表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
街カフェ バージニア  作者: 畑々 端子
3/25

土砂降りに日傘


 その日、バージニアに行くと、彼女の髪の毛は濡れていて、まるで烏の濡れ羽のように艶めいていた。



 単純に言えば濡れていたのだ。



 そして、いつもの席に腰を下ろすと、いつもの場所に腰を下ろしている彼女が呟くように言った「ブラジルの人は雨の日でも傘をささないって知ってましたか」と。





 目の前の土砂降りの情景を見て私は「程度によると思います」とだけ返事をした。





 すでに差障りの無い雑談はしていたから、彼女が私と同じ大学で同じ学部、おまけに同回生であることは知っていた。だから、履修講義もほとんど同じで、大凡、サボる……もとい、バージニアに出掛けるタイミングも計り知れた。


 


「こんな市内に降っても仕方がないですよね」





 これだけ連日、雨続きだと言うのに、水不足だと言うニュースの話題からの私の発言だった。話題に困っての苦し紛れの話題。






 彼女は携帯の画面を見て、何も答えないでただ曇天を見上げていただけだった。





 やがて、次の講義に出席するためには、そろそろ戻らなければならない時刻がやってきた。しかし、雨脚は衰えるどころか私たちをあざ笑うように、むしろ酷くなった。風に撫でられた雨粒がテーブルを湿らせたし、タイルに跳ねた雨粒が足元まで届くくらいに。


 


 不思議だったのは、土砂降りにも関わらず、空を見上げると曇天の背景が見えるばかりで落ちてくる雨粒はまるで見えない。とても皮肉ではあったが、不思議だと思った。





「次の講義には出ないんですか?」と彼女が聞いたので





「この雨じゃ、ビニール傘じゃ心もとないです」と私は返事をした。





「次の講義、履修してないんですか?」





 時間を気にしているから、きっと履修している。ある程度の確信をもって私はあえてそう質問をした。





「これ、日傘と雨傘と兼用なんですけど、水が浸みてしまって」





 彼女はそう言いながら、色の変わってしまった靴のつま先で水分を含んで色を濃くした傘を何度かつついて見せた。


 それはもう、「役立たず」と言わんばかりに。





 その講義に関して、私はすでに何度か欠席をしてしまっていたから、今日の欠席はとても痛かった。出席点は絶望的となった。





「傘って結構、高いんですよね」と再び、つま先で日傘をつついた彼女との新しい束の間を思えば、それは些細な事でしかなく、





 むしろ、私は遣らずの土砂降りに感謝さえしていたのだった。 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ