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街カフェ バージニア  作者: 畑々 端子
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図書館にて


「岩波文庫って私にはやっぱり合わないみたいで、眼がとても疲れるの」 





 梅雨の晴れ間。





 夏空を思わせる快晴の下。私と彼女はバージニアではなく大学の敷地内にある付属図書館の2階で何をするでもなく、佇んでいた。私が、読みかけの岩波文庫を取り出した時に、彼女ははっきりとそう言った。





「えっ、好きなんじゃないんですか?」





 私が取り出した文庫をぱらぱらとした後、眉間を押さえる彼女にそう言った。





「いえ、好きとか嫌いとかではなくて、ただ読んでいると賢くなるかなって思って」





 私自身が今までに抱き続けた淡い期待と、彼女と何かを共有しているという自己満足感が、音を立てて瓦解した瞬間だった。


 


 その後、私はすぐに読みかけの岩波文庫を返却した。






 それでも梅雨に晴れ間は続いた。前半に降りすぎたのか、6月の下旬からは空梅雨が続いた。





 私と彼女は、バージニアではなく図書館で時間を潰していた。変わったと言えば、彼女が「声が遠い」と言う理由で隣の席に移動したことと、私がハリーポッターシリーズを読み始めたことくらいだろうか。


 バージニアに行ってもよかったのだが、いつの間にか、[雨の日はバージニア]と言う暗黙の規則のようなものがあったように思う。





 ハリーポッターを借りて読む私の隣で、彼女は携帯でテトリスをしてみたり、岩波文庫を読んでいたりしていた。





「ハリーポッターって子ども向けよね? 面白いの?」





 正直にハリーポッターは面白かった。だから、私は割と集中して読んでいたのだと思う。第1巻を読み終えたところで彼女が私にそう聞いたので、





 私は「面白いです」と答えた。





「眩暈なくらいにすごいギャップ感……」私から本をとって開いて彼女はそう呟いた。





 確かに岩波文庫の漢字の量からすればギャップは否めない。だが、物語の本質は漢字の量ではない。


 だから、





「読まず嫌いは損をすると思う」私はそう言えたのだった。


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