その19
私の恋愛劇場に他の女はいらない。それが私ほどの愛を持った女だとしてもだ。そんな女いる訳がないけども。
彼のためなら死をも厭わない。極端かも知れないが私はそれほどまでに彼を愛している。逆にそこまでの気持ちがないと愛とは呼べないし呼ばせない。
でもこれは一方的な私主観の話であって久我くんとはまだこの感情を共有出来てない。だからこの不安定な時期にほかの女がノコノコと私の恋愛劇場に迷い込んで来てしまう。
いち早く私は彼とこの感情を共有して彼にも同じ感情を持ってもらいたい。有象無象の雌共が介入出来ないほどの関係性を作るの。その為ならどんな危険な事だってやる覚悟がある。
家に戻り支度をする。最近の町は安全すぎると思うの。いつだって誰かに見られているという安心感に吐き気を催す気持ち悪さを感じるし。目立たない暗い色の服に顔が見えなくなるほど深いフードを被る。大好きな可愛らしいスカートなぞ邪魔になるだけ。走りやすいジャージで結構。小学校の頃、徒競走で結構上位にくい込んでたから足には自信がある。緊張?ノンプロブレム、2回目なんだし慣れたもんよ。黒いマスクをして、いざ!愛のために!
時刻は深夜。彼らが今飲んでる場所、帰るであろうルートは全てチェック済み。店から出てくるのを待つだけ。不安要素を上げるなら彼がどうアクションを起こすか。一応気休め程度にメールを送って置いたけどそれが上手く転んでくれることを祈る。
カランコロン.....。
店の扉が開く音。2人の男女が楽しそうに出てきた。男が女の頭を触っているのを見て気分が悪くなる。しかしこの感情は良い薬だ。罪悪感を吹き飛ばす特効薬になった。
2人が店の前で別れるのを見て、気休めの作戦が成功したことに安堵しつつ尾行を開始する。
歩く方向を見てルートを確定する。次の角を右に曲がる時が最大のチャンス。じりじりと気づかれないようについて行き、曲がるのを確認して一気に距離を詰める。そして右腕を振り上げ.....、
ガン!!
っと大層な音が細く暗い路地に鳴り響いた。この音はやっぱり聞きたくないな。2度目ですらこの気持ち悪さなんだから一生変わらないと思う。
目の前には倒れた女。指先は痙攣しているのかぴくぴくとしていて、あーっあーとか言ってる。
死ぬのかな?でも動いてるし大丈夫か?頭思っきし殴られた事なんてなかったろうしショックで気絶してるだけかも。まぁここ深夜で人通り少ないけど全く通らない訳じゃないし1時間もすれば見つかるでしょ。それがいい人か悪い人かなんてわからないけど。この女がレイプされようが殺されようが私には関係ない。
足早にその場から立ち去り家路につく。
もし病院に運ばれたとしたら全治何週間くらいかしら?頭打ってるから結構長いんじゃないかな?その間に彼と距離を詰めておかないと。帰ってきた時にはあなたの入る隙間はありません!なんて完璧な作戦なのかしら!あー距離の詰め方考えないと!今夜は忙しいわ!
早朝5時頃.....。
「最近太ってきたからってこんな朝早くに走らせる事ないのに.....。でも文句言ったら怒るしさぁ。いつになったら嫁は優しくなるのか.....。」
小太りの中年一歩手前の男がぶつくさと鬼嫁に文句を垂れながら駅周辺をランニングしていると路地で倒れてる人を見つけた。
「あれ?酔っ払いかな?女の子みたいだけど.....。あのー大丈夫ですか?水でも?」
彼は近づいて瞬時に気づく。地面に飛び散った液体が血であることに。彼女は酔っ払いなんかではなく頭から血を流してる怪我人だという事に。
「うわー!!!人が!!人が!!!そうだ!救急車!!」
一生に見るか見ないかの光景に度肝を抜かれ慌てふためきながらも彼は救急車を呼ぶ。倒れている彼女は不気味なほど静かだった。




