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1、生まれたときからー陸斗Side-


俺と美空は二卵性双生児。

正真正銘の井坂家の長男と長女として25年前に誕生した。


生まれたときは双子だったのもあって、お互いにすごく小さくて保育器の中でしばらくの時間を過ごした。

父さんと母さんはそれは心配したらしい。

でも、そんな心配も必要だったのかと思うほど、俺と美空はすくすくと大きく成長した。


女の子なのに男みたいにサバサバとした性格の美空。

そして男の子なのに、どこか控えめで自信のなかった俺。


双子だったので小さい頃は見た目もそっくりで見分けがつかなかった俺たちは、よく性別を逆に見られていた。

周囲の大人たちから性格が逆だったら良かったのにね~なんて言われたこともあったみたいだ。

その辺の記憶は曖昧だけど。


でも成長するにつれて、俺たちは体や心に変化が表れ始めて、小学校に入るころにはしっかりと男と女、と見た目が分かるようになった。


美空は髪を伸ばして、サバサバとした性格のまま成長。

でも、見た目は美少女だっただけにすぐにクラスのアイドルになった。


俺は小さい頃から女の子みたいと言われ続けたのもあってか、少し屈折して成長。

女じゃないという反発心から、男らしく振る舞おうと乱暴な言葉を使うようになった。

でもそれが何故か女子ウケしてしまい、俺は色んな女の子から「好き」と告白された。


まぁ、小学生の好きなので深い意味などないはず…だったのだけど…。


俺は初恋もまだだったのもあって、好きと言われるなら好きって返しとくか~程度の気持ちで言われた子全員に好きだと返したら、女子の間で揉め事が勃発した。


それは誰が俺の一番の彼女なのかという揉め事だった。


俺が思うより女子は大人だった。


俺がそうして女子に囲まれて困っていたら、そこを救ってくれたのが美空だった。


『陸斗は好きだって言われたから、お返しに好きっていっただけ!!皆同じぐらい好きだから、誰も陸斗の彼女にはなれないよ!!』


美空は女子にそう言って、ふんっと偉そうに仁王立ちしていた。

俺はあのときの事は今でも忘れられない。


クラスのアイドルだった美空に言われて、俺を囲んでいた女子は口を噤んで引き下がった。

俺はこのとき囲んでいた女子の誰よりも美空が輝いて見えた。


やっぱり美空は俺の特別だ。

俺の気持ちを口に出さなくても一番に理解してくれている。


全部言葉にしなくても通じ合う。


こんなの世界中どこ探したって、美空だけだ。


俺はこのときから少し美空を意識していたのかもしれない。


姉弟としてじゃなく、一人の女の子として…


そして、俺の中に決定的な変化が起きたのは小学校も高学年になったときのことだった。


その頃の同級生たちは色恋というものに色めき立っていて、女子は女子で誰が一番カッコいいか、男子は男子で誰が一番可愛いか…という変な話をして盛り上がっていた。


俺たち男子の中ではやっぱり美空が一番人気で、俺は双子として鼻が高かった。

あの頃の俺は美空への評価は俺の評価と同等だったからだ。


でも、あるときそれまで仲の良かった友人が言ったんだ。


『美空と一番仲良いのは陸斗だけど、それは家族だからってだけだもんな。俺が美空のこと本気で好きだって言ったら応援してくれるだろ?』


俺は『家族』と言われたことが、胸の中にひどく重い錘のように降ってきて、返す言葉を失った。


家族だけど…美空は俺の特別だ。

美空だって俺の事、特別だって思ってくれてる。

これは昔からずっと一緒にいるんだから分かる。


でも…、俺は美空の家族で…姉弟で……特別だけど…

こいつのように美空が好きだっていう奴が現れたら、応援しなくちゃいけないのか?


俺も美空が好きなのに…


頑張れよって…これから、ずっと誰かの背中を押し続けるのか…?

それを傍で見てて、俺は平気なのか?







――――――イヤだ


イヤだ!!イヤだ!!!!


イヤに決まってる!!







俺は自分の中の独占欲がむくむくと大きくなって、気が付いたらその仲の良かった友人を突き飛ばしていた。

それから俺は美空に近付く奴が現れないように、必要以上に美空と一緒にいるようになった。


幸い俺の成長期は他の男子よりも早くやってきて、背もぐんと伸びたので、俺が美空の横にいると大概の男子は俺に引け目を感じて寄ってこなくなった。


まぁ…後から聞いた話だけど、俺たちの見た目が他よりも優れていたのもあって、二人並んでいると輝いて見えて近寄れなかったそうだ。



それから俺たちは中学へと進み、俺は美空に対する気持ちがどんどん大きくなっていた。

日に日に女子として魅力を増して輝いていく美空。

俺はそんな美空の一番近くで、一番近い男として傍にいられる事がすごく幸せだった。


『美空。大好きだよ。』


俺は美空への気持ちを気づいた時から、ほぼ毎日美空にそう伝えていた。

美空は家族愛だと捉えてくれていたのか『私も大好き。』と返してくれる。


これを傍から見ていた拓海に何度『気持ち悪い。』と言われたか分からない。



でも、あるときから美空に『大好き』だと言うと、困った顔をされるようになった。

いつものように『大好き』だと返してくれなくなり、俺が美空の変化に不安になっていたら、俺を横殴りにするような事件が起きた。


美空に彼氏ができた。


俺は美空から打ち明けられて心臓が止まりそうだった。


最初は嘘だと思った。

俺と美空は双子だ。

美空に好きな奴がいたなら、俺が一番に気づく。

今までなんでもそうだったんだ。


好きな食べ物、好きな場所、好きな映画にアニメ。

なんでも俺が一番最初に気づいて、俺もそれが好きだった。

だから打ち明けられるまで気づかないなんてないと思った。


でも、美空の横に並んだ男を見て、俺は更に衝撃を受けた。


照れて女の顔をする美空の横にいたのは、俺の親友でもあった鴻上純一だったからだ。

純とは中学に入ってから仲良くなって、俺と同じように女子なんかに興味ないって感じのサバサバした奴だったから気を許していた。

同じバスケ部で、俺と同じように女子に人気があって…、俺もこいつの事は人としてすげー好きだったから、美空と話していても気にも留めなかった。


だから、俺は並んだ二人を見てひどく納得してしまった。


俺の好きな親友だったから…俺は気づかなかったんだ。

俺は自分の中の後悔に泣きたくなりながらも、顔に笑顔を貼り付けると『良かったな。』となけなしのプライドで返した。


良かったなんて思ってない。

思ってないけど、こう返すしかなかった。


俺の大好きな美空。

俺の一番の親友、純。


二人が幸せなら…姉弟の俺が口出す事じゃない。




俺の方が美空のこと、ずっとずっと好きだ。

でも、これは絶対に叶えちゃいけない想いだ。

傷ついた顔をしたらダメだ。


俺と美空は双子だから、美空に勘付かれる。

俺だって美空と同じで普通だって所を見せておかないと…


俺は美空への想いを断ち切ろうと、たまたま俺に告ってきた女子と付き合った。

その子は俺が今まで誰が告ろうとも振ってた事を知っていたので、俺と付き合えた事に毎日幸せそうに笑っていた。

俺の好みを理解してくれて、優しい言葉をかけてくれる、すごく良い子だったってのは覚えてる。


でも、俺に美空への想いがある以上、付き合いも長くは続かなかった。


その子はキスすらしない俺に不満を溜めていたようで、別れると言い出したときにこう言った。


『陸斗君は心が冷え切ってる。私はその心を温めてあげたくて頑張ったけど…もう辛いよ。陸斗君は私のことちょっとでも好きだった?』



<好き>



俺はその言葉を思い浮かべたとき、一番に浮かんだのはやっぱり美空だった。

目の前で泣いているその子を目にしても、ちらつくのは美空の顔ばかりだ。

だから俺は『ごめん』と謝ることしかできなかった。


今、思い返すとひどい付き合いをしたと思う。

だけど、俺は彼女に言われた言葉が胸に刺さって、どうしようもなくイラついたのを覚えてる。


<俺の心は冷え切っている>


もし、本当にそうなら誰が俺の心を温めてくれる?

大好きな子を親友にとられるなんて、無様な負け方をした俺の心を誰が癒してくれる!?


そんな奴、この世にいるわけねぇよ!!


俺はそこから何かが吹っ切れるように荒れた。


俺には心なんて必要ない。

恋愛なんて、その場限りで楽しめばいいし、飽きれば別れればいい。

俺のことを好きだって言って、俺の心を少しでも軽くしてくれるなら同級生だろうが年上の高校生だろうが誰でもいい。


俺には世間一般の普通の恋愛なんて必要ない。



だって、俺の一番はやっぱり美空だ。

純と付き合っていようとそれは変わらない。



俺の大事な家族で、姉弟。

生まれた時からずっと一緒で、それはこれからも変わらない。




ずっと、ずっと俺の好きな人は美空一人なんだ













理系女子の恋ではおちゃらけた陸斗の内面を描いていきます。

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