その37
中に戻るとやっぱり小鳥遊さんがいた。いや、いるのは当たり前なんだけど.....。ワンチャンいなくなってるかなって、ね?
なんだか退屈そうにグラスをなぞってたけど、扉の音で私に気づいて笑顔になる。
「あ、おかえりなさい。1人は退屈でしたよー。」
.....何このノリ?誰だ?
「あ、ごめんごめん。後、久我はタバコ買いに行ってくるってさ。」
席に戻りながらそう話す。いい感じじゃない?私ポーカーフェイスだからなぁ。こうゆう動揺を隠すの本当得意なんだよなぁ。と、座った途端思い切りグラスを倒してしまう。
それを見て小鳥遊さんはくすくすと笑う。
「別にそこまで怯えなくて大丈夫ですよ。マスター、新しいソルティドッグを秋さんに。」
私の零した所をササッとおしぼりで拭いて綺麗にしてくれた。え?友達なのこいつ?
「ご、ごめんなさい。いや驚いてね。」
「その様子だと久我くんから聞いた感じですね。疑ってるか分かりませんけど事実ですよ。もう大丈夫です。」
眩しくはにかむ。大丈夫とは私の命の事だろうか。てか命危なかったの?ここ現代日本だよね?
新しい飲み物が運ばれてきて少し沈黙が流れる。久我が少し遅いかな?あいつどこまで買いに行ったんだ?うーん、沈黙に耐えきれない!
「久我遅いねー。タバコだけ買うのにどんだけかかってんのかな。」
笑いながら話しかけると、
「あ、今かな?」
そう呟くと体をこちらに向ける。何が今なんだろ?
小鳥遊さんの真剣な表情にたじろぐけど、恐怖心はなかった。考えてみれば見た瞬間以外は緊張してるだけで、前のようなどす黒い雰囲気は感じ取れていない。
手を両膝に置いてゆっくりと頭を下げた。綺麗なお辞儀になんだか育ちの良さがわかった。
「色々と迷惑かけてごめんなさい。」
その言葉に嘘偽りなどないと、そう思えるほどに綺麗な謝罪だった。
「あ!頭を上げて!そんな!謝られるほど私迷惑被ってないから!確かに、ちょっと怖かったけど.....。でも急にどうして?」
ゆっくりと顔をあげる小鳥遊さん。やはりその顔からも本当に申し訳ないと思ってるんだと感じる。
「前まではああいう事は正しいと思ってたんですよ。好きな人取られたくないって思う気持ちみたいな?でも、この前間違ってるなって気付かされたんです。」
てへへと頬を擦りながら笑う。その頬は少し赤くなっていた。
「何があったか聞いてもいいかな?やっぱり別れたなんて信じられないしさ。」
決してこれはいい意味じゃないけどな。小鳥遊さんが別れを受け入れてる事がやっぱり信じられないのだ。
「そんなに楽しい話じゃないですけど.....。まぁ秋さんには聞く資格がありますね。いいですよ.....。」
ジントニックを少し飲み語られる。彼女が愛の形を取り戻した瞬間が。




