その15
忙しかった時間も終わり、後は団体様が帰るのを待つだけの時間になった。喉元過ぎればなんとやら、終わってみればあんまり忙しくなかったかな?なんて思い始めるのは永遠の謎である。そんな事あるはずがないのに。
やることもなく後輩ちゃんとぼーっとしてるのも楽しくないので秋と少し話そうと思い個室を覗きに行くと、
「おえ?」
素っ頓狂な声を上げてしまったのは急に俺のI.Qが1桁になった訳ではなくちゃんと理由がある。秋と知らん男がなんかいい感じに抱き合いながらキスしてる所を目撃してしまったのだ。周りは酔いつぶれて寝たり携帯弄ってたりの中でキス。ロマンチックの欠片も無いな。
俺の馬鹿みたいな声で気づいたか秋は勢いよく振り返って俺の顔を見ると物凄く悲しそうな顔をした。そんな悲しい顔を見るのは初めてだった。
「ちょっと長谷川くん離れて!お酒の席だからって言っても本当にこれはダメだから。」
強めにそう言って男の背中をバンバンと叩き引きはがす。
「ちょ!痛いっすよ秋さん!もっかいちゅーしてほしいんですか?」
「いらん!まじでいらん!.....私ちょっと外出て風当たってくるから。」
足早に俺の横を通り過ぎて店の外に出ていく秋の背中を俺とその男はじっと見つめていた。けれど同じ背中には見えていないと確信する。男は俺の存在に気づくとお冷三つを頼んできた。何も無かったかのように。もちろん無視して店長に休憩を貰いに行った。
「店長ー。ちょっと休憩行ってきていいっすか?」
「おーいいぞ。てかお前今日助っ人だしもう上がっても大丈夫だぞ。後は清水ちゃんと俺で片付けするし。」
「まじっすか!あざっす!店長マジ大好き!タイムカード即押し案件〜。」
これは行幸、圧倒的行幸.....!!
「ちょっと待ってくださいよ!」
と清水ちゃんならぬ後輩ちゃん。こいつ清水ってゆうんだ、一年ぶりに思い出したわ。
「団体帰った後の片付け手伝うのが義理ってもんじゃないんですか!」
それを言われると困るな。まぁあの量を1人で掃除するのは結構しんどいか。
「生憎俺は義理や人情で生きていくタイプではない。悪いな後輩ちゃん。」
まぁそんな事など関係なく、そそくさとスタッフルームに逃げ込み着替えを済ます。脱いで着てカバン持つ超お手軽。
「お疲れ様でーす!」
元気よく帰ろうとすると後輩ちゃんが俺の袖を思い切り掴んできた。
「チョコレートはどうするんですか!今日じゃなきゃ奢ってあげないですよ!いいんですか?」
そんな約束もしてたっけか。今やどうでもいい。秋の方が重要だ。
「いらんわ。後輩に奢ってもらうほど落ちぶれてないし。じゃ帰りまーす。お疲れでーす。」
後輩ちゃんの華奢な腕を振りほどいてすたこらと店を出る。早く行かねば。
「...この前ラーメン奢らせた癖に.....。」




