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街カフェ バージニア  作者: 畑々 端子
25/25

これからと

 あれ以来、バージニアには本当に行かなくなった。意識をしたわけではなく、なんとなく、ただ何となく。


 そして、私も変わり街も変わった。


 寂れていた商店街や奈良町は観光客の増加を受けて、活発に改装を進められ、今ではニュースで特集が組まれるほどである。


 それでも私には恋人と言う存在は居なかった。それだけは、不変的なところが嘆かわしい。もちろん、新しい出会いもあった。そして、彼女のことを引きずっているわけでない。


 一筋縄で説明などできない、種々雑多の果ての現在であるから、仕方のない話だ。



 5月の連休の中日、私は県立美術館へ出掛けた。


 丁度、好みの画家の新作の展覧会が催されていたからだった。


 

 そして、その久方ぶりのときめきは、気まぐれな風のように訪れた。

 

 水色の日傘を差したその人は、すらりとした体躯に白い長袖のブラウス、空色のロングスカートの端と黒髪をよそ風になびかせ、ワインレッドの皮サンダルの踵を鳴らしながら、姿勢よく歩いていた。


 顔こそ見えないながら、きっと端正な顔立ちときめ細かい白い肌に違いないと勝手に思った。とにかく雰囲気から醸す美人であると私は確信をしたのだ。


 あまり見つめてしまていたのだろうか、女性は不意に日傘を上げた。


 その仕草に私は慌てて顔をほぼ反対方向へ向け、これをやり過ごした。


 つもりだった……


 だが、再び女性の方を向くと、女性が私の方へ歩いてきていたので驚いた。なぜか、逃げようとすら考えた。

 だが、私の中にある下心の一片がこれを阻止して、その場に足をとどまらせたのである。素敵な運命の出会いになるかもしれない……と言う淡い期待。


「あのすみません。ひょっとしてOOさんですか?」


「えっ、えぇ!」


 日傘を畳んで、女性が冷静に確信をもってした質問に対して、私は驚嘆の声と表情で返事をするしかできなかった。



「4月から8月までこっちで研修なの」  


 違う意味で運命の出会いだった。


 駅前の喫茶店に入った私達は、それとなく近況などを話していた。


 私は何が何やらわけがわからなかった。9年ぶりに彼女と出くわした奇跡に近い偶然に、そして、同じ人に再び一目で魅入ってしまったことに……


 彼女が「奈良町に行かない?最近すっごく変わったみたい」と言い出し、「一昨日だったかな、ニュースの特集でやってたのよ」と続けて言った。


 喫茶店から出た私達は、奈良町界隈を散策をした。変化後の奈良町へは私もはじめてだった。だから、寂れた変化前を知る者としては、素直に町並みの変貌ぶりに、活発な人の往来に驚いた。


 それから、大学生の時に2人で入った洋食店になつかしさ余って入り、遅めの昼食をとった。


「それで、歳の近い先輩彼氏さんとはうまくいってるの?」


 腹に据えていた疑問である。年齢からして、すでに結婚までしているかもしれない。そうも思ったが、意外とすんなりと聞けた。


「ん?何のこと、それ?」


「就職したてのとき、、言ってたろ。年の近い先輩が誘って来るって」


「あぁ、その人、職場でも有名な新人キラーで、毎年、新入社員の女子に声掛けまくってるの。無視してたら、別の先輩が教えてくれた」


 エビフライの先を少し齧ってから彼女が眉間に皺を寄せてそう言った。相変わらず、肌が白くて薄化粧で、不機嫌な様が露骨で。


「彼氏とか絶対ありえない」続けて言う彼女はなぜかエビフライを眼光強く見ていた。


 エビフライに罪はないと思いつつ。


「あぁ、そうなんですね」とりあえず、私はそう言った。


「そんなことより、そっちはどうなの?相変わらず女の子みんなに優しくして回ってるわけ?」


 エビフライに向けられていた突き刺さる眼光が私に向けられた。


「なんかすごく、人聞きの悪い言い方するな。女の子に優しくするのは男子として紳士としては当たり前だろうに」


「そういう優しさじゃないんだよね。あなたの場合は」


 彼女も据えかねていたことがあったのだろうか、私の冗談に目もくれずさらに眼光を刺してくる。


 その一言を号令に、彼女は堰を切ったように、この9年間の私の女性遍歴を事細かく聞き、その随所で駄目出しを相当数行った。


 不倫がバレた時はこんな風なんだろうかと思った。


 場所ををオープンカフェに移して、最初に私が彼女に「まだ結婚してないの?」と1つだけ聞いた。


 すると、


「彼氏もいないのに、結婚なんてしてるわけないないでしょ」と左に薬指を突き出して見せてくれた。


 聞きたいことを1度に答えてくれて私としては助かった。


「お互い寂しいな」


 私がしみじみとそう言うと、彼女はどこか遠いところを見ながら、「職場で彼氏いないの私とお局さんだけなんだよね」とつぶやくように言う。


 人は変わる。大学の時彼女は決してそんなことは言わなかったし、そんな話題は淡泊に一刀両断していた。

 彼女の瞳に、一抹の寂しさのような光が見えたのは、私の先入観だろうか。


 少しの沈黙の後、私は今更と思いながらも、バージニアで見かけた2人のことを話した。


「へぇ、なんかいいね。そういうの。でも、私達の居場所がなくなったみたいで寂しいけど」


「まあ、もう9年も前の話だから」


「その2人は居なくても、違う2人の物語が始まってるよきっと」


「そうかな、そうだと良いな」


「店長さん元気かな。ちょっと会いたくなっちゃった」


「根本的にバージニア自体あるのかな」と苦笑する私。


「どうしてそんな夢の無いことを言うの?そういう後ろ向きなところが駄目なんだってさっき言ったでしょ」


「はいはい」


 忘れようとも思わず、忘れたいとも思わなかったバージニアでの思い出。

 

 宵の口過ぎるまではじめて出会った時から順々に、お互いにどんな心境だったのかを話し合った。お互いにかみ合っていなかったことに笑いあったし、こうして良い思い出として語れる喜びを確認し合った。


 どれだけバージニアンの思い出話しに花が咲こうとも、彼女も私もバージニアに行こうとは言わなかった。


 夜のとばりが降りる頃。駅前まで歩く途中で私が思い出して、「最初見たとき、魔女みたいだって思った」と言うと、彼女は眼を丸めて「それ前にも聞いた」と肩をこずいた。


 別れ際、私は静かに連絡先を聞いた。


 すると、


「そういうのが遅いの今でも変わらないのね」と彼女は苦笑いを浮かべ、「もう聞いてくれないのかと思った」と言った。


「ごめんよ。奥手なもんで」


「なら言えばいいだろ」大学生の頃の私なら、ついそう言ってしまったかもしれない。私も少しは大人になれただろうか。



 ラインとメールと電話番号を交換してその日は彼女と別れた。





 縁は異なもの味なものと言うが、本当に面白い。まさかこんなドラマのような小説の中のような再会を自分自身が経験をするなんて。


 その日から1ケ月と少し、また彼女と毎日、数えるほどのやりとりをラインでしている。

 

 不思議と9年の時を経て、あの頃よりも彼女のことを理解できているような気がする。


 未来のことはわからない。


 だが、彼女に話したいことが残っている。



 絶対に話そうと決めているのが、秒速5センチメートル。



 



 もう1つは……



 伝えるかどうかはまだ決めていない。


 これから、それを考えるかどうかも、まだ決めていない。


 


    


                             ~終~

 

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