(1-11)貴方達何者?
◇貴方達何者ですか
食事後真弓は、他の演技者の様子が気になる様なので、一緒にダンスの会場に向かった。未だ、八人の演技者を残しているが、予選免除の決勝進出者は皆実力者だ。真弓の様にダンスとSキューブプログラミング両方をハイレベルでこなす人は少ないので、僕自信は余り心配していない。真弓は、前回演技の披露の後に実力者の演技を見れていないので少し不安なのだろう。
ここで、演技を見ていれば必然的に、表彰式前の僕のデモが行われるから丁度いいだろう。
ダンスの演技は、かなり上手い演技の人が出てくるが、素人目の僕でもはっきりと、真弓の演技には至っていないと判る。点数も未だかなり離れている。パネルに表示されているトップは依然真弓だ。だが演技者は皆笑顔だ、自分の演技に満足しているのだろう。前回競技に参加していない人もいるのだから。
ダンス出場競技者の全ての演技が終わった。優勝は真弓だ。二位との間に圧倒的な点数差がある。真弓よりダンスが上手い人がエントリーしてSキューブのプログラミングが出来ない限り当分はこの差が埋まる事は無いだろう。暫くは真弓の無双が続きそうだ。
観ていて、正直羨ましくなって来た。僕は未だタイトルを取っていないし、自分の方が上手くプログラムを作れていると勝手に思っているだけで、公式に評価されている訳では無い。来年の大会は、本気で、タイトルを目指そうと思ってきた。ルールを無視せずにきちっと、チラっ、揺れ、萌えを表現しよう。横にいる真弓に声をかけた。
「真弓ちゃん、優勝おめでとう」
おっ。久しぶりに見た真弓の、にへら〜とした嬉しそうな顔。
「ん、有難う」
小声で、『僕のことはバラさないでね』と伝えると『うん、判ってるよ』と言ってくれた。まあ心配はしてないけど。
『続きまして、〝悪魔の樹〟デーモン・ツリーさんが作成した、デモ演技を三つ披露します』
司会のお姉さんのアナウンスが有り昨日とは違う学生風のアルバイトさんが、出てきて先ず花梨をセットした。三会場で同時に進行しているから、本人では無いと皆気付いているだろう。でも三人のうち誰かが当たりなのかもと疑って見ている。
『今日は、これ見る為だけに来たんだ、昨日WEBで観てさ』
『おれも、観てから予約するか決めようと思ってね』
『入荷まで凄い時間かかりそうだぞ。良いのか?』
『その位我慢するさ。下手したら店頭販売、半年位先になるかもしれないだろ。初回出荷一,〇〇〇体だぞ。今日予約すれば少なくとも店頭予約者より早く入手出来るだろうからな』
『そうか、それもそうだな今日支払う訳じゃないし、バイトで貯めておけば間に合うか……俺も観てから予約するか決めよう』
音楽が鳴り始め、最初の花梨の演技が始まる。今日始めて見た観客が、どよめきはじめる。僕は二回目だけど、改善の余地があるなぁと思って来ている。来年に向けて良く観ておく。
『綺麗にバク宙するね、私のCC社の時よりも格段に洗練されてるね』
そうなのか? この辺は、詳しく無いから綺麗に見えるようにしただけ何だが。真弓の目の方が信頼出来るな。
『なんて言うのかな、ボディーのラインと回転の弧が一致してるって感じ』
なるほどそう言う事か、それは気が付かなかった。実際そんな飛び方にはなっていないが言ってるイメージは伝わる。
演技が終わって、観客からの拍手が凄い。真弓も一生懸命拍手している。自分だけしないのも変なので僕も拍手した。アルバイトさん2人が出てきて、マイクを持った花梨と胡桃をセットし、演技が終わった花梨を回収していく。
そのまま、ファーストシーズンエンディングの音楽が流れ始めた。後ろの方で、声が上がる。貴方達何者ですか? なんでケミカル・ライト持ってるの?
オカシイよね、絶対。アイドルのコンサートじゃ無いんですよコレ、単なる新製品のデモですよ。何考えてるんですか? そうは言っても、かなり盛り上がった。もしかして、サクラ? アルバイト?
曲が終わって拍手と歓声が上がる。こうなると、花梨も、胡桃も手を振って応えるようになってるから、観ている客は更にもりあがる。一旦、脇の方に移動した後で、セカンドシーズンエンディングが続けて流される。
またもや、後ろで、だみ声が聞こえる。『ヨッシャ行くぞー! …… ジャージャー!』声優ファンなのかな? でも『超絶可愛い花梨!』ってどっから湧いてきたんだ? コレ、他のホールも同じなのかな?
『樹くん、凄い人気だね、花梨ちゃんと胡桃ちゃん』
隣の真弓も驚いている。
『そ、そうだね。こんな凄くなると思って無かったよ』
演奏が終わっても拍手が凄かった、花梨達も向きを変えて何度もお辞儀をして手を振る。時間制限があるからそろそろ終わるけどね。花梨達の動きが止まった所で、アルバイトさんが回収して行く。さすがに、自動で裏に戻る機能は入れていない。場所も判らないしね。
花梨達のデモも終わったので、真弓の表彰式だ。今回は、真弓も笑顔でいる。2位、3位の人も笑顔でいる、何か会話している様だけど、僕には聞こえない。たぶん、褒めて貰ってるんだろう。にへら〜っとしてるから。
これで、TD社の製品も文句無しに、ダンス優勝モデルって言っても問題ない。でも大丈夫なのかな? 真弓の使ったモデルも売れちゃったら……僕が心配しても仕方ないけどね。
真弓の表彰式が、終わって、控室で預かって貰っていた、着替えとSキューブを持って、TD社のブースに行く。なんですかコレ、昨日より、凄くない? 物凄い行列が出来ていた。
「樹くんこれ何? なんでこんなに並んでるの?」
「えっと、多分さっきの新製品のデモ観た人達が、予約に来てるんだと思うな」
「凄く売れてるんだね」
「そうだね。桜さん、捕まえられるかな? 忙しいと思うけど」
TD社のブースに行くと直ぐに桜さんを見つける事が出来た。向こうも僕達に気付いたようで、裏の方へ案内してくれた。
「真弓ちゃん、お疲れ様」
桜さん、そこはご苦労様だと思いますよ。僕の視線で何か気付いたのか?
「お疲れ様で良いのよ、貴方達は私達TD社にとっても重要で大切な方達だから。樹くんも、この二週間お疲れ様でした」
まあ、少し、いや大分無茶したかな。でも楽しいかったしね。
「いえ、桜さんも、僕や真弓ちゃんに付き合って頂いて有難う御座います」
「全然平気よ私は、今はね明日からは恐怖だけど。それに会社に入ってこんなに充実して勉強になったのも初めてだしね、貴方達には感謝してるわ。多分、私達Sキューブ開発部の皆がそう思ってるわ」
「そう言って頂けると、嬉しいです」
「応接室に行きましょうか、もう少し時間もかかるし、今日は夕食も用意してあるって犬槇さんが言ってたわ」
「えっと、良いんですか?」
「ええ、貴方達のご両親にもちゃんと伝えてあるし、貴方達のご両親は青木社長と食事するようだから」
あっだから、今日は後から迎えに来るんだ。大人のお付き合いが有るんだろうな、元々知り合いらしいしね。桜さんに連れられて、一旦応接室に行った。応接室では、立柳さん、三椏さん、犬槇さんが居た。
何か真剣に話し合ってる様だ。油ちゃんは居なくて良いのかな? 部長だよねあの人。
こっちに気付いて話を止めて、皆さん柔和な表情になる。
「おっ、真弓ちゃん、今回は有難う。これでうちも、タイトルホルダーに漸くなれたよ」
立柳さんが嬉しそうに挨拶してくる。
「Sキューブが良いからですよ。ちょっと使い難いけど」
「それは、大変申し訳無い。早急に改善していくようにするから勘弁してください。なあ柊くん」
「はい、必ずユーザーが満足するように改善します」
「樹くんも、有難う。想定以上の予約が殺到しているよ。ホントに嬉しい悲鳴だ」
「どの位、予約者が来たんですか?」
「午前中の時点で、一〇,〇〇〇体を超えた位だったな」
犬槇さんが応えてくれた。桜さんが
「先程も、デモが終わった後で、凄い列が出来ましたから、トータルで、一二,〇〇〇体を超えると思います。営業の泡吹の話では、一世代前のモデルも売れて来ていると言っていました」
「販売店の方からも、一世代前のモデルの受注が来ていますが、元々在庫が殆ど無いので増産しないといけませんね。はぁ……ダブルパンチですな。大変嬉しいですがね」
三椏さんが、販売店の状況を教えてくれた。
「三椏くん、そちらは、この事態を事前と言っても二週間前に予測出来ていない私達の問題だ。樹くん達は、なんら問題無い」
「その通りですな、少なくとも、最初の当社でのデモの時に予測出来なかったのが、いけませんな反省です。二人共大変申し訳無い」
「いえ。お気になさらず」
「あっ」
真弓が何かに気付いた様に叫んできた。
「真弓ちゃんどうしたの?」
「えっと、このSキューブ返さないと」
「あっそうだね。丁度良いから、ここで返して置けば良いね」
「もし、使って頂けるならそのまま持ち帰って良いですよ。犬槇君平気だろ?」
立柳さんが、言ってくれた。
「ええ問題有りません。懸賞に当たった事にでもしておけば良いでしょう、ユーザ情報の解除も手間が掛かりますしね」
「良いの? 貰っちゃっても」
「ええ、良いですよ」
「やった、この娘気に入ったから」
「でも真弓ちゃんは優勝者ですから、新製品も発売日には届けますよ」
「うんでも、暫くはこの娘で良いかな」
真弓は使い倒すから新しいのは、暫くは放置になるのか? でも来年位には、使いはじめるだろう。
「この後は、犬槇君、柊くんと食事して帰って下さい、青木がお店を予約しているそうなので」
「はい、お言葉に甘えさせて頂きます」
その日の夜は、料亭? 割烹? 何か高そうなお店で食事をして、桜さんにタクシーで送って貰った。家は、誰もいないので、二人で部屋でアニメを見て待ってたけど、途中で真弓が眠ったので、ベッドに上げておいた。令法さん達が、僕の両親と大分遅くに帰って来て真弓を抱いて連れて帰って行った。
怒涛の二週間を過ごしました。でも充実してたかな。
よろしくお願いします。




