彼の理想と現実
この世界で大事なことは多角的な物の見方にある。
個に固執すれば何も見えず、何かを無くすこともあるかも。。。
晴天:もうそろそろ寝るわぁ^^ノ
メル:あい^^おやすみ (つ∀-)オヤスミー
bow:おやすみ〜
ハル:じゃな
これはMMORPGというパソコンゲームのチャット画面だ。
一つの仮想世界に大人数のユーザが集まり、モンスターを倒したり
アイテムを売ったり、友達とお喋りしたりして遊ぶ。
こういったゲームは近頃流行っていて、幅広い年齢層に人気がある
顔も知らない人との繋がりは、画面上に映し出される文字とキャラだけだが
各人がそのキャラになりきることで現実社会以上の関係が生まれることも多々ある
実際何度か誰にも言えないような事を相談されたこともあるし
ゲームで知り合い結婚した人、、いやキャラも何人か知り合いにいる
俺はこの(英雄オンライン)にすっかりハマっていた。
会社が終われば同僚からの誘いも断り
毎日遅くまでゲームをしている。
おかげでゲーム内では俺のキャラ(晴天)はなかなかの有名人だ。
ゲームの世界は俺を解放してくれる
この世界では年齢など関係なく、小学生と40のオッサンが仲良く遊ぶ
顔もしらない者同士、毎日夜遅くまで時間を共有している。
このゲームのテーマは武侠だ。
古代中国の町並みと、スーパーマンのような技。
レベルが上がると装備できるようになるカッコイイ鎧。
すべてが俺の好みにマッチしている。
俺はオタクではないが、このゲームを始めてからは
確かにオタクの気持ちはわかる気がする。
仮想空間での俺は
ヨレたスーツで働く38歳のダメリーマンではなく
世界中から好かれる最強の戦士だ。
滅多に手に入らないアイテムをいくつも持ち
常に誰よりも早くレベルを上げている。
まぁ、実際はレベル上げは業者に頼み
業者を通してレアアイテムを現金で買っているだけだが。。
このゲームの特徴として(門派)システムがある
これは、気の合う友達が(門派)つまりサークルを作って加入し
(門派)の大会で勝ち抜くというものだ。
俺が門主を務める門派「神撃」は過去に2回この大会で優勝している。
もちろん、優勝できたのは俺の力に依るところが大きいが
俺はそんな事を口にしたことは一度も無い。
当たり前だ、俺は人格者で通ってるからな。
その時も、皆が口を揃えて
晴天さんのおかげだね
晴天さん強すぎ!
と言ってくれたが、そんな事ないよみんなの力だよ
と返しておいた。
ふぅ
と、気がつくともう夜中の3時だ
やばい、また遅刻するぞ早く寝なくちゃ。
俺が38歳にもなってゲームにハマってしまったのは
しょうがない事だとも言えた。
俺が18歳で入社したときは典型的な年功序列会社だったくせに
25歳の時に急に社長が
「これからは実力が全てだ!」
なんて言い出して、以来どんどん後輩に追い抜かれてしまった。
もちろん、実力主義なら俺にもチャンがある!と思って頑張った。
しかし、またしても突然社長が
「これからは住宅リフォームでいくぞ!」
と、言い出して営業セミナーやらマニュアルの導入やらですっかり付いていけなくなった
一応、やるだけはやったが何をやっても裏目にでてこの有様
で、結局は実力主義の方針通り、俺は平社員の一つ上の班長どまり
というか、あの頑張りを評価できない、または気づきさえしなかった
俺の会社はそのうち倒産するかもしれないな
やっぱり上だけやる気だしたって駄目なんだよな
要領の良い奴が得するだけで、本当に努力してる奴が報われないなんて
俺の会社は間違ってるなぁ〜、俺このままでいいのかぁ?
38歳独身、営業部班長。。。。。
趣味、パソコンゲーム
また遅刻か吉沢ぁ!!
「うわ!!」
最悪の朝だ、うるさい課長に怒鳴られてる夢で起きた。
朝7時ジャスト、今日は遅刻しないですむな。
営業部課長・加藤茂 27歳独身 わが社の期待の星。。。か
会社行きたくねぇなぁ。。。
俺は今日も憂鬱になりながらゴソゴソと布団から抜け出た。
3日前に着た、ワイシャツの匂いをちゃんと確認してから着て
よれたジャケットを羽織り、ネクタイを締めながら
誰もいない我が家に「行ってきます」と小さく言って外に出た。