その4
大学から歩く事15分、俺たちは駅前に着いた。今日は飲んで帰るからランザークは大学に放置。
平日の夜の駅前はスーツ姿の疲れた顔をした人達でいっぱいだった。
そんな中俺たちは行きつけの居酒屋へと入っていく。
駅から徒歩数分、リーズナブルで美味しいお食事とお酒を提供してくれる。いわば庶民の味方のお店。授業が終わる時間が被ったりするとほとんど秋と一緒にこのお店に来る。
店員が席へと案内してくれて一息つく。大学から歩いてだと結構疲れるんだよね。
「ふぃー、疲れたー今日は俺のおごりだからなんでも頼めよ!」
そういうと秋はさっきまで意識が飛んでたかのようにはっとした。
「はっ..!いやあんたさっきお金ないって言ったじゃない。てか、そんな事より聞きたい事あるんだけどいい?」
「待て!聞きたい事って多分あれだろ?俺の予想と合ってると思うけど待ってくれ。まだ心の傷が癒えてないんだ。」
こいつも意外と好きな方だったからな、気になるんだろうな。
「傷?」
秋はキョトンとした顔で首をかしげる。
「今日のあのパチ屋全然出てなかったわ。平日に出さないでいつ出すんだよって話だよなー。」
俺は得意げに話した。こいつもパチンカスの端くれだから気になるんだろうな。
「聞きたい事はそれじゃないしどうでもいいわよ!そんな事!」
秋は机を強めにバンと叩いた。
どうでもいい!データを知って勝率を上げようとする事がどうでもいい!そんなのってないよ!
「じゃあなんだよ聞きたい事って……。」
そんなに秋が気になる事なんて一体なんだろ。
秋は少し言いづらそうな顔をした後ゆっくりと小さな声で話し出した。
「えっと……、その……、小鳥遊さんの件についてよ……。」
小鳥遊さん?あー、さっきできた彼女の事か。こいつそんな事気になるんだ。ま、あの短時間話しして戻ってきたら付き合ってましたってそりゃ気になるわな。話だけ聞いたらコントみたいだな。
「あー、そだな。お前にはちゃんと言っとくか。とりあえず飲みながら話すか。」
店員さんを呼び注文をする。レモンチューハイと生ビール、と後適当なツマミ。
最初の一杯は生ビールだ。あの疲れた体の五臓六腑に染み渡る感覚がたまらなく好きだ。まぁ、今日はあんまり疲れてないんだけど……。
飲み物が来て俺が乾杯をしようとグラスを出すと秋はぎこちなくコツンと乾杯を返す。
「とりあえず何から話そうか。喫煙所に行ってからの会話だよな、気になるのは。」
煙草に火をつけて話始める。俺も実際整理がついていないため事実確認をするように淡々とあの時の会話を思い出していく。
一つ一つ秋に説明をしていく。秋も最初は真剣に聞いていたが途中で、
「は?」
と、声を上げた。
持っていたグラスを静かに置きこめかみに手をやり何やら考えているようだ。
「どうした?なんかわからない事でもあったか?」
そこまで難しく説明したつもりはないけど。
考えがまとまったのか、ゆっくりと秋は口を開いた。
「えっと、お金要求したらお金くれたから付き合ったと?」
「そうそう。」
秋は溜息をついた。
「で、一応いくらもらったの?」
「2万円。」
「2万!」
と秋は少し腰を浮かした。
「あんたそのお金で今日おごろうと思ってたわけ!最低なんですけど!早く返してきなさいよ!」
完全にゴミを見る目で怒る秋。テーブルがガタッと揺れる。
「いや流石に返そうとはしたけど受け取ってくれなかったの!まじで!」
嘘だけど。全く返す気なんてなかった。現金の力恐ろしい。
「嘘つけ。あんたが返すわけないから。今日は私が出すから。そのお金は絶対返しなさいよね!」
ちっ、読まれてたか。念を押されてしまった。
落ち着くためか秋はお酒を一口飲み座りなおす。そしてぼそりと、
「両想いで付き合った訳じゃないんだ……。」
と、呟く。耳はいい方なので聞こえてしまう。どういう感情で言ったのかはあまり考えないでおこう。勘違いしたら終わりだ。
「まぁでも説明はこんな感じかな。お金貰ってカップルになった後すぐモブの所戻ったし。」
「あんた久しぶりの彼女がそんなんで言いの?恥を知りなさいよ……。」
呆れた声を出す秋。俺だってあの流れで彼女が出来るなんて思ってなかった。
「別に高校生とかじゃないからこんな事言うのもなんだけど、そんな好きでもない相手と付き合うなんて相手が可哀想だよ?」
少し真剣な目で秋は諭してくる。そんな事知ってる。
「分かってるよ。でもこれから好きになるかもしれないじゃん?最初から好き同士のカップルの方が珍しいし!てかあの子結構胸でかい……。」
始まりはどうであれ小鳥遊の容姿はドストライクなのだ。
すぐに結婚するわけでもなし性格は付き合ってから知っても遅くはないと思う。そこで合わなければ別れればいいだけの事。
「それもそうだけど……、まぁ私が口出しても仕方ないけど……。」
秋はそれでも納得できない顔をしていた。気持ちはわかる。
「寂しいんだろ?」
「え?」
秋は大げさに驚いた、その頬は赤く染まっている。こいつの気持ちは大体わかっている。見て見ぬ振りはできない主義だからな。
「大丈夫!彼女ができてもお前とは2日に一回絶対飲みに行くから!安心しろって!」
毎日のように飲みにいける友達が一人いなくなって寂しいって感情がひしひしと伝わってくる。短くはない付き合いだ。彼女できたくらいでは蔑ろにしないさ。
「……ぷっ、そうね。あんたがいないとお酒を飲む機会が減って寂しいわ。」
と秋は笑ってみせた。その笑顔からは朧気な喜びが汲み取れた。
それからは普段通りに何気ない会話でお酒を楽しんだ。
秋とお酒を飲みかわすのも小鳥遊と付き合った事で減るのは少し寂しい気もする。
こいつも多分同じ気持ちだとは思う。その温度は違ったとしても。
お会計を済ませて外に出ると夜もすっかり深まり周りはネオンで輝いていた。
お互い駅からは徒歩で帰る事ができるが一応家まで送る。成人してても女の子は女の子だからな。
「モブご馳走様なー。給料入ったらお返しすっから。」
「3倍返しでいいわよー、回らない寿司希望!」
秋も酔っているのかニコニコしながら冗談を言う。冗談.....だよな?
暗い路地を抜けて明るい道に出る、ここからまっすぐ歩くとすぐ秋の住んでるマンションに着く。
道に出ると秋は駆け足で前に出た。
「ここまででいいわよー。一応彼女持ちなんだから家まで来ちゃまずいでしょ?」
振り返って秋は言う。
「いや別に気にしないけど。大丈夫なん?」
「大丈夫大丈夫!それとも何?家まで来たいの?」
笑顔で秋は聞いてくる。そんな気使わなくてもいいのにな。
「それならいいわ。気をつけてな。また明日学校で。」
俺は秋に手を振り帰路へと就く。夜の冷気が火照った体を気持ちよく冷やす。
明日から本格的に始まる小鳥遊とのカップルと言う関係に少しの不安を持ちながら。
そこに1通のメールが入る。
駅から近いオートロック型のマンション。家賃もあまり高くなく学生には人気のマンションだ。
友達と遊んでいたのか夜遅い時間にそこに入ろうとする女の子が一人。
その女の子に声をかける。これもまた女の子。
「お楽しみでしたね?」
栗色の髪が揺れ、黒色の髪がそれを静かに見つめている。




