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無限の扉とその話  作者: コタツ
2/7

とある永遠のはなし

少し暗い話ですが大丈夫だと思います。

その日は確か北陸の方の…ああ、そうだ。福井でツーリングしたときの話だったかな?

夜も更けてきたから野宿の準備に取り掛かってたんだ。そしたら、偶然、いや必然だったのかもしれない。少しすすけた格好をした男がバイクから降りて、歩いてきた。

見る人が見たら不審者と思われるかもしれない格好だったけど、ほら、旅なんかしてるとさ。一期一会だ、何て言ってお互いのことや悩みなんかを話したりするんだと。

さっきも言ったように俺は人見知りなんだけど、なんとなく話したくなったんだよ。

歳が近そうに見えたってのもあったんだろうな。

俺は声をかけたんだ。


「あなたもツーリングですか?」


彼は少し驚いているようだったが、微笑むと静かに頷いてくれた。



それからは一緒に野宿の準備をした、と言ってもそんな大層な準備じゃなくすぐに終わる。

晩飯を食べるときも彼は何もいらないと言って断った。

意外と夜はすることがなくていつもはスマホなんかをして時間を潰すんだけど、相手の人に失礼だと思ってね。

自然と俺は語り始めていたよ。


どんなところに行ったとか、あそこに行く予定があるとか、日ごろは何をしているだとか。

話しているうちに気持ちが盛り上がってきたのかな。

誰にも話したことがないような悩みとか、不安なんかも聞いてもらったんだよ。初めて会った人でもう会うことがないから言えたのかもしれないな。

え?どんなことかって?まあそれはいいじゃないか。

その悩みも後で聞いた彼の悩みに比べれば小さいものだったんだから。

本当に小さかったんだよ…


とりあえず俺が話したいことは終わって、それからしばらくは二人ともしゃべらなかったんだ。

俺がうつらうつらとしてきたとき、彼は静かに話し始めた。


「私は、長い、それは長い間、こうして旅をしています。きっとあなたが想像もできないほど。」


彼の方を向くと今まで見たどんな老人よりも歳を重ねているように見えた。

驚いて目をこすってから見てみると元の顔に戻っている。


「え?」


「私はある罰を背負っています。その話をきいてもらえませんか?」



彼の話をまとめるとこんな話だった。

昔、まだ彼が正しく歳を重ねていた頃の話。

罪を犯した若い女性が役人に縛りあげられ連れていかれるところに遭遇したらしい。

その女性は無表情ながら口に何かを入れ咀嚼していたと。

彼はその姿に激しい怒りを覚えた、といっていた。その原因が何かはよくわからないけど正義感などでは決してないとも。


「何を考えて口にものを入れている!早く吐き出せ!」


それなりに強く叩いても口から吐き出すどころか笑っていたことをいまでも思い出すそうだ。

突然縄を振りほどくとその女性は口移しで彼に何かを食べさせようとしたらしい。

驚いた彼はそれを飲み込んでしまった。



「それは…いわゆる人魚の肉だったんです。」


眠気なんて吹っ飛んでいた。


「人魚ってあの。」


「はい。有名な話だと八百比丘尼とかですね。でも、私が食べたのは人魚の肉などではなく、異界の生物の肉だとか。まあ、詳しいことは存じ上げておりませんので人魚の肉と思ってきいてください。」


「ということは貴方は一生…。」


「年をとることもなく、死ぬこともありません。期限付きですが。」


その言葉を聞いて俺は安心したんだ。次の言葉を聞くまでは。


「その期限というのはいつまでなんですか?もう相当な年月を過ごしたんじゃ…。」


「彼女はこのように言っていました。」


俺は生唾を飲み込んでいた。


「私はこれから異界に行く。帰ってくるまでお前はそのままだ、と。その直後、彼女は衣服を残して消えてしまいました。何故かわかりませんが、役人は彼女の存在を忘れてしまったようです。他に彼女のことを知っている人がいるかもわかりません。」


「…。」


正直言葉が出てこなかった。オカルトなんかは嫌いじゃないが、あくまで創作物として楽しんでいるだけ。

人魚の肉だとか、異界の肉だとかいわれても一切信じることは出来ない、はずなのに彼の言葉が嘘だとは思えなかった。

それほど彼に見た幻影は本物のようで、彼の語りには重みがあった。



それからどれくらい経ったのだろうか。朝日が差してきて咄嗟に目を覆った。


「私は長い間旅を続けています。有り余る時間を潰す目的もあるのですが、他の人にはないものを折角与えられたのです。有効に活用しなければ。」


不老不死になんてなったことはないから、同情したなんて言えない。

それでも彼が重荷を背負ってることぐらいはわかったんだ。


「ここには一年に一回来てるんです。私の故郷なんですが、ここはいいところです。どんなに時代が流れても変わらない。」


その言葉は彼が言うには痛々しすぎた。


「…この世界の全てのものがいつか終わりを迎える。でも、変わらないものがあってもいいんじゃないですか?例えそれが時代遅れだとしてもそのことが支えになる人はいると思うんです。」


彼は目を開くとすぐにスッと細めた。


「ふっ、君に話して良かったよ。」


きっと、俺も彼も笑っていた。

朝日はもう眩しくはなくなっていた。



その後、彼は俺と会った時と同じようにバイクで去っていた。

突然姿を消したわけでも、時空をどうにかして移動したわけでもなく、空を飛んだり、何かに変身するわけでもなく、俺と同じようにバイクを使ってだ。



彼とまた会えると思うかって?

さあどうだろうね?もしかしたら彼女とやらと会えて時の呪縛から解放されたかもしれないし、未だに何処かを彷徨い続けているかもしれない。

でも、会わなくてもいいと思うんだ。

俺は彼のことを忘れないし、彼も彼女のことを忘れない。

それでいいんじゃないかな?


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