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街カフェ バージニア  作者: 畑々 端子
17/25

クリスマスディナー

 クリスマスにはクリスマスらしくクリスマスじみたことを。その時々の旬を大切にしなければならない。


 地下の駅舎は帰宅を急ぐ人、待ち合わせる人、移動をする人で混み合っていた。そんな人混みの中に彼女を残して私はコインロッカーにプレゼントを取りに行く。


「(はぐれた、どこにいるの?私は、改札近くの柱のところに居る)」と彼女からのメールを確認して、何食わぬ顔で彼女のところへ行った。


 夕食の事は帰りの特急で話した。ただし、それがクリスマスディナーであることは伏せてある、だから、


「お店、空いてるといいけど、今夜は難しいと思うよ」と彼女は移動中も心配をし続け、「居酒屋とかはなしね」と私を見た。


 事前に地図で入念に場所は確認済みだった。最寄駅からさらに増えた人混みの中を進む。迷いなく、迷うはずもなく。


 イタリアン。そしてセミフォーマルコード指定のお店。


「ここ?予約したの?」


 躊躇なく店内に入って行く私の後ろでは彼女のそんな不安な声が聞こえたが、「もちろん」と一言だけ告げると、「えぇ」と声を漏らしながら彼女も薄暗い店内に入った。


 予約席に案内されると、すでに多くのカップルが食事をしながらクリスマスイヴひと時を楽しんでいた。

 私も慣れていなかったが、彼女もそれは同じで、上着を預かりに来てくれたウェイターに上着を渡す際、何度も会釈を繰り返す彼女はさらに絵に描いたような不慣れ感が出ていて可愛らしかった。  


「こんなの聞いてないよ」彼女が恥ずかしさ余ってか、不機嫌に言う。


 薄紫色のブラウスに純白のフレアスカート。彼女らしくアクセサリーは付けていなかった。


「だって、言ってないもん」


「びっくりするじゃない。あーちゃんとした服装で来てよかったぁ」


 彼女は心の底から安堵のため息を吐いた。


 なんでも、伊勢神宮に行くと決まった日の夜、実家に帰郷が遅れる旨の連絡を入れた際、その理由をしつこく母親に聞かれて、24日に伊勢神宮に行く事を話すと、加速して根掘り葉掘り聞かれ、


「男の子と行くんなら、髪の毛とかちゃんとしてもらって、女らしい格好して行きなさいって、怒られた」らしい。


「いつも、女らしい格好してるのに」と続ける彼女だった。


「じゃあ、お母さんに言われなかったら、いつもの格好で来たってこと?」


「まあ、24日だから。いつもよりはちゃんとしようとは思ってたけど、朝から美容院にはいかなかったと思う。」


 バッグから取り出したハンカチでを首元に当てた彼女は「それにしても驚いたあ」とハンカチで顔を仰いでいた。


「さて、今日はなんの日でしょうか」


「12月24日、クリスマスイヴです?」彼女はハンカチを膝の上に置くと、首を傾げた。


「今年1年いい子にしていたので、プレゼント」


 私は照れ隠しにそんなことを言いながら、鞄に潜ませたプレゼントの紙袋を彼女に差し出した。


「うそ…私用意してない……いい子じゃない」


「とりあえず、開けてみ」

 

 小さな紙袋を受けとったまま、私の顔を見つめたまま硬直した彼女にそう言った。


 プレゼントはシンプルなトップにダイヤをあしらった清楚感のあるネックレスにした。ブランドに疎い私はとりあえず、名だたる百貨店に赴いて見て回り、好意的に品選びに協力してくれた店員さんの居るジュエリー店で購入した。


 彼女は「私、本当に用意してないのに、こんなのサプライズ過ぎるよ」と譫言のように繰り返しながら、慎重に包装を解いて行った。


「本当にありがとう」


 幾分か潤んだ瞳がでこちらを向けながら、彼女は白い箱に姿よく収められたネックレスを見せながら私に言った。


「喜んでもらえたなら、選んだ甲斐がありましたとも」


 私は頭を掻きながらやっとそう言えた。


 その後、彼女はしばらくの間、箱におさめられたその姿を見ていたが、やがて、思い出したようにネックレスを取り出すと、慣れない手付きで自分の首元に飾った。 


「どうかな」


 ブラウスのボタンをもう一つ開けて聞く彼女。


「すごく似合ってる」照れる私。


 私の想定では、すでに料理が運ばれてきているはずだったのだが、混み合っているせいか、まだ料理は運ばれてきていない。


 この沈黙をどうしようか困ってしまった。


「ネックレスしてきてなくてよかったよ」私はふと思い浮かんだことを言った。



「この服に合うの持ってなくて。と言うより、普段アクセサリーつけないから持ってないんだよね」


「なんかそんな気はした」


「イヤリングくらいは買おうかな」周りを小さく見回してから、彼女が言った。


「ピアスじゃないんだ、イヤリングって久しぶりに聞いた気がする」


 私がそう言うと、彼女は自分の耳たぶを触りながら「だって、痛いでしょ。私、耳たぶ分厚いから絶対、開ける時痛いし、すぐに塞がると思うの」と言うのである。


「そうかな?普通だと思うけどな」


「絶対そうなんだって」


 断固として彼女が言うので、私が身を乗り出して彼女の耳たぶを見ようとしたタイミングで前菜が運ばれて来た。


 ほぐれてきた彼女と私の緊張が俄かに高まったことは言う間でもなく、私は彼女の耳たぶを見る機会を失ってしまった。


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