その3
肌寒い風が体を冷やす。秋こと私はコートの襟を少し立てて顔を埋めていた。
「うー寒いー、久我まだぁ?.....今日は熱燗のんじゃおっかな。」
校門の壁にもたれながら久我の帰りを待つ。小鳥遊って子と喫煙所に行ってから10分くらいが経ったくらいか。
(ちょっと遅いかなー、なんの話してるんだろ。)
あの小鳥遊って子と久我知り合いなのかな?もしかして告白とか?いやでも自己紹介とかしてたくらいだしそれはないか。でも久我が他の女子と絡むのってなんか嫌だな。
久我とは入学式に知り合ってからの仲だ。本人は入学式で知り合ったとは思ってないだろうけど……。
よく話すようになったのは大学が始まって2週間くらいしてからだろうか。お互い取る授業が被っていてよく見たため私の方から声をかけた。
久我は言う事と考えてる事のクズっぷりは一級品だけど根っこの部分が優しくて意外といい奴だった。そんな久我を理解できる者は少なく大学では私と後一人くらいしか久我の親しい友人と呼べる者はいないと思う。
最近はあまり学校に来ていないけど一回の頃は普通に来てた。何があったかはわからないけど久我の事だから純粋にだるいだけなんだろうな。
夕日もすっかり沈んで辺りの街灯の光がポツポツと灯っていった。
その光を目で追いかけていると、遠くから近づいてくる足音がした。
足音の方を見ると久我と小鳥遊さんがくっついて歩いてきているのが見える。ん?くっついて?
久我の顔を見るとニヤついてはいるけど何か腑に落ちない、そんな顔をしていた。
一方の小鳥遊さんは満面の笑みで久我にべったりなのである。
そのカップルのような雰囲気を見ているとどす黒い感情が一気に押し寄せてきたのを感じた。その感情を悟られまいと私は必死に表情を作ってから彼らに声をかけた。
「遅い!まぁ15分くらいしか立ってないけど。もう用事は済んだの?」
胸が痛い。一秒でも早くその絡めてる腕を外してほしい。っていうかなんで腕絡めてるのこの子?痴女?
久我は私のその視線を感じたのかあははとわざとらしい笑いを上げてから話し出した。
「あーその、俺この小鳥遊さんと付き合う事になったわ。うん……。」
「え?」
そう、突然私の初恋は終わりを告げた。
久我の事が好きとはっきりと思った事はないけど、こうして初めて私は久我を好きだったと自覚する事ができた。
「晴れて久我君の彼女になりました、小鳥遊です。秋さん.....でしたっけ?久我君と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね。」
そんな私の事などおかまいなく久我の隣の小鳥遊さんは牽制の意味のよろしくをしてきた。
「う、うん。よろしくね。小鳥遊さん。」
精一杯の愛想笑いで返事をする。
そんな小さなメンタルファイトを繰り広げている事を多分知りもしない久我はわざとらしい声を上げた。
「あっあー、でも今からモブと飲みに行くんだけど付き合ったから行けないなー。3人で行くのはモブにも小鳥遊さんにも悪いし……、でも飲みに行きたいなー!」
一応なったばかりだけど彼氏としての自覚はあるようで小鳥遊さんに許しを乞う久我。
その時私は見逃さなかった。小鳥遊さんの表情が一瞬変わるのを。見間違いではない。一瞬だけども彼女の表情が無になったのだ。
そんな表情をした事など無かったかのように彼女は笑顔で返事をした。
「前から約束してたんだよね?私は平気だから行ってきても大丈夫だよ。」
何その遠回しな大丈夫じゃないアピール。久我がそんな事わかるはずないでしょ。何にも久我の事わかってないな。
「本当に!?ありがとー、寛大な子で助かったわー。」
ほら見たことか。こいつ基本馬鹿だからそんな事気にしないんだろうな。それか私だから大丈夫って言う信頼か。これはポジティブ思考すぎるか、無いな。
「褒められた……、嬉しい……。」
小鳥遊さんは褒められた事が嬉しかったのかそう呟いて両手で頬を包みデレデレしていた。
「じゃあ私は用事があるからもう帰るね。秋さん久我君をよろしくね。久我君もまた明日ね!」
そういうと彼女はスキップしながら去って行った。その後ろ姿は育ちのいい無邪気なお嬢様のように見えた。
「じゃあいこーぜモブ!今日はおごってやるよ!」
金欠のくせに調子のいい事を言いながら歩き始めた久我の2歩後ろを私もついていった。




