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街カフェ バージニア  作者: 畑々 端子
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梅雨明け

 梅雨が明けた。

 

 ほぼ同時に試験が終わり、私は彼女にバージニアに居る旨をメールした。


 梅雨が明けた箱庭の情景には紫陽花の色がなくなっていて、代わりに向日葵の色が濃くなっていた。あんなに重たそうだった雲が随分と軽く、湿度のない風が撫でるように半袖の端を揺らした。


 いずれにしても、私が見ている風景はいつもと違っていた。今日に限って彼女が見ている風景を見ているのだ。2人分の距離、1メートルにも満たない距離。


 やがて、水色のTシャツ姿の彼女がやってきた。


「お疲れ」と白々しく言う私の前に彼女は無言で佇んでいた。彼女が得意とする無言の圧力。


 括った髪の先が何度か揺れた頃合いで、私が彼女の定位置を譲ると、やっと、手提げを置いて店内に注文をしに行った。


「ふう」と眼鏡をテーブルに置いて、グラスを額にあてる。


「そんなに難しくなかっただろ?」


「寝不足なだけ」


 すぐ隣で彼女は両足を放り出して眼を閉じていた静かに呼吸をしていたが、やがて、それは寝息にかわった。


 深夜の2時3時にメールをしていた弊害がここにある彼女を象徴している。

 白いロングスカートから覗くサンダルと爪の伸びた指先。Tシャツから伸びた思った以上に細くてきめ細かい腕と、はじめて見る横顔。

 微睡む彼女のすぐ横で、私は何をするでもなく少しの焦燥感と幸福感を交互に感じていた。


 たった30センチのほどの距離を詰めるのに随分とかけたものだ。連絡先を交換するのに随分とかかったものだ。部屋に行くのは少し早かった気もする。


 明日から長い、夏季休暇に入る。


  

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