー無しでコンバート出来たが、エミュレータで動作確認すると、まともに動作してくれていない状態だった。
やばいです。結構簡単に行くと思ってナメてました。
真弓のもこの状態になると、明日朝までって言うのは時間的に厳しいかもしれないな。とりあえず、どこがおかしいか、可動部毎モジュール単位のコンバートに変更して、エミュレータ動作させると、だいたいの場所が特定できた。当初から想定していた、直接変数書き換えしている部分が軒並みNGだったようだ。
一旦CC社の直接書き換えした部分のソースを元の状態に戻して、一括コンバート後個別にチューニングしていくアプローチをとって行く事にした。なんとか日付を跨ぐ前には、エミュレータ上では同一の動きになるようには仕上げることが出来た。
真弓のソースは、僕の程書き換え場所が多い訳ではないので、そう時間も掛からずエミュレータ上では動作するように仕上げることが出来た。既に今日だが、未だ真弓に相談もして無いので真弓を説得して、たぶん今日にはTD社のSキューブが届くはずだから、今日中には実機確認まで終わらせておきたい所だな。
流石に小学生には日付を超えるとかなり眠くなります。お休みなさい。バタンキュー。
深夜に寝ても、きっちりと母に叩き起こされ、朝食を摂って、両親の出勤を見送った後、真弓がやって来た。
昨日のTD社の方達と会話した内容を伝えると、無条件で了承してくれた。とりあえず一安心である。
真弓に、CC社から貰う予定のSキューブ〝戦姫〟をどうするのか聞いたけど、今のところは余り考えて居ないとのこと。欲しいって聞かれたけど、今後CC社の制御ソフトを開発するつもりが無くなって来ているので不要と言っておいた。だってTD社のSキューブが貰えたんだからね。でもちょっと使わしてねとも言っておきました。真弓の方は新しい方が性能が高いので、使い道は沢山あると思う。流石に僕と同じモデルは古すぎるから。まあいざとなったら、手順は面倒だけど中古に流しちゃえば良いしね。
午前中は既にコンバート済のエミュレータを見せて、何か動作を変える所が有れば変更しようとしたが、このままで今回は良いと言ってくれた。TD社の大会で優勝すれば、TD社の僕がデモで使うのと同じ最新型が貰えるはずで、それだともっと良い演技が出来る事を教えた。なんてったってセンサが優秀だから、苦労したはずの背中に乗る動作も、視覚センサで距離を図って動作させれば、多少位置がずれても補正可能になるし、音声認識で起動が出来るだろう。そう説明したら、TD社のSキューブに興味を持ち始めた。
昼食は、真弓がサンドイッチを作って持って来てくれたのを食べた。とっても美味しいです。
午後になって少しまったりしていると、家の呼び鈴が鳴り宅配便が届いた。約束していたTD社からのSキューブだ。僕用のSキューブ〝花梨〟一体、真弓用〝真凛〟一体と、真弓が着る衣装。早速〝真凛〟に制御ソフトをインストールして、庭に出て踊らせてみた。
「……樹くん、なんか変じゃない? 転んでるけど…」
「うん変だね、なんでだろ? エミュレータは上手く動いてたんだけど、ここまで差分が有るのかな?」
「でも、足回りじゃないかな? なんか動き難そうだし」
「そうだね、調べて見るよ」
「じゃあ、お願い。私もあの真凛ちゃんが着ているのと同じ可愛い衣装着るんだよね」
「うん、届いてるから着てみる?」
「うん着てみる」
なんで真弓のサイズが判ったんだろう? って言うか衣装出来るの早すぎのような……徹夜とかしたんじゃないかな? TD社って結構ブラックなのかも知れない。まあそっちは僕の知らない大人の世界なんだろう。取り敢えず、実機は後ほど調査する事にして、真弓の衣装合わせを済ませることにした。真弓に僕の部屋で着替えて貰って、リビングで待ってると、だだだっと階段を降りて来た。
「樹くん、私これだと上手く踊れないよ」
「ん?なんで何か問題?」
「だって、こんな踵が高いブーツだと無理! それにこれでマックスしたら恥ずかしいよ」
「えっとスパッツ穿いてそれでなんとか我慢してってダメかな?」
「うーん、マックスはバク転に変えて着地でポーズ決めに変えるとかだとダメかな? 変更禁止じゃ無いよね?」
「うーん……そうだな、その方が綺麗かな。回転蹴りみたいに見えるから。真弓ちゃん頼める? ソフトも合わせて」
「良いよ、なんとかする。ブーツは、踊れるように頑張って見るわ。それでね思ったんだけど多分Sキューブもブーツのせいで転んでると思うわ」
「あっそっかぁコンバートを特急でやったからな、そこまで意識行ってなかったよ。エミュレータはまだ裸足だもんね。貰った環境にエミュレータ用のブーツのデータなんて有ったかな? スニーカーは有るけど。無ければ作るか……」
「樹くん、ブーツのデータ作れるの?」
「作れるよ。だって無いとエミュレータでのデバッグと実機が全然合わないでしょ。今回の僕のも見た目が近いスニーカを着色してそれっぽく見せてるけどメーカ物じゃないからデータは自分で作ったよ。衣装もデータが必要だよ。似たようなの着せてれば大体は平気だけど、僕が今回やった体操だと衣装のデータは重要になってくるね。だいたいメーカ物ならエミュレータ用のデータもセットで付いて来るんだけどね。TD社に有るかどうか確認してみるね」
直ぐに名刺に書いてあったTD社の開発担当の木蔦さんにメールを出してみた。残念ながら、ブーツのデータは無いとの事、衣装は以前のデータが使える筈らしい。
さあて難易度が、上がってきたぞ! でもこれは自分のミスだ、ちゃんと確認していなかったのが悪いな!
真弓にTD社の開発ツールの使い方を教え、ブーツに関しては明日までになんとかすると言って、今日は解散した。と言うことは自分の方も同じ問題が有りそうだな、衣装は僕のデータがそのまま使えるかもしれないので、重さとスカートの長さ袖口の広がりをチェックしておこう。これが使えれば、真弓のも同じで大丈夫。問題はブーツか……足の指の制御が上手く行くのかどうかだな。あとブーツであれだけの跳躍が出来るか? もう一段回チューニングが必要になるかもしれない。真弓の方もブーツでムーンウォークが出来るか確認して置かないと。
真弓が言ってたバク転は、真弓に任せる事で話を付けたので。明日にはなんとかしてくると思う、よし頑張ろう。でも徹夜はしないようにね。
ブーツデータ作成の為に緊急で簡単に歩くジャンプするプログラムを作成し、ブーツを履かせた状態と、裸足の状態での差分を確認し裸足に対する補正値を求めていく。何度もジャンプする高さ、歩くスピードを変えて。
ブーツを履かせると足首の可動範囲が狭まるので、そのパラメータも。靴底の滑り具合も調査したが、これは場所で変わるので競技前にキャリブレーションして本体側に持たせることにした。
一通りデータが出来た所で、エミュレータでブーツデータを組み込んだ状態と、実機状態を確認し、再度チューニングしてほぼ完成させる。後は制御ソフト内に微調整を組み込んで行くようにすることにした。衣装データは、メーカーのでは無く自分のデータを修正して採用した。理由は取り敢えず感なデータであった為、演技に使えそうも無かったから。足指の制御は、今迄よりもより大きい力で制御する必要があったので、ブーツのデータに負荷として組み込んだ。ムーンウォークもエミュレータではブーツデータを組み込んで動作したので、特に変更はしなかった。
真弓の方は、ダンスが仕上がる迄は、最後までチューンングが必要だろう。だが、自分の方は、微調整位でほぼ完了に近い所まで仕上がったので、頭の中で計画している事に着手しようと思う。せっかくの、新製品であり、新機能が入っているので、それを全てデモしてやろうと考えていた。明日、TD社に連絡してOKが出たら一気に作りこんで行こう。
これだけやったら、深夜になっていた。今日はお終いにしてまた明日。お休みなさい。
よろしくお願いします。